第21話 じゃあ、どうして

これは、私が見ていいものではない。みつきの心臓が釘を打つように鼓動が大きくなる。

星があまりにも生きることを望んでいたから忘れがちだが、彼女は心臓に爆弾を抱えているのだ。いつ死んでもおかしくない、死ぬかもしれない恐怖は日常にこびりついて離れない。

そんな毎日が、星に弱気を起こしたのだろうか。

―…遺書。

みつきはその二文字を脳裏に浮かべながら、席を立った。心が落ち着かない。

手を揉みながら、部屋の壁と反対の壁を行き来する。その度に、足輪から繋がれた鎖がジャラジャラと耳障りな音が響いた。


「大丈夫…、大丈夫。」


星は死なない。だって、私の心臓を食べるのだから。

そして延命をして、歌作りを続けるのだ。星が作るのだから、それはとても美しい歌だろう。聞いてみたいけど、残念。その頃には、私は無事に死んでいる。

そう。それで、世界は廻っていくのだ。それが世の理というものだ。


「…星…。」


ほたほたと顎から水が滴るような感覚に、みつきは自分が泣いていることに気が付く。頬に触れると、幾重もの筋になって涙が零れていることがわかった。サラサラとして、熱い涙だった。


「泣くな、星は死なない…。」


自らに言い聞かせるも、涙を止めることができない。まるで感情と共に涙腺が壊れてしまったかのようだ。


「!」


ふと気が付くと、玄関でガチャリと鍵を開ける音がした。目線を持ち上げると、星が寒そうに外から室内に入ってくるところだった。時計を見ると、まだ午後4時。


「ただいま戻りましたー。思ったよりも早く終わりました、」


パチッと電気が弾けるように星と目が合う。みつきの目に浮かぶ涙を見て、星は一瞬目を丸くした。


「…どうしたんですか。」

「あ、ごめ…、何でもない…。」


慌ててみつきは目元を拭う。星は手袋を取ると、膝をついてみつきの頬を両手で包んだ。しばらくみつきの頬の肉をふにふにと揉み、横にきゅっと引っ張る。


「…、」


みつきはされるがままだ。


「何でもないってことは、ないですよね。」


あ、これは怒ってる顔だ、とみつきは星と視線を合わせながら思う。


「言って。」

「…星、が。」

「私ですか?」

「星が、死ぬかもしれないって、思って…。」


みつきの脆弱な言葉に、星は目を瞬かせた。


「死ぬ気はないですよ。」

「…うん。」

「みつきさんの心臓を食べれば、私、生きられるんですから。」


じゃあ、どうして遺書を残すの?なんて聞けるわけなく。みつきはしばらく、涙を零し続けた。


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