第35話 出張ダンジョン攻略第一弾!…のはずなのに

突然だが、県外に出かけるとしたら移動方法は何を思い浮かべるだろうか。

車、バス、タクシー、電車、新幹線、飛行機。

パッと思いつくだけでもこれだけ出てくるだろう。

だが、北斗はそのどれでもない。

キャリーケースを引き乗り場に向かうこともなければ、長時間の運転も必要ない。

何故なら。


「よいしょ……っと。やっぱり沖縄は暑いねえ」


自身が持っているユニークアイテム、『転移水晶』を利用して各都市を移動出来るからである。

ちなみに京都へ行った時もこの水晶を使って移動していたので交通費も移動の負担もゼロだ。

半袖の白シャツに黒のカーゴパンツという至ってラフな若者らしい格好をした北斗が沖縄に来たのは、2つの理由があった。

1つは以前の雑談配信でのリクエスト、全国のダンジョン巡りのため。

もう1つは、ダンジョン省からの依頼だった。

まずは南からと沖縄行きを決めてから数日後、千歳から呼び出しを受けた北斗は彼女の執務室を訪ねていた。


「伊瀬見さん、どうしたんです?諸外国への対処は無事に終えたと聞きましたが」

「ああ、それについては万事解決済みだよ。…今日お前を呼んだのは、今度行くという沖縄の那覇ダンジョンについてなんだ」

「……何があったんです」


穏やかな表情はすぐに形を潜め、真剣な眼差しで千歳を見据える。

千歳もまた真っ直ぐに北斗を見据えて口を開いた。


「那覇ダンジョンで、ダンジョンブレイクの予兆が見られた」

「ダンジョンブレイク…」


思わず、といったように北斗が呟き、目を見開いた。

ダンジョンブレイク。

要はダンジョンが決壊し、ダンジョン内から大量のモンスターが溢れ出す現象。

世の中にダンジョンが蔓延っているというのに一般市民がモンスターの脅威に脅かされることなく平和に暮らせているのは探索者がダンジョンに潜りモンスターを定期的に討伐しているからである。

だが、ダンジョンは言わば自然災害も同然。

人間が万全を期して対策をしていたとしても何が起こるのかはわからない。例え今回のように兆候を察してもいつ起こるのかは予測不可能。

もしもその時、探索者が少なければ、ダンジョンから住宅街が近く避難が間に合わなければ。

その時に出る犠牲はいかほどか、想像もしたくない。


「なんとなく理解出来ました。俺が沖縄に行くからこそ、那覇ダンジョンのダンジョンブレイクの対策を現地で行なってほしいという要請ですね」

「その通り。流石話が早いな。……頼めるか」

「勿論。……ダンジョンブレイクが起こってしまったら前線に立つ探索者は愚か一般市民への被害が大き過ぎる。俺もそんなことは望みませんから」

「助かる」


この経緯があり北斗は沖縄に着くや否や速攻いつもの和装に着替えて那覇ダンジョンに潜った。

配信をする事も考えたが、予兆があった今いつダンジョンブレイクが起こってもおかしくない。そんな光景を配信するわけにもいかないからと落ち着くまでは配信をせずに攻略を進めることにしたのだ。

ならば何故配信もしないのに雨月紫雲としての格好で潜っているかというと、ダンジョンブレイクが万が一起こった後にこの格好で潜って謂れのない誹謗中傷を避けるためである。

雨月紫雲の姿がダンジョンブレイク前になければ、恐らく……いや、ほぼ絶対に探索者や一般市民の危機を見て見ぬフリをしたと責め立てられるだろうから。


「さて、取り敢えず……中の調査を進めるか。上の階層にいるべきじゃないモンスターがいないか、それだけでもきっちり確かめないとねえ」


ダンジョンブレイクのことについてはまだ周辺には伝えられていない。

あくまでも予兆だからと言うのもあるが、これについては過去に起きた出来事が起因している。

かつて、東京の小さなダンジョンでもダンジョンブレイクが発生したことがある。

その時は念の為を思って早期の避難を促していたのだが、想定していた避難所が近かったこともあり結果的に少なくない数の被害を出した。

それ以降、各地でダンジョンブレイクの兆候があれば同じように避難を促していたが東京での一件を掲げて自分たちのことも巻き込むつもりだろうと反発し余計に被害が広がるという事例が多く発生しているのだ。

下手すれば探索者のことを妨害し、探索者がダンジョンに入らなければダンジョンブレイクは発生しないとなんの確証もないことを宣う抗議を行う団体すらあるのだから笑えない。


入り口は……特に問題なし。

探索者の出入りも問題なく行われているし、何か異変が起こっているかのような騒ぎも起きていないと。

北斗はそのまま何事もない顔をしてダンジョンに入る手続きを済ませ、上層エリアへと足を踏み入れる。

んー……少し空気が重い、か。

この那覇ダンジョンも超級ダンジョン、少しでも空気が重くなっているということは、恐らく。

──ほら、ビンゴだ。

太刀を構えた北斗の前に現れたのはアカマタ。

沖縄特有の蛇の妖怪で、若くて美しい青年に化け、人間(主に女性)を言葉巧みにだまして誘惑し、自身の子供を産ませるという。ここでは本当の妖怪ではなく逸話を模しただけの存在なのだろうが、普通は中層エリアに出現するモンスター。

上層エリアにいていい存在じゃない。


「というか、俺の前に現れたってことは俺のこと女と認識してる感じかい??……流石にそれは不快だねえ」


太刀を構えられていたことで敵対したと看做したらしいアカマタは蛇の姿に戻り北斗へ襲いかかってきた。

いくら中層エリアのモンスターとはいえど的になるはずもなく数秒と経たずに細切れとなったが。

このダンジョンは祇園ダンジョンとは違い沖縄特有のモンスターこそ出現するものの基本は他のダンジョンと変わらないモンスターが出現する。

アカマタの後にもモンスターらが襲ってきたが、それらすべてが中層エリアに出現するモンスター。


「思い切り異変が起こっているじゃないか、今まで潜っていた沖縄の探索者は何も思わなかったのか?……いや、沖縄の人っておおらかだから、気にしてなかったのか」


思わず頭を抱えてしまう北斗。

沖縄の人の人柄ととしておおらかなのは知っていたけど、いや、まさか本当に気にしてないのかい??

これは、調査した後に那覇ダンジョン支部に報告に行かないとねえ…‥流石に、これは放置できない。

ダンジョンの奥へ進む速度を早め、モンスターを蹴散らしながら中層へ進む。

予想通り、中層エリアには至る所に下層エリアのモンスターが蔓延っていた。

ここまで潜っている人がいないのか?こんなにいたら絶対に気付くはず。そして、この流れからして下層エリアにいるのは深層エリアのモンスター。

下手すると死人が出る。

基本的に穏やかな表情を崩す事がない北斗が険しい顔をして即座に帰還石を取り出し使用する。

入り口に戻り、即那覇ダンジョン支部の受付へと向かった。

クランマスターに会いたい、と告げれば最初こそ訝しげな顔をされたが、千歳の名前が書かれた封筒を見せればすぐに話を通し応接室へと通された。


あり、北斗やんあれ、北斗だ迷宮大臣ぬはがち迷宮大臣の手紙むっちたってぃち持ってたってちゃくとぅ聞いたから八咫烏ぬっちゅがんでぃうむたっさぁ八咫烏の人だと思ったよ

「久しぶり、琉歌。なんとなく言ってることはわかるけど、出来れば標準語だと嬉しいかな」

「あい、ごめんねぇ。久しぶりにあったから、ついついこっちの言葉で話しちゃったよ」


那覇ダンジョン支部統括クラン、『ガジュマル』のクランマスター、知花琉歌ちばなるか

例に漏れず、北斗の元パーティメンバーだった。

彼女が転校生として北斗達のいた高校へ来た頃からの仲である。


「それで、どうしたのー?北斗がダンジョン省の大臣さんと仲良しなのは知ってたけど、手紙まで持ってくるなんて」

「…単刀直入に言わせてもらう。那覇ダンジョンにダンジョンブレイクの予兆が出た。今日潜ってきたが、間違いなく起こるだろうね。それぞれのエリアに、一つ下のエリアのモンスターが我が物顔で彷徨いていた」


琉歌も北斗に負けず劣らずの穏やかな気性、というかかなりのほほんとした性格なのだが、北斗の言葉に直様顔色を変えた。


「それは、穏やかじゃないねー。特に北斗が言うんだ、間違いないよー。私にすぐ話を持って来てくれてにふぇーでーびるよー。……あや?」

「ふはっ……そのくらいならわかるから気にしないでいいさね。んで、対策についてなんだが今那覇支部の探索者はあまり潜ってないのかい?」

「やっぱりわかるよねー?そう、あんまり潜ってないんだよー。石垣の方に新しいダンジョンが出来てねー?そっちにみんな行っちゃったんだよー……初討伐ボーナスが美味しいからってねー」


ああ、と北斗の口から思わず声が漏れた。

ゲームをやっている方ならなんとなく理解わかるだろうか。

某サンドボックスゲームでドラゴンを討伐している方ならなお伝わりやすいかもしれない。あのドラゴンも最初に倒した時に得られる経験値はかなりのもので、それを生かしてというやり方をしている人もいる。

それと同じで、ダンジョンも初めてボスモンスターを討伐した時に得られる経験値とドロップ品は相当な物が見込める。

故にすでにボスが何度も討伐されているダンジョンよりも新しい方へ、という心理も分からなくはない。

超人的な能力を持っている探索者とて人間、生活があるのだから。

そうだとしても、ダンジョンのモンスターから市民を守る役割も背負っている探索者が両手をあげてこんな事をすれば、有事の際に上手く事が運ばなくなってしまう。


「とりあえず、私からも探索者各位に通達するつもりだけど、どこまで本気で捉えてくれるかがわからないねー……」

「俺もしばらく滞在するつもりだから、遠慮なく頼って欲しい。前衛として役には立てると思うから」

「にふぇーでーびるねー。でも、いくら私と北斗が揃っていても、2人じゃ溢れ出したモンスターの対処は間に合わないよー」

「そうなった場合の裏技も一応用意してる。アレコレとアイテムボックスには入れておくもんだねえ」


裏技と言いならがら取り出したモノに、琉歌は目をぱちくりさせた後にへにゃ、と口を緩ませた。


「確かに、それがあるならなんとかなりそうだねー。流石北斗だよー。よいしょっと……私は今からクランの重役達と会議してくるから、もしダンジョンに動きがあったらまた連絡くれるかなー?」

「ん、了解。ホテルもダンジョンから近いところを取ってるからすぐに連絡する」

「お願いねー」


バタバタと応接室を出て行った琉歌に、北斗はクスクスと笑みを言葉しながら立ち上がる。

今日潜った時点であの状態のダンジョンを放置するわけにはいかない。

今日のうちに少しでもモンスターを減らしておこうと再びダンジョンへと向かうのであった。















あとがき


誤字指摘本当にありがとうございます。

自分でも確認はしているのですが、一度合っていると認識してしまうと気付かない愚か者なので…もし今後も見つけたら気が向いたらで良いので教えてください。


そして登場しました、4人目のお仲間琉歌ちゃんです。うちなーぐちは翻訳機能的なものを使ってやってみたのですが、自分がなんて書いたのかわからなくなりそうと言う圧倒的知識不足のせいで今後は簡単なものしか登場させられません。申し訳ございません。

ホワホワ系の女の子です。

基本北斗への想いは大きいのですが、琉歌ちゃんはまだ常識的な範囲とだけ。今後どう転ぶかはわかりません。

どうぞお楽しみに。


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