第6話

母親が激しく首を振った。

「いや、今言ったことは忘れてください。それじゃあもう失礼します」

女はひどく慌てたように立ち上がり、会計を済ませると小走りに店を出て行った。

まるで逃げるかのように。

――なんだったんだ、今のは?

考えたが、徳田にはわからなかった。


夜に老婆はさ迷っていた。痴呆だ。

一見散歩にも見えるが、いわゆる徘徊だ。

老婆は完全にボケていた。

――おや?

目の前に誰かいる。少女だ。

普通の少女ではない。

頭の上半分がない。

あるのは口と鼻の下部分と右目で、その上がないのだ。

老婆は見ていた。

すると半顔の少女が老婆を見た。

老婆は反射的に頭を下げた。

少女はそれには返さず、視線を移して目の前の家をじっと見つめた。

少女はそのまましばらく家を見ていたが、やがて煙のようにその姿を消した。

老婆はそれを見て思った。

――最近は、ずいぶんと変わった子もいたもんだよ。まったく


一人目の被害者が通っていた中学でそれは起こった。

昼休み、死体が見つかった。

状況は前の二人と全く同じ。

頭が顔が、左下から右上に向けて切られ、死んでいた。

死んだ少女は今日が十四歳の誕生日だった。

切られた頭部は死体の横にごろりと置かれていた。大混乱。

警察が来て、生徒は全員家に帰された。

帰宅する女子生徒の大半は泣いていた。

男子生徒も青ざめた顔で家路に着いた。

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