第7話 2度目の配信 その2

「今日使う素材はこれらですね」


“なんだこの素材?”

“何かの糸とビー玉か?これ。それと…何かの毛皮?”

“ちょまって?!!??!え、なんちゅうもんを配信に出してんの!?"

“雨月って昨日下層エリア常連って言ってなかった?え、もしかして深層エリアにも潜ってる?”

“糸も大概やべえけど…え、この毛皮って存在してたんだ…”

“綺麗なビー玉がやばいとは??”

“ビー玉というか、もっとよく言えば黒真珠みたいなこれそんなになの??”

“なんか有識者が度肝抜かれてるくさい反応してるけど、この糸と毛皮とビー玉そんなにやべえの?”


どん。

カメラの前に出した素材はどれも一般人である視聴者には見覚えがなかろうものばかり。

まずは、と説明から入ろうとしたが、北斗と同じく探索者らしい視聴者が何人も書き込んだことによりとりあえずこの素材はやばいという認識が広まったようでコメント欄はさらにざわつく。

害悪コメント?俺に何を言っても覆らないってようやく理解してくれたみたいでまだコメントを打ち込んでいるお馬鹿さんはいるけれど大体は沈黙している。


「この素材に反応してくれているのは俺と同じ探索者ですかねえ?まあ知らない人がほとんどだと思うので説明を。まずこの糸ですが、これはアクラネの魔糸。ゲームをよくされる方は想像もつきやすいかな?上半身が女体、下半身が蜘蛛の形をしたモンスターです。まあゲームでたまに描かれているみたいに上半身部分は美人…ということはなくて、見上げるほどの巨体を持ち、顔面に該当する部分には四対二列の目に蜘蛛の口のようなものがついている正真正銘の化け物です。そのアクラネを討伐するとこの糸をドロップするんですが、これがまた優れもので。伸縮性は勿論のこと、ミスリル程度の強度に高い耐熱性もついているんですよ」


ほら、こんなふうに。

アイテムボックスから取り出したナイフをアクラネの魔糸に向かって振り下ろせば、糸らしからぬ金属音が鳴りナイフが跳ね返され、ライターで糸を炙ってみれば焦げることもなく綺麗なままの姿を見せる。

こんだけ頑丈なのに普通の糸と同じように使えるから縫い物とかに重宝するんだよなあ。

北斗はなんてことないように言ってのけているが、視聴者にとってはそれでは済まず。


“いやいやいや…アクラネって下層エリアにポップするモンスターの中でもえげつない戦力を持つモンスターだぞ?“

“さらっと言ってるけどミスリル程度の強度??マ?“

“糸から金属音してる……ダンジョンこわ”

“見た感じただの糸にしか見えないけど……?“

“燃えない糸……?それって本当に糸??”

“へい教えて有識者、アクラネってどんなふうにやばいの?“


「お、いい質問が出たので俺から説明しますね。まず、アクラネは牙と蜘蛛の足部分に猛毒を持つんです。下手をすると数分で動けなくなって、30分もしないうちに死に至る。なのでポーションがないとまず命の危険があるというのが一点。次に、このアクラネこれと言って弱点らしい弱点がないんです。糸に高い耐熱性がついていることからわかるように炎はあまり効果がないし、下半身の蜘蛛の部分は迂闊に近づくと糸によって身動きが取れない状態にされ、かといって上半身の部分に攻撃しようにも足に阻まれる。このことから複数人のパーティを組み、かつタンク数名は必須、その上で魔法が使える探索者で上半身部分を焼き殺すっていうのが一番安全な方法ですかね。あ、ちなみに俺は魔法が使えない系の探索者なので斬り倒してます」


それでも結構苦戦したんだよな、アクラネ戦。

少しでも間合いを詰めれば足での攻撃、それを避けたところに牙での攻撃を繰り出してくるものだからなかなか決定打が与えられなくて、結局一本ずつ足を削いで、全ての足がなくなって身動きが取れなくなったところを頭を斬り飛ばしてとどめを刺したんだっけ。


“いや、斬り倒してますじゃないんよ”

“やっぱり雨月っておかしい”

“何その化け物…??”

“アクラネを斬り倒せる雨月もすごいけど、もっとやばいのは毛皮の方なんだってば…”

“毛皮の何がやばいの?”

“普通に猟師の人とか、お金持ちの人が持ってるみたいな毛皮にしか見えないけど…?”


ん?なんかコメント欄がどん引いてる気がするけど…ただアクラネを倒したってだけの話なのになぁ?

そのアクラネをソロで仕留めたという事実が異質だからこそコメント欄はざわついているのだが、そうとは梅雨にも思わない北斗は反応に首を傾げつつ、もう一つの素材である毛皮を持ち上げて解説を始めた。


「こっちはズラトロクの毛皮です。黄金の角を持つ白色の獣で、実際現実ではシャモアという動物がモデルとされている伝説上の生き物ですね。まあ、ヤギのような姿を想像してもらえれば。ダンジョンでは深層エリアに出現するようになるモンスターなんですが、伝承上ではアルプス山脈トリグラウ山頂一帯を支配し、そこにある宝物を守っているとされているんですね。それ由来なのか、守るという部分が力を持ったのか、時空操作の能力を持っていまして。攻撃を時間を止めて避けられるわ空間の時間を歪めて攻撃してくるわでまあ厄介な能力ですよ。そしてその影響か毛皮にも包んだものの時間を半永久的に止めると言う力がありまして。だから苦労して倒したとしてこれが確定ドロップならいいんですけど、本当に意地の悪いことにレアドロップで稀にしかドロップしないんですよれ、これ。だからこそ出回ったとしても相当高値で取引されているとか」


ちなみにこの男、他人事のような顔と口調をしているがズラトロクの毛皮を入手するのはこれが初めてではない。

何度かドロップ自体はしていたものの当時は特にこの毛皮に利用価値を見出せずにダンジョン協会に持ち込んだ結果、日本のあらゆるクランや日本のトップたちを巻き込んでの大騒動に発展させたことのある張本人なのである。

なお本人にその認識はない。


“深層エリアって言った、今深層エリアって言った!!”

“しれっと言うことじゃないんだって…”

“高値で取引どころの次元じゃないのよ…”

“これ、切れ端レベルでも数百万するくらいなのに…”

“え”

“数百!?!?”

“て、ことは…この大きさのものになると…?”

“数千万円はゆうに超える”

“やばあ…”

“…嫌な予感したんだけど、つまりこの2つでこんなレベルってことは、このビー玉も…?”


コメント欄がさらに騒つく中、北斗は特に気にした様子もなく最後の素材を持ち上げて紹介するために口を開いた。


「最後はこれですね。この黒い玉は海神獣の宝玉。深層エリア中盤くらいで出現する海神獣リヴァイアサンのレアドロップで手に入る宝玉です。リヴァイアサンって怪物と呼ばれることもあるけれども神が作り出したから神獣なのかなとか、でも嫉妬の悪魔と呼ばれることもあるしなとか、まぁ実際のところはダンジョン内でのネーミングの意味はよくわかっていません。それはさておきこの宝玉なんですが、アイテムを収納出来る能力がついているんですよね。ただ時間経過ありのためアイテムボックスを使える俺には不要だったんですが…この3点があればいいのが作れそうかなと」


“まってなんとなく想像ついた、とんでもねぇもの作ろうとしてんなこの人!”

“え、え??何を作るの??”

“…もしかして、小説とかによく出てくるアレですか?そうなんですか??”


コメント欄には察しのいい面々がいるようだねえ。

にこりと口元に笑みを浮かべた北斗に、それが正解だと察したらしい有識視聴者は絶叫コメントを連投する。

それほどまでに北斗が作ろうとしているものは出鱈目なのだ。本人にその自覚は全くもって微塵もないのだけれど。


「今日作ろうとしているのはダンジョンで宝箱の中からごく稀に出現する超レアアイテム、マジックバッグです。スキルのアイテムボックスとは違って容量が決まってはいるんですが、重量は感じないしこの素材たちで作ればそれなりの容量は入りますので便利な道具になります」


便利な道具って人によってそれぞれ違うと思うけれど、その中でもこのマジックバッグは別格。

そうだな…例えば、探索者って一言で纏めてもダンジョンの攻略方法だったり潜る意図は各々で違うんだよ。

小遣い稼ぎ感覚で浅い層にだけ潜り、日帰りで済ませる者。

ドロップ品や素材がそこそこいい稼ぎになる層に籠り、数日かけてその階層を狩場とする者。

深い階層へ進むために攻略パーティーを組んで潜り、その中の1人が荷物持ちサポーターとして攻略に必要な道具、ドロップ品や素材等を管理、運搬する者。

日帰りなら荷物云々の心配はほぼないだろう。だが、それ以外はそうはいかない。

数日がかりでダンジョンに泊まり込むにしてもそのための荷物、そして採取した素材たちを運ばなければならない。

たとえパーティを組んでいようとも荷物を持つのは基本的に荷物持ち1人。加えて人数分の荷物を抱え込まなくてはないない……つまりは持ち運びができる物にどうしたって限りが出てきてしまう。中にはよりレアリティの高いボス素材、鉱石等を持ち帰るためにそれより上層で手に入れたドロップ品や素材を捨てざるを得ない事だってある。

ならば人に見つかりにくいところに隠しておいて何往復かすれば解決するのでは?と考える者もいるだろう。実際に試した探索者も少なくない。

結論から言おう、出来ないのである。

ここがダンジョンのいやらしいところなのだが、探索者が倒したモンスターのドロップ品、もしくは採取した素材を拾うことなくダンジョン内に放置してしまうと一定時間の経過で消滅してしまう。大量に集めて少しずつ持ち帰ると言ったような方法をとることはまず出来ない。この謎の仕様のせいで割を食った探索者がどれだけいることか。

そう言う時にマジックバッグあれば素材もドロップ品も大量に持ち帰れるから便利なのよ。俺の場合はアイテムボックスのスキルね。 


“やったよ、この人やらかすつもりだよ!!”

“マジックバッグを作る…??あれって大手クランでも1個所有しているかしていないか、個人だとお目にかかるだけでも御の字だってのに…?”

“ごめん、ど素人すぎてわからないんだけどそんなにすごいものなの?”

“すごいなんでものじゃ済まない。雨月はこんな感じでなんてことないように言ってるけど下手したら宝くじの一等とか目じゃないくらいのお金が動いてもおかしくない代物"

“それっておいくら億円…??”

“それなりって、例えばどのくらい入るの??”


マジックバッグの容量か。

初めて作るものだし、ダンジョン産の純粋なマジックバッグもピンキリだからなぁ、正確な容量と言われると…。

視聴者に一言断ってから数分ほどおき、再びカメラへ視線を戻す。


「自作で作るのは今回が初めてなのと、ダンジョンで入手出来た例を調べてみたけどばらつきが酷くて…はっきり行ってしまうととわからない、というのが現状です。まぁ素材がいいものなので大きめのものが出来たらいいなぁと」


ちょきちょき。

ちくちく。

ざくざく。

……ざくざく?

時たま毛皮から鳴るとは思えない異音を鳴らしながらマジックバッグを作成していく。

おお、流石は神の手スキル。元々そんなに裁縫が得意なわけじゃないってのにどこをどう縫えばいいのかが手に取るように分かる。


「ちなみに完成まで無言というのもあれなので、リスナーの皆さんから俺に聞きたいことや質問があればお答えしますよ?」


ふと、このままだと視聴者も楽しくないよな、と何の気なしに北斗が言った言葉を皮切りに凄まじい速度でコメント欄にコメントが溢れてゆく。

わお、すごい大量。

…しっかし、こんなにコメントが来るほど俺のこの物作り配信はつまらなかったのか…はたまた、最初に触れた件について描きたい人間が多いのか。


「おお、こんなに。じゃあ順番に答えていきましょうかねえ。まずは…これかな」


──ダンジョンでの稼ぎって何が主で、どのくらい稼げるんですか?







あとがき


昨日更新する予定が寝落ちました!!

投稿ボタンに指をかけたまま寝ると言う大失態…ごめんなさい!


今回は素材のことについていろいろ書いてみました。自分なりに調べて、こじつけも多いかもしれませんが効果をつけています。

そこで思ったのが…モンスターの一覧みたいな本が欲しい、切実に。



次は探索者の稼ぎ方について。色々書いていきますよー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る