第7話 昔話

 第2次派遣部隊は、想定よりも早い速度で鬼のアヤカシンを討伐し続け大江山付近まで到達した。抉れた道路や土、薙ぎ倒された無数の木々、壊れた民家が第1次派遣部隊と鬼の激闘を物語っていた。さすがにこれを見ると血気盛んだった凪人を除く第2次派遣部隊も緊張感を持ち始めた。「ここから先に私達よりも格上の守が2人で挑んでも敗れた強力なアヤカシンがいる。」遠藤がスマホの画面に表示された地図を見ながら言う。「僕らより東野さんを呼んだ方がもっと早く事が進んだと思うんだけどな。」そう東雲が言葉を漏らし、それを聞いた波照間が「何言ってんだ。武ちゃんだって忙しいんだぞ。我々でできる事なら我々がやらなきゃ。」と言い、湧永も「東野さんに依存していれば、いざ彼がいなくなった時我々は何もできずに敗北する。だから私達だって彼に劣らぬよう強くなり続けなければならないわ。」と同調する。凪人はその会話についていけなかった。それもそのはず数カ月前まで一般人であり、他の守との交流も今回が初めてで補佐を務める郷獣の鳥部は多くの情報を後出ししてくる頼りない存在。凪人は圧倒的に情報が不足していた。彼は先ほど冷たく扱われたため、彼らに話しかける事はもうしないと決めていたが、まだ間に合うかもしれない。逆にこれ以上時を待っていればこのコミュニティーにおいても孤立してしまうかもしれない。再び凪人は口を開く。「あ、あの…。東野さんって誰ですか?」4人の顔がこっちに振り返った。世界が静間に帰った。凪人は思わず自分が突拍子もなく一発ギャグを披露し滑り散らかしたのかと錯覚しかけた。凪人は皆を意識の仮死状態から解放するために再度衝撃を与えることにした。「僕何も知らないんですよ。誰なんですか、東野さんって?」その問いに遠藤が答える。

 全ての事の発端は約20年前だった。少し前にある書物が世間を騒がせた。世界が終わるという極めて不確実な情報だったが、思いの他皆信じ込んだ。その中でもっと本格的に信じ込んだ人がいた。その者の名が後の御中師だった。彼は世界各地からいろんな物を取り寄せては試した。もし本当に世界が終焉に至るならば、自分がそれを止めて英雄視してもらおうと考えたようだ。もっと作業を効率化するために人手も増やした。この狂った計画に奇跡的に賛同してくれた貴結、守結(シュケツ)、午斜鹿(ウマシャーシカ)、床多奴知の4人も加わり遂に1年5カ月の努力が実った。さらに3年間の修業を続け運命の時は来た。世界中に飛散する無数の流星群、5人は遂に世界の破滅が来るのを目撃する。そしてそれから万民を救い称えられるのだと身を震わせた。世界各地に多種多様な化け物が降り注いだ。彼らは車のタイヤをパンクさせ、アスファルトにひびを入れ、ペットショップの水槽を叩いて魚にストレスを与え、厨房にある塩と砂糖の中身を入れ替えるなど暴虐の限りを尽くした。御中師らは現場に駆け付ける。遂に努力の成果を見せつける時が来たのだ。そしてそれは見事に実った。御中師らの攻撃は効果的に彼らを追い詰め討伐することができた。宇宙の脅威から地球を守る初戦に見事勝利し、御中師らは誇らしげに人々の方を振り返った。しかし歓声は聞こえなかった。9割の人々は、我関せずとその場を通り過ぎ1割の人が滑稽な人間を見るような目でこちらを見たかと思えばやはり通り去る。恐らく恥ずかしがり屋なのだと思って他の地域でも同様の活動を実施した。しかし人々の対応は変わらなかった。むしろ警察が駆け付け飲酒や薬物の検査を受ける羽目になった。翌日以降、世間は書物の内容は嘘だったと結論付け徐々に忘れていった。確実に宇宙から降り注がれた化け物は人間社会に害を与えている。しかし人々はそれを抗えない運命やどうしようもない不運で処理した。彼らにその災難は見えなかったのだ。御中師たちはこの事象からアヤカシンと名付ける事にした。それ以降彼らは5人で頑張って世界を救い続けた。しかし徐々に5人でやるには大変すぎると気づいてしまった。そこで午斜鹿が名案を思い浮いた。とてつもなく神秘的な演出をして人を雇おうという案だ。常人ならばこんな案はすぐに廃案になる。ただでさえ無視されているのに、協力してくれる人なんているはずがない。この考えが常人ならすぐに浮かぶはずだ。しかしこの5名の中に常人などいなかった。彼らは大八守防という組織を発足させ、良さそうな人の家までついて行き組織へ勧誘し雇っていった。最初の47人の守が就任した。しかし日が経つにつれてアヤカシンも力を増していき戦死する者や引退する者が出てきた。その中で唯一初代から圧倒的強さで現役の人がいる。それが東野武である。冷静沈着。美しい身なり。知略と圧倒的な努力に加え常に向上心を持ち続けている。誰も数えていないため不確定ではあるが、単独で数多くのアヤカシンを討伐し常に毎年組織内で行われる一番世界救ったで賞を受賞している。まさに不動の最京の存在だった。

 「どう?よくわかったでしょう。今後事あるたびに説明求められたら面倒くさいから一通り説明したけど。」遠藤が説明を終えると「1の質問に10で答えてくれてありがとうございます。」と凪人は礼を言った。そして「何か、思ったよりちゃんとした組織なんですね。」と言うと湧永はそれに対し「でも、よくわからない事も結構あるのよね。東野さんに当時のこと聞いても何も教えてくれないし、どういう原理でスマホから技が出てるのかも不明だし。」と疑問を持っている事を伝えた。波照間は「そんなこと気にしなくていいんだよ。とりあえず僕らは目の前の敵を倒して世界を救えばいいんだ。」と気にかける事を止めていた。そんな会話をしている凪人たちに風が吹きつける。大江山の方向、少しではあるが酒の香りがした。2メートル越えの体、所々損傷した甲冑を身に着けた鬼が山からやってくる。酒鬼将軍が姿を現した。

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