現世に現れし黒き使者

秋乃楓

第1話 外宇宙のカミサマ

それは神なのか。それともそうではないのか。

肉塊から生えるは顔の無い円錐状の頭部、鉤爪の生えた手が生えているまさに

異形としか言えぬその見た目...だがヒトはそれを神と呼び讃えて祀った。

そしてそれを崇拝する教団もまた数多く生まれたのも1つの事実である。

千にも近い姿と顔を持つそれの本当の姿は何なのか。

そんな事は誰にも解らない。


深く知ろうとすればそれは未知なるものに引き摺り込まれてしまうからだ。

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朝、部屋の目覚まし時計が鳴り響いた。

そして始まるのは憂鬱で仕方のない朝...そして同じことの繰り返し。

白い半袖に黒い半ズボン姿というラフな格好で起きた俺は洗面所へ向かって

顔を鏡で見ていた。普通の平凡な顔に対し癖っ毛のある黒い髪をしているのが

黒峰ツクル。歳は16、流々衣江高校に通う高校生。

将来の夢だとか進路をどうしたいとかそういうめんどくさい事を言われる

次期真っただ中である。


「面倒だし今日サボっちまおうかな...やってらんね 」


そんな事をブツブツ呟いていると横から何かで頭を殴られた。

振り返ると黒よりの茶色い髪を右側で水色のビーズが付いたヘアゴムでサイドテールに結び、可愛らしい花柄のエプロンを下げた少女。

彼女は黒峰柚月といってツクルの妹、小学5年生でしっかり者。


「いてぇッ!? 」



「サボったら学費が無駄になるでしょ! 」



「冗談だよ!冗談!!てかお玉で殴るなよ... 」



「お父さんとお母さんが稼いでくれたお金で私達は学校に通えてて、こうやって家で何不自由なく過ごせてるの!解ってる?ツクルももう高校生なんだからしっかりして貰わないと私が困るんですけど!? 」


彼女はしっかり者...いやしっかりし過ぎている。

というのも2人の両親は海外で仕事をしている事から家の家事や何やら全般は

全て柚月が担当している為、彼女の方が立場が上なのだ。


「解ったなら朝ご飯食べて支度して学校行く!ほら早く!! 」



「はッ、はい!! 」


朝から説教をされて凹む気分を他所に朝食を手早く済ませて

今度は制服に着替えると支度を済ませて玄関へ。

丁度、靴を履いた所でまた声を掛けられた。


「ハンカチとティッシュは持った?帰りが遅くなるなら早めに連絡するのと、自転車とか車に気を付けて行かなきゃダメだよ? 」



「解ってるよ…そこまで心配しなくても大丈夫だ 」



「……そうは言うけどツクルは危なっかしいもん。あと学食のお金は大丈夫?勝手に変な事に使ったりしてない? 」



「使ってない!それじゃ、行ってきます!! 」



「はいはい、行ってらっしゃい 」


柚月の話を強引に切って家を出る、その足で

通っている高校を目指して歩いて行くのだが

この日は何処か違和感があった...いやそんな気がした。

いつも通りの日常の筈なのに…いつも通りではない様なそんな気がしたのだ。

とは言っても、そんな事は誰しも生きていれば

1度や2度考えた事はある筈。

例えば…通学中にUFOが来て宇宙人が攻めて来ただの、訳あって学校が急に休みになっただの、いきなり世界が終わる……など。

そんなのは単なる幻想にしか過ぎないが面倒な事を前にした際に誰しもが考える事

なのは間違いない。


「どうせいつもと変わらないだろうけど...偶にはそういう事も起きて欲しいもんだよな 」


ツクルは校門を抜け、他の生徒が歩いて行く中を1人で歩いて

玄関へ。そこで靴を履き替えてから自身が居るクラスへと訪れると

此方を見て声を掛けて来た少年2人が居た。

1人は眼鏡を掛けている方で名前は村井治樹、もう1人は中山彰吾といって2人とは中学からの付き合いでもある。


「何だ何だ、今日も朝から柚月ちゃんに起こされてんのか? 」



「起こされてない、普通に自分で起きてる!! 」


茶化す様に彰吾が話し掛けるがツクルはそれを流し

席へ鞄を置く。ふと視線の先を見るとツクルは何故か微笑んでいた。

黒い髪を首元で切り揃え、それでいてスタイルの良い身体を持つ

彼女は他の女子グループに混ざって楽しそうに話している。


「沢村晴菜...お前の片思いの人だろ?そりゃそうだよな、お前いつも見てるし 」



「べ、別にそんなんじゃ── 」


治樹が溜め息交じりにこう話した。


「解ってないなぁ。ま、俺は2組の桐ヶ谷唯さんの方が好きだけどね 」



「生徒会長の?お前も凄い所行くねぇ...でもアイツ、目付き怖くね?それに校則違反したらぶっ殺されるなんて噂も...... 」



「それが良いんだろ、それが!!それ以外だと後は陸上部の中野千怜とか、後はうちのクラスの樋山里紗とか...その取り巻きの冴島香奈とか!!後は2年の西園寺玲奈、それから── 」


どれが好みか戦争は尽きないし

他にも様々な候補が居るのは間違いない。

そう言ったくだらない話を彼等とするのがある意味では日課となっている。

そしてチャイムが鳴ると担任の男性教諭が入って来て直ぐにホームルームホームが始まった。

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そして迎えた放課後、ツクルは最後の授業で居眠りをかました事で

ノートを半分しかとっておらずそのまま目を覚ました。


「やっと起きたのか。何時まで寝てんだよ、授業終わっちまったぜ? 」



「彰吾か...仕方ないだろ、午後の授業はキツイし退屈なんだよ。てか何で飯食ったとに古典の授業が有るんだか...... 」


背伸びをして一息つくと別のグループが話しているのを耳にする。

何でも街から離れにある場所の教会で夜な夜な声がする...だとか

変な集団が来ているらしいというモノだった。

まさかと思いつつ振り返ると彰吾の顔は何処か微笑んでいる、

こうなると嫌な予感しかしない。彼は以前からそういう危ない所や

ロクでもない場所へと行きたがる習性がある。


「...なぁ、この後そこの教会行ってみようぜ? 」



「言うと思ったよ...どうしても行かなきゃダメか? 」



「ったりめーだろ、絶対何か有るに違いねぇ!!幽霊か?それとももっとヤベぇ奴か?俺のこの目で確かめてやる!! 」



「お前なぁ...てかどうせ治樹も連れて行くんだろ?アイツ、俺よりビビリだぞ? 」



「良いんだよ別に!お前も強制参加ってことで!! 」



「いや...普通に帰りてぇんだけど 」



「親友の誘いを断るのか?俺はお前をどれだけ助けてやったと思ってるんだ?じゃあこうしよう、沢村さんを誘う...ってのはどうだ? 」



予期せぬ提案にツクルは目を丸くし戸惑っていた。


「ばッ、馬鹿かお前!?沢村さんが来る訳ないだろ!? 」



「そんなのやってみなきゃ解らんだろ。どうする?それでも来ないつもりか? 」



「......解った、行くよ。行きますよ! 」


そう言ってまんまと乗せられてしまい、彰吾は意気揚々と

1人で居る晴菜の元へ駆けて行き何かを話していた。

それから治樹も合流した後に少し経って戻って来ると彰吾はツクルへ向けて親指を立てる。


「沢村さん、来るってよ!! 」



「おいおい嘘だろ...... 」



「良かったなー、ツクル!これでお前の青春は約束されたぞ!!怖い場所、男女2人、お互いに手を握って懸命に中を進む...そして当然何も起きない筈が── 」



「何も無い 」


 バッサリと切り捨て、立ち上がったツクルは「早く行こうぜ」と

2人へ声を掛ける。彰吾は晴菜を誘って男3人と女1人という異色の組み合わせで

教会へ足を踏み入れる事となってしまった。

学校の校門を抜けて夕日が照らす中を4人は歩いて行くと彰吾に押されて

ツクルが晴菜の横へ突き出された。

振り返ると口パクで「何か話せ!!」と彼が伝えて来る。


「さッ...沢村さん!! 」



「な、何...?黒峰君 」



「あ、いや...えーーーっと......ごめん、急に誘ったりして。迷惑じゃなかった? 」



「平気。...怖いのは興味あるんだけど、あまり話した事無くて。灰田君は平気? 」



「お、俺!?俺は...まぁ......一応平気...かな? 」


何処かぎこちない会話のキャッチボールを続けながら歩く事、約30分。

そこは如何にもな感じの廃墟でとてもではないが教会とは呼べないし

何だったら規制線も誰かが破ったのか見るも無残な姿で落ちてしまっている。

それでも彰吾はお構いなしに前へ出ては治樹と共に中へ入ってしまった。


「お、おい!入って大丈夫なのか!? 」



「心配すんなって。もう何人もこん中に入ってるし...今更心配する事なんかねーよ。行くぞ治樹!お2人は後からどーぞ? 」


要らない世話を焼かれつつ建物の中を見回しつつ歩いて行く。

中はカビ臭い上に足元は薄暗く危なっかしいという状態で探索が始まり、

様々な個所を見て回ったがこれといって何かが出る様な訳でも無ければ

声や物音がしたりする訳ではない。

その中でツクルが立ち寄ったのは広間の様な場所、そこには見た事のない文字が床に弧を描くように記されている他にが中央に記されていた。


「何だこれ...?何かやってたのか? 」



「滲んでて読めないけど、もしかして魔法陣かな?この書き方...そんな感じがするの 」



「魔法陣?確かにそう見えるけど...... 」


悪戯にしては手が込んでいる様な気がした。

それにこの赤い字はインクとかペンキではない...想像はしたくないが

これではないかという考えだけがツクルの脳裏を掠めた。


「...灰田君?どうかした? 」



「あ、いや...何でもない。早く行こう 」


2人はその場を立ち去り、先に行った彰吾達を探して

歩いていると彼等は大広間がある場所で並べられた椅子の背に隠れて

それを見ていた。背後から声を掛けると治樹が人差し指を唇の前へ立てて

しーッと促して来る。ツクル達も自ずとその方向を見てみると

5人のローブを被った連中が呪文の様な物

を唱えている姿が目に入った。


「なぁ彰吾?何て言ってるんだ? 」



「解らねぇよ...クト...フタグンだとか、ニャル...だとか、ツガー...とかしか聞き取れねぇ 」



「変な宗教か何かか? 」



「多分そうかもな。けどこれは大発見だぜ、やっぱ噂は本当だったんだ!! 」


彰吾がオカルトが好きなのはツクルも知っている...だがこれは何かヤバい予感がするというのは間違いない。すると突然周囲の空気が一変し急に温度が下がった様に感じられ、割れたステンドグラスが急にカタカタと震え出して歪な音を立て始めていた。その際に治樹がうっかり物音を立ててしまった事で存在がバレると彼等は此方を指差して来る、慌ててそこから離れて出口を目指し駆け出したのだが

ツクルだけは背後から感じる何かに気を取られて振り返った。


「え...? 」


何が起きたのかは解らない。

いや、自分でも何が起きたのかは解らない。

背後にある顔が割れた女神を象ったステンドグラスの真下...

そこに誰かが横たわっている。ローブを着た3人組は

ボロボロになっている木製の床に倒れていた。

近寄ってみるとそこに居たのは白い雪の様な肌と程良く膨らんだバストを持つ

華奢で美しい肉体をした少女が横たわっている。

腰まで伸びるその髪の色はまるで光り輝く様な美しい白に近い銀色をしていた。


「女の子...!?何で...てかさっきまで居なかったぞ!?外国の子...なのか? 」


此処に居ては不味いと感じたツクルは倒れている連中を他所に彼女だけを背負ってその場から立ち去る。

漸く外へ出た時にはもう既に日は沈んでいて夜になっていた。

しかし肝心な3人は既に居ない事からツクルは彼女を背負ったまま

成るべく人目に付かない通りを選びながらその足で足早に帰路へ着いた。

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帰宅したツクルは彼女をバレないように部屋へ運んでベッドへ寝かせる。

自身はベッドから離れた位置へ腰掛けるとその様子を見ていた。


「...やっぱそういう事してたのか?それともそういう癖...いやいやいや!!そんな訳無い!絶対に無い!! 」


ブツブツと背を向けて呟いていると背後から妖艶さがある透き通った様な女性の声で呼び掛けられた。


「お前か?私を召喚よんのは 」



「え...? 」


振り返った先、そこに居たのは先程の少女。

白っぽい銀髪のストレートヘアに

対し前髪は綺麗に目に掛かる辺りで揃えられていてその瞳は吸い込まれる様な金色だった。


「え、えーっと……どちら様ですか? 」



「…私を知らないのか?ニンゲン。勝手に召喚しておいてその有り様とは…程度が知れる。

お前が望むモノは何だ…万物を超える力か?それとも異界の術か? 」



「ちょ、ちょっと待て!!何が何だかさっぱり解らないって!!お前は何処の誰なんだ!? 」


すると少女は掛け布団を退け、再び自らの裸体を晒す様にベッドから降りて立ち上がる。

左右から伸びた髪が彼女の両胸を隠す様に覆っていた。


「──私の名はナイアルラト・ロードレッド。又の名をナイアルラトホテップ……その名の方が貴様らニンゲンには知れ渡っているか? 」



「な、ナイアルラト…ホテップ……? 」


彼女は自らそう名乗った。

自らはナイアルラトホテップであると。

聞き間違いかとそう思ったがそうでは無いらしい。引き込まれる様な妖艶さのある美しさと相まって自分達の歳頃と変わらないその見た目は

理解しようとすれば理解出来ない何かがそこにはあった。


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