第11話 甘井さん、スキンシップLv.3とギャル化の揺らぎ、そして教室がざわつく件

 翌日の放課後。

 教室に入ると、夕日が差し込み、黒板の影が長く伸びていた。


 甘井さんはすでに席にいて、俺の方をじっと見つめている。


「……村杉くん、今日も……距離、練習していい?」


(またか……! でも、昨日より近くなるってことか……)


 俺が頷くと、甘井さんは少し息を吸って、静かに机に手を置いた。


 その指先が、俺の腕に触れる。


「……今日のレベルは……Lv.3」


(Lv.3!? もう段階分けしてんのかこの子……)


 甘井さんはそっと顔を上げ、俺の目を見つめた。


「昨日より……自然に近づく練習……」


 その距離は、ほぼゼロ。

 顔と顔が触れそうで、胸がドキドキしてたまらない。


◆ ◆ ◆


 教室の隅で、女子たちが小声で囁き合う。


「ねぇ、甘井さん……今日なんか違くない?」


「距離感がおかしい……完全に村杉とラブラブじゃん!」


「昨日よりさらに接近してるし……もしかして本当に付き合ってる……?」


 俺の耳までその声が届く。

 甘井さんは慌てて手を引くが、顔は真っ赤。


「……や、やっぱり恥ずかしい……」


 でも俺には見えていた。

 彼女の瞳が、微かに嬉しそうに光っていることを。


「大丈夫。俺は……全然嫌じゃない」


 俺がそう言うと、甘井さんは少し微笑み、手をそっと戻した。


◆ ◆ ◆


 休み時間、女子だけでなく男子もちらちらこちらを見ている。


「村杉と甘井、最近めっちゃ仲良いな」

「昨日のスキンシップ見た? あの距離感やばくない?」

「教室全体がざわついてるよ……」


 甘井さんはその視線に気づくと、少し俯いた。


(……みんなに見られてる……でも、恥ずかしいだけじゃなくて……嬉しい……)


 心の奥で、ある感情が芽生える。

 変わりたいと思って始めたギャル化計画——

 でも、自分が変わることで、村杉くんとの距離も縮まる。


(……これって……本当に私、変わってもいいのかな……?)


 戸惑いと期待が同時に押し寄せる。


◆ ◆ ◆


 放課後、教室に二人だけ残った瞬間。


「……ね、村杉くん」


「ん?」


「今日は……昨日より自然に……近づきたい」


 甘井さんの声は小さく、でもしっかり届く。

 手がそっと俺の腕に触れ、肩越しに体温が伝わる。


(やべぇ……昨日より圧倒的に近い……!)


「……いいよ」


 俺がそう答えると、甘井さんの肩が少し緩んだ。


「……ありがとう」


 その表情は、いつもの清楚な甘井さんではなく、

 ほんの少し自信が芽生えた大人びた表情になっていた。


◆ ◆ ◆


 距離を縮めるたび、甘井さんの心は揺れる。


(私……変わりたいって思ったけど……

 変わることで、みんなにどう見られるんだろう……)


 教室の窓から差し込む夕日が、彼女の黒髪にオレンジ色の光を当てる。


(でも……村杉くんの隣なら……変わってもいい……!)


 手を握る練習はまだ軽く、指先が触れるだけ。

 でもその温度が、胸に熱を生む。


 心の奥で、小さくつぶやいた。


「……やっぱり……私、好き……」


 それは昨日の夜よりも確信に近い気持ち。


◆ ◆ ◆


 そのとき、教室の扉が開く音がした。


「お、まだいるのか、村杉」


 早水だ。

 夕日を背に、少しにやけた表情。


「お前……甘井とまた接近してるな?」


「え、あ、いや……」


 俺が動揺する間にも、甘井さんは静かに俺の手を握る。


「……大丈夫。私がいるから」


 その小さな手のぬくもりに、俺の心臓は完全に破壊された。


 早水は少し考え込むと、くすっと笑った。


「ふーん……じゃあ俺は邪魔しないでおくか」


 でもその笑みはどこか策士めいていて、

 次に何かしてくる気配がプンプンする。


◆ ◆ ◆


 家に帰った甘井さん。

 制服のままベッドに倒れ込み、枕を抱える。


(……今日もドキドキした……でも、嬉しかった……)


 スキンシップLv.3はほんの短時間でも、心を揺さぶるには十分だった。


(教室の人たちに見られたけど……それでもいい……)

(変わることで、村杉くんと距離が縮まったんだもん……)


 手を胸に当て、今日一日の出来事を反芻する。


(……やっぱり……好き……!)

(もっと近づきたい……もっと……村杉くんの隣で笑いたい……!)


 小さく息を吐き、甘井さんは微笑んだ。


「……変わっても、いいよね……私」


 自分だけの秘密と、少しの勇気を抱えたまま——

 その夜、甘井凛花はゆっくり眠りについた。

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