第29話 下火
8時26分、新宿警察署裏交差点付近。師岡と凪人の戦いも拮抗が続いていた。「充電残量が厳しくなってきた。あの人しつこすぎだよ。」凪人は何とかして戦闘から離脱を図ろうとしていた。しかしどんなに逃げようとしても師岡は追跡を続けてきた。「何で逃げ続けるんだよ。上手く立ち回れば勝てない相手じゃないよ。」鳥部が凪人に助言すると「いや、たぶんあの人は本物の守だと思う。」と凪人は言った。その言葉に鳥部は驚き「何で?」と聞き返す。「今まで多くのアヤカシンと対峙してきたけど、どのアヤカシンも守を倒す事にそこまで熱中してなかった。戦いを楽しむことはあってもちゃんと戦術をたてて攻撃をすることはなかった。」凪人は説明した。鳥部はそれを聞き「今回のアヤカシンは強いんだよ。君の予想をはるかに超える存在かもしれない。」しかし凪人はその意見に「前にラーメンを食べていた時に葛城さんが言ってたんだ。守たちはアヤカシンに対する思いが強い人が多いんだって。だからここまでしつこく追跡してくるんじゃないかな。」と反論した。鳥部はその意見を聞きいれ「でもどうする?凪人が攻撃しなくても相手は攻撃する気満々だよ。」と言う。凪人も思考を巡らせる。すると鳥部を見て思いつく。「もしかして鳥部が証明になるかも。」鳥部は理解が出来なかった為「何で?」と聞き返す。「偽物は守だけでしょ。なら郷獣を連れている守が本物だと主張できるかもしれない。」鳥部はやや乗り気ではなかったが、凪人はダメ元でその作戦を遂行することにした。師岡は凪人を必死に追跡していた。すると再び目の前にいたはずの凪人の姿が揺らぐ。「なんだよ。また幻影かよ。」そう言って師岡は再度索敵ボタンを押し居場所を特定しようとした。その瞬間「液晶回廊 解除」と詠唱し背後で透明になっていた凪人が現れ、師岡の体勢を崩す。師岡は驚きがむしゃらに攻撃体勢を取ろうとする。凪人は「落ち着いて僕の画面を見て。」と言って変身を解除し右腕を見せる。すると画面から鳥部が登場する。「僕が出現するってことは、この人が本物の守って証だぞ。」これを見て師岡は唖然とした。空気が変になったため凪人が再度伝える。「僕は偽物じゃなくて本物の守なんです。郷獣を見せればわかってくれるかなぁって。」師岡は再度郷獣を見る。そして「なるほど。確かに郷獣まで真似る可能性は低いかもな。変身中はスマホから郷獣が出てこれないから。」と師岡は納得した。そして「他の戦域でも守同士の戦いが起きているかもしれない。索敵アプリがこんな状態だ。守同士のチャットすらできないから直接行かないといけない。」と師岡が指摘すると、「そうだね。じゃあ僕が西側へ伝えに行くので師岡さんに東側をお願いしたい。」と凪人が提案する。師岡もこれにうなずき2人は別れる。その際に師岡は「あいつ僕に対して敬語使ってなかったな。仕方ないか、こっちはさっきまで殺そうとしてたんだから。」と思いながら新宿から東側の戦域へ向かう。
8時34分、幸せの鐘展望台付近。館山と吉村は依然睨意味合いを続けていた。「こんなに襲ってこないなんて。」お互いが本当に目の前に対峙しているのがアヤカシンか疑問に思っていた。そして吉村が動き出す。「もしかして本当に私らは味方同士なのかもしれないな。」と切り出すと館山も戦闘体勢を緩め「そんな気がしてきました。いくら完璧な変化術が使えるアヤカシンとは言え中身はアヤカシン。ここまで長い間何もせずに対峙し続けるのは困難でしょう。」とお互いが戦闘状態を解消した。
8時30分、東京競馬場。ここでは依然5名の激闘が繰り広げられていた。そして行動を決めかねていた川畑がついに動き出す。東雲は笠越に追われながら競馬場近くの庭園に転がり込む。追撃してくる笠越に対し「伝車結集」で車両を激突させようとする。それに対し笠越は「断岩山峰」で向かってきた電車を両断する。その光景に東雲は思わず「…マジか。」と驚嘆する。笠越はその攻撃の照準を東雲に定めなおす。攻撃を再発動させようとした瞬間、「変化硝子」の詠唱が響き両断されたのは東雲の前に突如出現した硝子の壁だった。「はぁ?」笠越が困惑したところを右から川畑が蹴りで攻撃した。川畑は東雲に「とりあえずアヤカシンっぽい気性の荒い奴を優先的に偽物と判断する事にしました。」と告げる。それに東雲も「そうだね。せいぜい無力化ぐらいはしといたほうがいいかもしれない。」と戦闘体勢を取り直し笠越と対峙する。笠越もすぐさま戦闘体勢に戻り「いいよ。あんたたちまとめて倒すから。」
8時20分、青物横丁駅付近。円谷は倒れていた猪崎を見つけていた。「おーい。」円谷が数回声をかけても反応がない。「アヤカシンの反応はない。電車がいっぱい並んでいた場所にも1人戦闘不能になっていた。恐らくここには相当強力なアヤカシンが潜んでいるのかもしれない。それこそ通達にあった変化アヤカシンかも。」そう思いながら円谷は周囲を警戒しつつ歩を進める。30分ほど歩き要津橋付近にやってくる。「道ごちゃごちゃしてるせいで全然どこかわからないな。」そう呑気に歩いていたその時だった。「来たな。」円谷はいち早く奇襲に反応し「越前蟹鋏」で背後の攻撃を受け止める。するとそこには「棕櫚の薙刀」を受け止められていた布江がいた。「へぇ。今までの化けられるだけの奴とは違うんだね。さっきはこれで仕留められたのに。」その布江の発言に「そうか、猪崎を倒したのは君なんだね。」と円谷は言ってもう片方の蟹鋏で布江を攻撃する。しかし布江は驚異的な体の柔軟性で体を反らし、蟹鋏の利点となるリーチを逆手に取って、てこの原理を駆使して円谷の姿勢を崩す。布江はそのまま回し蹴りで円谷を追撃、最初の蹴りを円谷は直に受けるも、それ以降の蹴りは何とかかわし戦闘体勢を立て直す。布江は円谷へ接近し一気に距離を詰める。円谷は「柱状断崖」で地面から複数の岩の柱を生成し距離を維持しようとするが、布江は悠々と回避や飛び越えて距離を詰めた。円谷との距離が近づき布江は拳を振るおうとする。その寸前のところで円谷は「越前蟹鋏」を発動した。2つの蟹鋏が布江の右脚と左腕を挟み円谷はそのまま近くの目黒川へ投げた。しかし布江は片手を水面の方へ向け瞬間的に「三筋水瀑」を発射し対岸へ着地、さらに再度「三筋水爆」を円谷に向けて発射した。円谷は回避しきれず攻撃を受けるも「大蛇霞」を使用し姿を消した。そしてその姿は布江のいる対岸へと移動していた。「傷も回復している。」布江は思わず驚いた。円谷はすかさず殴打と蹴りによる連撃を布江に仕掛ける。布江は円谷の瞬間的な移動に不意を突かれる形になるも、格闘戦は一切引けを取らずに円谷の攻撃をいなし続ける。そしてテンポが下がったタイミングを見計らうと、「根来漆装甲」と詠唱し開脚で姿勢を一瞬で低くした。その動作を見切れず円谷の拳は大きく空回り体勢が崩れた。布江は体を素早く起こし円谷に体当たりする。「根来漆装甲」により強度が格段に上がった体当たり攻撃を受け円谷の体は宙に浮く。さらに布江は蹴りによる追撃を加え円谷を近くの野球場まで蹴り飛ばした。布江は野球場まで吹き飛んだ円谷に対し、「同じくらいの背丈だけど実は3歳差くらいあるんだよね。化ける相手を間違えちゃったようだね。」と勝敗が決したことを布江は確信して話す。円谷が「そうなんだ。気づかなかったよ。年下と認識している割には手加減がないんだね。」と起き上がりながら言う。お互いが再び対峙しようとしたその時、両者の間に1人の男性が割って入った。「えぇー。もしかしてあなたも偽物?」布江は突然の参戦者に少し嫌がる素振りを見せる。参戦したのは師岡だった。「君たちに確認してほしいことがある。」師岡は2人の目を平等に見ながら言った。
8時30分、秋留台公園付近。公園だった場所では、巨人と化した波照間と土にまみれた庄屋と小柴が対峙していた。波照間は庄屋と小柴を狙って大地を叩く。その攻撃を2人は必死にかわしつつ現状打破の作戦を考えていた。「あの。これマジやばくないっすか?勝ち目無くないっすか?」小柴は途中参戦してきたにも関わらず悲観的なことしか言わなかった。「さっきの攻撃はまだ撃てる?」と庄屋が確認すると「あれは溜め攻撃なんすよ。」と小柴は今すぐは撃てないことを伝える。庄屋は攻撃をかわしながら考えた。「さっきの小柴の攻撃は効いていた。よし、遠くの建物から小柴に狙撃させよう。」庄屋は小柴に崩壊していない近くの建物へ移動し波照間へ狙撃するよう指示する。小柴は4割ほど理解した様子でその場を離れた。波照間は2人の動向に動きがあったため、その場を離れた小柴への攻撃を強める。庄屋はその動きを見て波照間の背後へ素早く回る。庄屋が小柴に伝えた作戦はあくまで陽動だった。波照間は庄屋も動き出したため急いで足を強く大地に打ち付け行動を妨害した。大地が揺れ庄屋と共に土が舞い上がる。しかし庄屋は既に波照間を照準に定めていた。「連装火口砲 蔵王」強力な熱エネルギーが波照間に直撃する。右脚に砲撃が命中し波照間は片膝をついた。すると小柴が突如方向転換し波照間へ突撃する。「え?何でこっちに?」二人が脳内で同じ思いを抱く。次の瞬間小柴は「干地通潤」と詠唱し大地を強く蹴って体を反らした。そして両手を大きく広げ二方向へ放水した。その内の1つの放水攻撃が波照間の腹部へ命中する。「挟撃か…熱と水。」波照間は必死に抵抗するも先ほどの転倒ダメージに加え連携攻撃を受け続けたために巨人化が維持できなくなった。波照間は息を荒くしながら戦闘体勢を取り直す。庄屋と小柴も波照間に向かってボコボコになった地面を駆け抜ける。いち早く庄屋が波照間と接敵する。お互いが攻撃のために技を出そうとした。「桃果の刀」「独峰海峰」二人は確かに詠唱した。しかし何も起きなかった。「あれ?」「え?」2人は右腕の画面を見つめた。0%。充電を使い切っていた。すると遅れて小柴が波照間へ突撃する。「山鹿灯篭 よほへ舞」こっちの技は問題なく発動し頭上に灯篭を顕現させ優雅な舞攻撃を小柴へ繰り出す。しかし火力自体は高いものの上手く命中せず、波照間は何の力を使わずに受け流した上に組み技をかけて小柴を容易く無力化した。庄屋と波照間は技を使わずに体術戦に移行する事もできた。しかしお互いそれなりに疲弊しており既に戦意も失っていた。「なぁ。0パーセントで技が一切使えないってことは俺ら味方同士なんじゃね?」波照間がそう指摘すると庄屋も「そうかもしれないね。」と言葉を交わし2人の視線は小柴に注がれた。「え?俺も本物っすよ。」小柴は2人の視線に疑念を感じたため10分ほど弁明を繰り返した。
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