第17話 美少女達の穏やかな朝
縁理庁 特別監察報告書
文書番号:EN-XF-SORA-0815-ACT2-LOG-0003
分類:災主級媒介体観察報告
提出部署:縁理庁 災主級監察課 特別監視任務班(担当:三鎌セナノ)
提出日:令和██年9月4日
■ 1.対象情報
項目 内容
コード EN-XF-SORA-0815-ACT2(通称:エイ)
分類 疑似媒介体(
性別 前日:男性/本日:女性(※後述)
居住地 廻縁都市 特級居住棟『白環苑 ≒階層』
同居者 担当縁者 三鎌セナノ(階位:A)
■ 2.事象概要
令和██年8月■日、当日早朝に発生した異常事象として、対象個体の性別に関する可変現象が確認された。
該当現象は対象の入浴中に偶発的に確認されたものであり、観察時に対象の身体的性別が「女性」へと変化している状態にあった。
当該変化は前日観察時(令和██年8月■日 21:20頃)と比較して明確な肉体的変質を伴っており、継続的観察対象として極めて高い優先度を有する。
■ 3.発生経緯
時刻 内容
04:58 ランニング終了後、監察者帰宅。自宅内にシャワー音を確認
04:59 対象の入浴中発声を確認(「お湯が出ない」等)
05:00 扉前にて対象と会話中、扉が開き、視認的に裸体を確認
05:01 当該時点にて性別変化を視認。対象はそれに対し無自覚または無関心
05:02 対象発言:「今日は女の子ですよ。おそろいですね、セナノさん」
05:03 観察記録メモ作成開始、緊急報告準備開始
■ 4.観察結果と初期分析
対象の肉体は構造的・視覚的に「女性型」へと変化していた。
対象の精神性・人格表出には顕著な変化なし。
対象本人は「本日は女性であること」に一切の違和感を示さず、通常通りの会話を継続。
昨日確認された男性器の欠損を含め、可逆性または定常的性流動性が存在する可能性、媒介体としての高次存在との接続が肉体構造に影響を及ぼすレベルに達している恐れあり。
■ 5.懸念事項と対策提案
項目 内容
1. 生理機能の可変性 生殖構造の流動性が確認された場合、恒常的医療観察が必要
2. 災主級との同調影響 感情・嗜好の共有が災害級の事象を誘発する恐れあり
3. 性別記録管理 行政記録上の性別欄に新規識別コードが必要(例:X-FLOW)
4. 対象の自認変動リスク 性的自己認識と肉体構造の乖離が精神安定性へ影響を与える可能性
5. 対象周囲の縁者対応 同居者を含め、接触縁者への対応方針と接触制限ガイドライン策定を推奨
■ 6.要望・次段階調整
対象への構文医療検査(肉体的変質のメカニズム解明)を至急実施
「媒介体の構造変化」に対する新規監察プロトコル制定を庁内で検討
同居監視者(三鎌セナノ)への心理支援及びストレス耐性評価の実施を要請
「EN-XF-SORA-0815」関連の生理変化記録カテゴリを新設要望
上記内容を縁理庁災主級監察課内マスク共有として記録希望
■ 7.備考(監察者私見)
対象本人の精神安定度には今のところ問題はありませんが、私の精神安定度に甚大な問題が発生しかけています。
一刻も早い支援・検査体制の確立をお願いします。
「もう一度聞くけれど、女の子なのよね?」
「はい。ふふっ、そう何度も聞かれてしまったら、男の子になってしまうかもしれません」
「えっ」
「冗談です」
エイはいたずらが成功した子供のようにクスクスと笑う。
可愛らしい動作だが、冗談には聞こえないそれにセナノはため息をついて机に突っ伏した。
リビングのテーブルで向かい合う形で座る二人だったが、その表情は対照的であった。
「あんな反応をされたのは初めてなので、ついからかってしまいました。ごめんなさい」
「別にいいわよ。……うん、なんとか慣れるから」
自分にエリートの暗示を強く掛けながらセナノは笑う。
その時、くぅと小さく腹の鳴る音が部屋に響いた。
セナノが顔を上げてみれば、エイが今までの笑顔から一転して恥ずかしそうに顔を赤く染めている。
そして申し訳なさそうにこう言った。
「ごめんなさい……お腹が空いてしまいました……」
あまりにも普通の少女らしい行動に、警戒して悩んでいた自分が思わず馬鹿らしくなってしまう。
セナノはふっと笑いながら、立ち上がり冷蔵庫へと向かった。
「冷凍で良ければお弁当があるわ。鶏むね肉とブロッコリーの定食だけど」
「冷凍のお弁当……? アイスのようなものですか?」
「……電子レンジで温めるのよ。……ああ、電子レンジってのはなんでも温かく出来る箱ね」
「そんなものがあるのですね! 外の世界ってすごい……!」
無邪気に驚愕する声を背に受けながら、セナノは弁当を取り出す。
そして流れるような動作で電子レンジへと放り投げた。
「で、ここのスイッチを押せば温かくなるわ」
「はい! 私、押してみてもいいですか……!」
「ふふっ、いいわよ」
まるで小さな子を相手にしている気分になってきたセナノは微笑みながら首肯する。
エイは緊張した面持ちで電子レンジの前に立つと、セナノの示した場所を恐る恐る人差し指で押した。
「えい」
可愛らしい声と共に、ボタンが押される。
その瞬間、電子レンジが凄まじい震えと共に煙を上げ始めた。
「おぉ!」
「えぇ……」
まるで毒物を流し込まれた生き物のように震える電子レンジは、黙々と黒煙を上げ、最後に一度大きく震えるとそれ以上は何も言わぬただの箱と化した。
エイは首を傾げながら振り返る。
「これで温かくなりますか?」
「ならないわね」
「えっ」
エイは裏切られたような目でセナノを見る。
「そんな……ここを押せばお弁当が温かくなると言っていましたよね……?」
「うん、その前に壊れたわね!」
朝の6時にして、セナノはもう吹っ切れて半ばやけくそになってそう言った。
電子レンジから恐る恐る取り出した弁当は、未だにキンキンである。
「ごめん、エイ。食べるものがないわ」
「そんな……」
エイはぺたんと地べたに座り込む。
シャワー後でほんのりと上気した肌に、薄手のワンピースからちらつく胸元と、空腹で絶望しているだけなのにその姿は随分と艶やかだった。
セナノは慌てて目を逸らし、そんな自分の行動に疑問を持つ。
(……女の子なら別に私が慌てる必要ないわね。うん)
気を取り直してセナノが視線を戻すと、すぐ目の前にエイの顔があった。
潤んだ瞳を押し付けるようにずいっと顔を寄せたエイは、セナノの胸に飛び込まん勢いで下から顔を覗いている。
「うおっ、美形っ」
「セナノさん、お願いします。私、ご飯だけが楽しみなんです……。小間使いでもなんでもしますから、どうか食べる物を恵んでいただけませんか?」
上目遣いでエイはそう言った。
その辺の縁者であれば、性別関係なく完全に堕ちていただろう。
しかし三鎌セナノはエリートである。
縁理学園でも指折りの実力を持つ彼女は、その類稀なる精神でぐっとこらえて、彼女の希望を叶えるために思考をフル回転させていた。
「……コンビニで、食べる物を買ってくるわ」
フル回転した結果、コンビニだけが唯一の答えとしてひねり出される。
なんとかエリートの面目は保てたようだ。
「コンビニ! 昨日、セナノさんと一緒に行ったあそこですね! この都市にも、あるのですか?」
「あるわよ」
「へえ、そうなのですね」
そう言うと、エイはウキウキを隠せない様子で玄関へと歩き始めた。
セナノはすぐに察して腕を掴み止める。
「ま、待ちなさい。貴女は留守番よ」
「えっ……」
エイは絶望した様子で振り返る。
その目に浮かんだ涙を見て、セナノはハッと思い出した。
(そうだ、この子災主級の疑似媒介体だったわ! ただの箱入りお転婆娘じゃなかった!)
いつの間にか手間のかかる箱入り娘として接していたが、相手は国を容易く滅ぼせる災主級と深い繋がりを持つ少女。
留守番を理由に日本を滅ぼすわけにはいかない。
「…………いい子にして、私から離れない事。いいわね」
「はい、ありがとうございます!」
「……はぁ」
晴れ渡る青空のような良い笑顔で礼を言ってくれることが、せめてもの救いだった。
縁理庁 物資再支給申請書
文書番号:EN-RE-0094
提出部署:災主級監察課 特別監視任務班
提出日:令和██年8月■日
申請者:三鎌セナノ(A階位・指導番号:EN-MON-1420)
■1.申請内容
物品名称 :電子レンジ(小型・異縁適応モデル)
希望機種:型式:EN-KT-MICROWAVE-β2/黒曜防熱加工済
数量 :1台
使用場所:廻縁都市・
用途 :食品加熱・媒介体対応対象の生活維持補助
■2.申請理由(概要)
当該機器(電子レンジ・型式不明)は、令和██年8月■日午前6時頃に発生した高次媒介体による初操作中の誤作動により、加熱機能に甚大な障害が発生。
本体より黒煙を伴う過熱・振動異常を確認の上、完全沈黙(通電・動作不能)状態に陥ったことを確認済。
当該設備は監視対象個体の情緒安定・食事確保において必須の生活補助機器であり、復旧不能につき、速やかな代替機材の供給を要請する。
■3.備考
機器破損の直接的原因については、対象個体による意図なき初操作と推定。
再発防止として操作前教育および機器説明を強化予定。
媒介体の情緒安定と日常的生活リズム維持の観点から、本日中の支給が望ましい。
新品であればなお良し。
以上、再支給を何卒よろしくお願いいたします。
提出者署名:
三鎌セナノ(A階位)
縁理庁 災主級監察課 特別任務担当
指導番号:EN-MON-1420
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます