第7話

 サハリンを越えた頃、風が急変した。

 湿った冷たい風。

 空の端に、暗い雲の帯が見えはじめた。

 嵐だ。

 嵐は、空をゆがめる。

 風向きは乱れ、空気は渦を巻く。

 雛たちは、まだ風に乗るのは不得手である。


 アルフは即座に判断し、群れを分割した。

「先に進め!」

 声は、空に溶けた。

 リーリャは戸惑ったが、シララとスリィを連れ、群れの半分と共に風下の島へと逃げた。


 アルフは、後方にいた若鳥数羽と共に強風の只中へ留まり、遅れていたノノンを探すため、旋回を始めた。

 灰と黒が交じる風の鞭が飛び交う。

「ノノン!」

 アルフは叫び、そして、ようやく見つけた。

 波間すれすれを、よろめくように飛ぶ白い羽。

 ノノンは、風に翻弄されながらも、生きようとしていた。

 アルフはノノンの脇へと行き、そっと翼を重ねるようにして飛んだ。

 親鳥の翼の風圧が、子を浮かせた。

 ふたりは、灰色の空をひとつの鳥のように飛んでいった。


 そして、見えた。

 北海道──

 遥か下に、アトサヌプリの白い噴煙。

 その先にある釧路湿原が、命をつなぐ冬の地となるのだ。


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