最強の救護班
みきりはっちゃー
第1話最強の救護班の新入り
──ドルトフィオン大陸。
この大陸には三つの陣営が存在する。
数々の民が絆を結び、手を取りあって存在する「ロストルム同盟諸国」。
かつての教えを重んじる厳格な「アドリー神聖王国」。
かつてこの大陸を統一していた「ネメシア帝国」。
今この大陸ではネメシア帝国が再びこの大陸を統一せんと争いの火を付けた。
ネメシア帝国の動きに対し、アドリー神聖王国は帝国の野望の阻止するべく立ち上がり、大陸は再び混乱の渦に呑まれた。
戦場を駆け回り、人々を救護する集団がいる。そう、救護班だ。
しかし、アドリー神聖王国の救護班の一握りの救護班は異様な集団だった。
彼らがいた戦場はアドリーの兵士の死者が無いのである。
そしてアドリーの兵は口を揃えて言う。「奴らがいれば、戦に必ず勝てる。」と。
それだけではない、剣、弓、魔法などが当たり前な世界だが、彼らだけは奇妙な道具も使って戦場を支配する。
───勝利を呼び込む最強の救護班。
───その部隊の名は……
───アスクレピオス。
───
「よう、新入り。そっちは終わったか?」
「はい……!終わりました!」
俺はメディク。アドリー神聖王国のとある救護班の新兵。今回の現場が片付いて拠点へ戻る所だった。
俺のいる班は「アスクレピオス」と言われる班であり、救護をメインといしている部隊だ。
救護班にはいくつか種類があるそうだが、この班はそれぞれの救護班が行うことを10人で全てを行う。
「入って半年だろ?どうだ、慣れたか?」
「はい、何とか……あはは……」
そう、ここに来て半年が経った。
入りたての頃は大変だった、最低限の体力と武力を身につけるところから始まって、次に各班が行う救護の基礎を覚える事など……
そしてある程度知識に入れたら次はいきなり実際の戦場での訓練になって。
そこで初めて渡される謎の変な武器。
手に収まるような大砲……先輩達は銃って言ってたか。それを使いこなせるようにならないといけなかったり。
厳しすぎる訓練によって地獄のような日々を送っていた。
「ベクター先輩、この……銃?でしたっけ。これ、どういう仕組みなんですかね。鉄の塊が飛んだり、魔力を込めれば魔法を放つ事が出来るから不思議です。」
先輩にこの銃の事を聞くが彼は首を横に振って「分からない。」と短く答えた。
これを持っているのは世界を探しても俺達しか持っていないらしい。
普及していない技術な為、これの仕組みを知る人はそう現れないだろう。
「おい、早く寝ろよ?明日も大変なんだからさ。」
先輩にそう言われて布団を被って地図の確認をした。
明日は早朝から別の戦場へと向かって救護活動をする。
今いる拠点から三時間の距離、ガーマル平原。次はそこで活動する。
今日はもう休もう。
……
……
「起きろぉッ!!役立たず!!!!」
げっ、班長だっ!!
時間を確認すると既に起床時間から3分経っていた。
飛び起きて準備をして出ると早速班長の鉄拳を顔面に受ける。
顔面が陥没しそうな威力の鉄拳を正面から受けて泣きたくなるが、それで済めばいい。しかし泣けばもう1発おまけで殴られる。
「早寝早起きは生活の基本だ!覚えておけぇっ!!」
班長の怒鳴り声と鉄拳で目を覚ました俺は魔法で傷を癒して移動準備を始めた。
ガレノス班長……彼は豪快な方だ。何度もやばいシゴキを受けた。時間、規則厳守を徹底していていかにも軍人という印象。
そんな班長は今、俺が乗り物に乗ったのを確認して頷いた。
「全員乗ったな?これよりガーマル平原への移動を始める。行くぞ!役立ず共!」
班長の豪快な掛け声と共に乗り物が動き始める。
俺達が乗っている乗り物、これも奇妙なものだ。
鉄の塊が高速で移動する乗り物だ。
馬で一週間かかる所をこれなら三時間。まるで神の乗り物にも思える。
魔道装甲車というそうだ。
これも俺達の班しか持っていない。
何故こんなにもうちの班は変な物が多いのだろうか。
なんでも、数年前からこういうのがこの国で、この班にのみ支給されるそうだ。
「ドヤされちまったな、アンタ。」
先輩が笑いながら声をかけてきた。
すると班長は「無駄口を叩くな。ベクター。」と言って先輩を睨む。
「無駄口を叩くなら万全の準備をしておけ。泣き喚いている奴らのケツに火をつけて回るんだ。生半可な準備をしていると貴様らが痛い目を見る事になる。」
班長はそう言いながら自身の装備の点検をして弾薬や薬品の在庫確認をしていた。
俺達の持ち物は各種薬と治療の道具。そして弾薬と武器。
俺達の持つ武器は銃の他にもナイフやボウガンと言ったそれぞれ得意な武器を持っていく。
銃も皆違う。得意な武器の弱点を補うような選出をする人もいるし、相手に自身の得意な分野を押し付ける人もいる。
「回復用の弾丸も……よし。魔力補充用の薬もある。よし。」
俺が持ち物の確認を終える頃には班の皆は武器を手に班長へと目線を向けていた。
戦場に近づく緊張感。それを強く感じる。
「集まったな。今回の戦場はガーマル平原。端的に言えばバカ広い戦場だ。遮蔽物もあるが間隔が広い。治療を行う場合は位置取りに留意しろ。」
ガーマル平原。現在最も激しい戦場。移動も大変だし、弓兵からしたらいい的になりかねない。
「貴様らはスモークグレネードを持ってもらう。遮蔽物が無い場合はこいつで足止めをしろ。そして配置だが……」
班長の作戦内容の話が終わるのと同時に車が止まる。
扉に近い一人がドアを蹴り開けて飛び出し、それに続いて全員が出撃する。
「行けぇっ!!愉快な時間の始まりだ!!」
班長の号令と共にそれぞれが配置へと走って行く。その間にも倒れた自国の兵士がいればすぐに治療をする。
俺の担当の配置に近い俺の範囲は一人で全員を救護しなければならないが、その前にこの人を助けなければ。
「もう大丈夫だ。さぁ……立て!!」
3対1で劣勢になっている兵士を見つけ、すぐさま銃を構える。
俺の銃は200メートルまでが有効射程のライフルだ。
反動が少なく、連射も可能。
「外しはしない……!!」
3人の敵兵の頭を撃ち抜いてすぐに自国の兵士の元へと駆け寄る。
反動が少ない分早く次の行動へと移せる。
地面を蹴って敵の矢を回避しながらスモークグレネードを準備して敵の弓兵へと投げつけ、先程の自国の兵士に
煙の中へと突っ込み、敵の弓兵達を正確な射撃で撃ち抜き、櫓がある小さな砦を占領した。
ここを起点にするべく持ってきた道具を置いて自身が最も動きやすくなる荷物の量にして敵に睨みを効かせ始める。
俺達の仕事は治療による救護だけでなく、アドリー軍の勝利の為に戦う事も含まれている。
砦を占領していると兵士達が集まり始めて本格的に拠点としての機能が働き始めた。
ここからはしばらく負傷した兵士たちの治療をする事になる。
他の人達は上手くやっているといいけど……
とにかく今はこいつらの治療だ。
アスクレピオスに所属する人達の回復魔法は国の中でトップクラスだ。
もれなく俺もそのクラスにいる。
使える人は珍しいとされる
半径35メートルは俺の魔法の範囲だ。
「さぁ、まだまだ気張ってくれよ!?」
効果範囲にいた兵士達の傷が瞬く間に癒されてすぐに戦場へと向かい始める。
こちらの弓兵が拠点からの狙撃を行うようだ。
なら、俺は拠点の付近を移動しつつ負傷者の確認を行う。
「それにしても遠いな。」
砦付近の遮蔽物から次の遮蔽物までは距離がある。
敵の数も多い……
次のポジションへ移動する人は的になる。なら視界の妨害をするしかない。
砦側に味方が集まっている、あの崩れた壁に移動するつもりか。
一人目が踏み出したこの時にスモークグレネードを投げる。
「今だ!行け!行け!!」
俺が声を荒らげながら自軍の兵士に叫び、誘導する。
誘導した先では激戦が繰り広げられており、血と肉が焼ける臭いが立ち込めていて、敵と味方の咆哮が混じりあっていた。
うるさくて仕方がないが、こちらとしては好都合だ。
敵の頭数を減らして前線を下げたいところだが……弾と魔力は節約したい。
ならやる事はひとつ。
携帯ナイフで目の前の弓兵を倒すこと。
「1つ……2つ……」
呟きながら遮蔽になりそうな小さな瓦礫を数えて突撃ルートを決める。
スモークグレネードも限りあるからなるべく使わずに攻めたい。
その時だ。
目の前の弓兵が煙に包まれたのだ。
うちの班の誰かがスモークグレネードを投げてくれたのだろう。
「チャンスだ!行けええええ!!」
兵士が雄叫びを上げながら10人以上で突撃しに行く。
何か嫌な気配がする。
肌を刺すような空気。煙の中で魔力が集中している……!?
「……!お前ら止まれ!!動くなよ!?」
俺がそう怒号を飛ばすと集団を率いていた兵士が鬼の形相でこちらを睨むがお構い無しに俺は弾丸に魔力を込めて集団の頭上へと引き金を引く。
エネルギーのバリアが展開された瞬間に魔力のビームが一直線に発射されたが、兵士達は無傷だった。
「間に合ってよかった……パルスシールド……」
ため息をついて胸を撫で下ろすが戦場はまだ続く。
さっきのビームで煙が晴れて互いが目に見える状況になり乱戦になる。
この一帯を掌握したらここは勝てるな……
「さて……もう一度だ。」
広範囲の回復魔法を使って兵士を癒し、攻撃ではなく負傷者を探す。
この乱戦の中で負傷者を見つけるとすぐに駆け出し、邪魔な敵はナイフで急所を切りつけて負傷者を回収していく。
「まず1人……!」
次の負傷者の元へと身体を滑り込ませて回収して1人目と同じ安全な場所へと運ぶ。
「間に合え!」
そう口にしながらナイフを投げて敵の頭を穿いて矢に打たれた兵士を連れて安全な場所へと運び込んだ。
「助かった…………その蛇と杖のエンブレムは……」
「あぁ。だが前に治療だ。」
兵士の足に刺さった矢を抜いて回復魔法を足にかけると即座に傷口が閉じていく。抜いた瞬間に吹き出た血も傷口へと戻って完全に傷が無くなった。
「さ、行け。」
「助かったぜ……!」
兵士は礼を言うとすぐに戦場へと戻って行った。
「次はさっき回収したヤツらだな。」
急いで戻ると腹の傷を抑えて食いしばる兵士とぐったりしている兵士が呻いていた。
「お前達はまだやれる。立て。」
2人に回復魔法を込めた手を当てて2人の治療を行う。
2人の回復魔法を途中でやめて薬を二人の目の前に置いた。
「こいつを飲んだら戦場に戻れ。」
俺はそう言って熱気が上がった戦場の中へと進んでいく。
確実な射撃で敵の脳漿を破裂させ、飛びかかってくる敵の剣士はナイフで首を突き刺してそいつを盾にして突進していく。
「ふぅ……」
こちらで敵の部隊を片付け、周りの状況を見た。辺りには敵の骸が転がっており、残った敵を我が国の兵士が始末していた。
息を整えて弾薬を切り替えて空へと引き金を引く。
班の人達に制圧完了の報告をする為だ。
「制圧完了。これより救護活動を開始する。」
俺は回復魔法を弾丸に込めてそれぞれの兵士に撃つ。
弾丸によって体力が回復していく兵士達はすぐさま物資の補充や制圧した場所の周辺を自軍の陣地に変えていく。
「班長!」
「貴様の所も終わったか。こちらも終わった所だ。他の役立ず達も次第に終わる頃合いだ。新入り、最後まで気を抜くな。」
班長はそう言って他の班員の場所へと援護をしに向かいに行った。
時間が過ぎる事に1つ、また1つと制圧完了の報告が上がり、敵達が撤退していった。
……はぁ、終わった……疲れた……帰って風呂だ……
俺達はアドリー神聖王国へと戻り休息を取る。
先輩達と大浴場で今日の疲れを癒す。
湯と石鹸の匂いは最高だ。湯けむりで暖かくもなっていて心が安らぐ。
「新入り、お疲れさん。」
「お疲れ様です。ベクター先輩。」
ベクター先輩が隣に座ってくつろぎ始めた。
俺達は今日の戦場について振り返っていた。
そしてもう1人話に入ってきた。
「ヘイズ。お前今日も撃破数トップだったよな。」
「あぁ……まぁこの私がいた所は戦友がちょうどいたからな。」
ヘイズさん……彼には別の部隊に「戦友」と呼べるような人がいる。
羨ましい、いつか俺もそんな人が出来たらいいが……
「そろそろ上がろうぜ。」
ベクターがそう言い、俺達は大浴場から出て着替えて班の詰所へと戻った。
「ビール!ビール!」
「冷えてるか?」
「バッチリ冷えてるぜ?ヘイズ。」
ベクター先輩とヘイズ先輩が氷の魔法で冷やしたビールの樽にはめられたコルクを抜いてジョッキにビールを注ぎ込む。
「うわっ……酒臭っ……!!ちょっとアンタ達!!」
小さい女の子を連れて帰ってきた桃色のツインテールをぶら下げた女性が鼻をつまみながら先輩達に詰め寄る。
「おっ?サラ。お前も飲むかぁ?」
「飲むわけないでしょ!!」
「せんぱいたちさけくさぁ〜い……」
彼女の隣にいた小さい女の子もブカブカな袖で鼻を隠してそう言う。
この二人も、アスクレピオスのメンバーだ。
「ほらぁ、セラフィもそう言ってるでしょ!」
「ごめんよぉ……おじさんらはこいつ飲まねえとやってらんねぇから。」
サラはため息をついてセラフィの手を引いて女子部屋へと消えていった。
ほっこりしていたところに俺は班長から呼び出された。
「貴様に話がある。王族からの依頼だ。貴様の今後の成長の為にも、これは貴様に遂行してもらいたい。」
一体……王族からの以来とはなんなのだろうか……
班長は俺の成長を願っているのなら、それに応えよう。
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