第15話 薬草探し

ノルンとミリアは早速、ウィズケルの近くに広がる始まりの草原、タビー草原にやってきた。


「わぁ~一面に草が広がってるね⋯⋯」

「ああ。地図で見たものよりも、ずっと広く感じるな。」


眼前に広がる、広大な緑の風景。

さんさんと照る陽に、そよ風がそっと髪を揺らす。

遙か遠くに、ポツポツと冒険者らしき点が見えるのが、より一層広大さを感じさせる。


「さて、早速薬草を探すか!――と言いたいとこなんだが⋯⋯」


ノルンは、足元をじっと見つめる。

天然のカーペットの如く、たくさんの緑色の草が生え散らかっていた。


「お兄ちゃん、足元にたくさん草が生えてるね。」

「くそー!これが全部薬草だったらすぐに終わってたのに!雑草と全く見分けがつかないじゃないか!」


ノルンは、ぷんぷんと不満を噴出しながら地団駄を踏んだ。

一歩足がつく度に、シャキシャキという音が聞こえるのが、彼の不満をより一層引き立たせる。


「私は、早く終わらなくてもいいかな〜こんなにも景色が綺麗だし、風も気持ちいいし、それに――」


ミリアはもじもじしながら、独り言をぼそっと零す。


「お兄ちゃんと一緒の初めての冒険、嬉しいし⋯⋯(ぼそっ)」

「ん?何か言ったか?」

「い、いや、別に!なんでもないよ!」

「そうかそうか。それじゃ、薬草を探してみるか。」


風が味方し、ミリアの独り言をぴゅーっと攫っていく。

ノルンのこういった素っ気なさに、ある意味助けられたと安堵する気持ちと、すれ違うもどかしさを感じる気持ちがミリアの中で葛藤した。


「とりあえず、何本か適当なものを拾って、違いがないか確かめてみるか。」

「そうだね。もしかしたら、薬草にしかない特徴があるのかも⋯⋯」


そう言って、二人は山ほどの草をかき集め、近くの岩の上に並べてみる。


「うーん⋯⋯やっぱり分からないよぉ〜」


それぞれの見た目の差は、全く分からない。

草を重ねても、何の変化も起きない。

一応、カリンからは慈悲として薬草と雑草のサンプルのイラストを貰ったが、いくら見比べても判別がつかない。

すると、ノルンは両手に一本ずつ草を持ち、とんでもないことを言い出す。


「よし!見ても分からないなら、味で確認してみよう!」

「えっ!?お、お兄ちゃん、それ、食べていいやつなの!?」

「それ、ミリアが聞くことなのか?いつも変なものに興味持つ癖に。」

「ひっどーい!」

「とにかく!急がないとっ!」


ミリアは慌てて止めようとする。

だが、聞く耳を持たないノルンは左手に持った草をむしゃりと齧ってみた。

すると、その瞬間に一気に苦虫を噛み潰したような――いや、雑草を噛み潰した顔をしていた。


「おえ〜何これ⋯⋯まずっ、うっ!」


左手に持っていたのは、どうやらハズレだったようだ。


「うーん⋯⋯じゃあ、右のやつかな⋯⋯?」


ノルンは諦めずに、今度は右手に持っている草を食べようとする。

すると、ミリアが泣きながらぎゅーっと抱きついてきた。


「うわっ!ちょっ!?いきなり何をするんだ!ミリア!」

「お兄ちゃん⋯⋯これ以上変なことして、死んじゃったら⋯⋯寂しいよ⋯⋯」


涙目のミリアが必死に泣きついてきて困惑するノルン。

だが、こういう状況だからこそ冷静に言い放った。


「なあ、ミリア。今、僕は左手の雑草を食べて失敗したんだ。そして、この草原には雑草と薬草の二種類がある。今度こそ薬草のはずなんだ!」

ミリア「お兄ちゃん!」

「えぇいっ!」


ミリアの制止を振り切り、ノルンは覚悟を決めて右手の雑草に食らいつく。

だが、その顔はつい数分前と同じものだった。


「ぺっぺっぺっ!何だこれはっ!?どっちもハズレじゃないか!」

「あはは!どっちもハズレだったね!」

「⋯⋯」


憤ったノルンは、ミリアから奪い取るように二枚のイラストを真剣に見比べた。

そして、紙に穴が開きそうになるほど睨みつけた末に、世紀の大発見をすることになる。


「あれ?この隅っこに小さな文字が⋯⋯?」


すると、ミリアが持っていた時にはその小さな手に隠れていた部分に、偶然にもさらに小さな文字が書いてあった。

よーーーく目を凝らさなければ、ただの汚れにしか見えないほど小さな文字群。


『あ、そうそう♪雑草も薬草も、とーってもマズイので口にしないでくださいねっ♪

カリンより。』


腹が立つほど丁寧な文字で、小悪魔カリンからの忠告文が書いてあった。


「ふざけんなっ!僕の覚悟をかえせっ!」


ノルンは、地面に二枚のイラストを叩きつけた。

すると、片方のイラストが小さな破け目を作ってしまう。


「もぉ〜お兄ちゃん、これはとっても大事な資料なんだから――」


その時、紙を拾いあげようとしたミリアは重要なことに気づく。


「⋯⋯!分かったよ!お兄ちゃん!」

「ん?カリンさんの性格の悪さか?」

「うーん⋯⋯それはどうだろう?」


不機嫌そうな表情を浮かべたノルンは、ミリアが指さす破け目の近くの葉の付け根を見る。


「ほらここ♪雑草は葉が右巻きに生えてるけど、薬草は左巻きに生えているわ!」

「おお!凄いじゃないか、ミリア!これで薬草探しも無事に終わるな!」


ノルンは、ミリアの頭をぽんぽんと撫でた。

ミリアの耳と尻尾は、嬉しそうにぴこぴこ揺れていた。


「じゃあ、早速探しに行こう!」

「うん♪お兄ちゃん♪」


種と仕掛けさえ分かってしまえば、初心者にとって難しいクエストもたちまちただの作業と化してしまった。

二人は、広い草原へと思いっきり駆け出したのだった。

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