友だちの話

弓道部に入部してから、約2週間が経った。

初めて光瑠先輩と話した日から、私は彼と会っていない。

(同じ学部だから会うかもって思ってたけど、学年が違うから無理かなぁ)

はぁ、とため息を着くと頬をつつかれた。

「しいちゃん、どしたの?ため息ついて」

すぐ隣に座っていたみおこと、栗山みおが不思議そうに顔を覗き込んできた。

私の正面に座っている祈織こと、逢坂祈織も首を傾げていた。

2人に支配させていると気づき、私はブンブンと首を振る。

「ううん、何でもないよ!」

そう誤魔化したけれど、みおはじっと私の顔を覗き込んでくる。

何かを見透かされそうで、私は慌てて顔を逸らした。

「そ、それより!早く食べないと冷めちゃうよ」

強引に話題を変えて、カレーを口に運ぶ。

そんな私を見て、眉をひそめていたみおもお弁当を食べ始めた。

「あ、そういえばね。聞いて欲しいんだけどー」

祈織が話し始めたので、みおがそれ以上何か聞いてくることはなかった。




翌週の放課後。

祈織と私は大学近くのゲームセンターに来ていた。

「あっ!これとかよくない?」

「新しいのだよね?撮ってみようよ!」

プリントシールのコーナーを歩き回り、気になった機械に入る。

諸々の設定をして、2人で決めたポーズを移した。

撮れた写真に落書きをしていると、祈織がチラチラと視線を向けてきた。

「伊織?どうしたの?」

「私さ、彼氏と別れたんだよね。前に話した、お兄ちゃんの友達と」

「あ〜絢斗さんだっけ?結構仲良くなかった?」

「仲はいいよ。ただ、価値観の違い?で別れたの」

「なるほど……」

落書きを終えて、機械を出る。

ぬいぐるみやお菓子の入ったクレーンゲームを横切りながら、私は首を傾げた。

(恋愛って、やっぱり難しいなぁ)

恋愛上手に見える伊織でも、上手くいかないことがあるのだから私はもっと上手くいかないのだろう。

ゲームセンターを出て、エスカレーターを降りる。

何気なく視線を上げた私は、息を飲んだ。

「えっ…」

「しーちゃん?どうかした?」

振り向いた伊織に答えず、私はある場所を見つめていた。

そこにいたのはー。

「…っ、………行こう、伊織」

「えっ?でも…」

「いいからっ!行こう」

伊織の手を掴み、出口に向かって歩き出す。

そのまま小走りにショッピングモールを出た私は気づかなかった。

彼が、私を見ていたことに。

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