アナグマ~とある地底人の物語~
JEDI_tkms1984
1 序章-1-
耳をつんざく獣の叫び!
輪唱するようにあちこちから聞こえる不気味な声に、アナグマは舌打ちした。
「聞いてない……聞いてない……!」
道具袋を抱えたネロは小さな体をさらに小さくしてうずくまる。
「現実から逃げるな。よく聞け、これがブルーバの声だ。ああやって仲間と連携をとっているんだ」
「……ちがう」
ネロは不愉快そうに返した。
「話がちがう。こんなことになるなんて聞いてない。荷物を運ぶだけのカンタンな仕事だって言われたんだ!」
「大きな声を出すな。奴らに気付かれる」
「おかしいと思ったんだ。二万コームもくれるなんて! こんなことなら安月給でも在庫係のほうがマシだよ」
抱えていた道具袋に顔をうずめ、ネロは頭を抱えた。
「ああ、ああ、分かった。あとで一杯おごってやる。だからその荷物をしっかり持ってろ」
アナグマは自分の何倍も丈のある草木をかき分け、泣き言をやめない彼のために先導して道を作ってやった。
「出てきた道とちがう……」
「ここからなら十七番ゲートのほうが近い。あの坂を下りたところだ」
その後も”ちがう、ちがう”とうわ言のように繰り返すネロを引っ張り、ゲートを目指す。
獣の咆哮が遠くに聞こえた。
どうやら脅威は去ったらしい、とアナグマは一息つく。
「こんなの、十万でも割りに合わない……」
ネロは何度もため息をついた。
「そうボヤくな。ほら、見えたぞ」
アナグマが指さした先にはトンネルがあった。
入り口は石やゴミで塞いであるので、一見しただけではそれとは分からない。
「ああ、やっと帰れる!」
ネロはようやく笑顔になった。
トンネルはゆるやかな下り坂となって、ずっと奥へと続いている。
入り口付近で大きく湾曲しているため、外の光はほとんど差し込まない。
これは外敵の侵入を防ぐのに適した構造だからだ。
かつては技術的な問題もあり、入り口から出口まで一直線のトンネルが多く造られたが、今ではほとんど見られない。
周囲に誰もいないのを確認すると、二人は暗闇の中を進んでいった。
しばらく歩くと頭上にほのかな明かりが灯った。
等間隔に光る橙褐色のそれは弱々しく、足元まで届かない。
だがアナグマたちはまるですべてが鮮明に見えているように、悠然と歩いている。
踏み固められた地面はやがて無機質な金属へと変わった。
ネロがいそいそと壁面に隠されているボタンを押した。
壁の一部がスライドする。
現れたのはところどころが錆びついたエレベータだ。
無駄な意匠のない、無骨な見た目のゴンドラだが、それだけに実に堅牢に造られている。
ドアを閉じると、ネロはすっかり脱力した様子で壁にもたれた。
「よくがんばったな」
ねぎらっているようでアナグマはにこりともしない。
この男はいつもこの調子だ。
任務に笑顔は不要、と言わんばかりにまるで表情を変えない。
クールでニヒルだと本人は思っているのだ。
だがネロは知っている。
彼が本当は冷静沈着であろうとしているだけで、その実はアツイ男だと。
「ん? なんだ?」
視線に気づいたアナグマが訝しげに訊く。
「いや、別に……」
ネロがふいっとよそを向いたとき、耳障りな電子音が最下層に到着したことを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます