第11話 クラスメイトたち。

 sideクラスメイトの内心(三人称?)



 一年A組の教室は、朝からおかしかった。


 いや、「男子が来る」と聞いた時点で、何かが壊れ始めていた。



◆クラス委員長・榊原笹さかきささ

(出席確認よし、配布物よし、黒板よし……あと問題は男子。私は委員長。最初の一言で「地味だけどいい子」ポジションを確立しなきゃいけない。間違っても「最初に声裏返った女」にはなるなよ私)


戦果秋保せんがあきほ

(退学は免れた。再教育は決定。九十九は鬼。……でも、晴信とあの英雄バカと同じクラス。ここでヘタ打ったらマジで生き埋めコース。九十九だけは絶対ぶっ倒して、私が教えてやる)


◆守護生候補/黒川麻鈴くろかわまりん

(朝比奈零士くん担当前衛補助。まだ姿も見てないのに護衛プラン立てろって頭おかしいけど、まぁ燃える。教室出入口2、窓3、死角4、いける。とりあえず今日の目標、「男子に引かれないレベルでガチSPムーブ」)


◆守護生候補/花村のあ《はなむらのあ》

(真壁くん担当って聞いた瞬間、足から血が抜けた。でも葵ちゃんと一緒ならなんとか……なる? ならなかったら? 私が泣く。ここで失敗したら一生「初日でやらかした守護生」だよ、やだぁぁ)


◆テニス志望・女子1

(男子と一緒にラリーしてみたいな〜とか思ってるけど、そもそも男子がラケット持つ前に守護生に止められそう。「男子の手首に負担が」とか言って触れてみて! きゃー)


◆図書委員志望・女子2

(入学式で「英雄になりたい」って言ってた人が同じクラスって、もうそれだけで一冊書ける。「図書委員、英雄志望男子に恋をする」ってタイトルは……さすがに重いか)


◆大人しいメガネ・女子3

(男の人とまともに喋ったことない。目も合わせられない。なのに教室に二人もいるとか、ここ修行場? どうしよう、名前呼ばれたら即気絶コースでは?)


◆おしゃべり好き・女子4

(言っとくけど、巻き髪は「たまたま」だからね? 男子来るって聞いたからじゃないからね?? ……って誰に言い訳してんの私。目が合ったらとりあえずニコってしとこ。産める準備はできてる)


◆スポーツ系・女子5

(秋保って、普段は喧嘩番長で笑ってたけど、「男に手出そうとした女子はマジで潰す」って有名だからなぁ……。その秋保に突っかかられて無傷で返した英雄男子、あれ普通にバケモンでは?)


◆雪華ファン・女子6

(白代さんが守護生って決まった瞬間から、私の中で一年Aは「白代雪華ヒロイン化プロジェクト」なんだよね。英雄男子? 正直、白代さんの踏み台じゃない? ※褒めてる)


◆葵ファン・女子7

(葵さんの進路、「どこにでも出てくる真壁くんの壁」って感じで最高。守護生任命おめでとうございます。お祝いに尊みで死にます)


◆平凡・女子8

(私は普通。勉強も運動も中庸。ここで男子にガッツかない「普通の子」ポジションに座れば、ワンチャン「気づいたら隣にいた」ルートあるのでは?)


◆真面目ガチ勢・女子9

(男子がいても、騒いだらダメ。規律第一。恋バナは放課後。テストは毎回赤点回避。……でもさすがに英雄宣言はちょっとカッコよかった。いや、惑わされるな私)


◆恋バナ好き・女子10

(男子まだ来てないのに「どっちと付き合うか」アンケを自分の中で回し始めてるの、だいぶ終わってる自覚はある。でも楽しいからやめない)


◆情報通・女子11

(朝からSNS見たら「九十九の英雄男子」「女尊男卑社会に現れた狂気の男」とかハッシュタグついてて笑ったんだけど、その人が同じクラスって何。炎上物件最前列じゃん)


◆生徒会入りたい・女子12

(男子周りで問題が起きたら、一年A組が真っ先に監査対象になる。ここでやらかしたら将来の「生徒会役員」の道が閉ざされる。頼むから誰も暴れないで。特に戦果)


◆保健委員志望・女子13

(男子に怪我させたら重罪、男子が怪我してても重罪、守らなくても重罪。これ実質、医療系ブラック職場では? でも救急箱は完璧にしておく。あと氷枕三つ)


◆戦果の中学友だち・女子14

(秋保、普段なら「男子同じクラスやべぇ!」って一番騒いでるのに、今日はやたら静か。歩く火薬庫が無音で転がってる感じ怖い)


◆空気読み上手・女子15

(教室の湿度、緊張と期待で150%。男子が入ってきた瞬間、誰か絶対声裏返るか、椅子から転げ落ちるかする)


◆デジタル好き・女子16

(初日から写真は自重する。守護生のガチな目線、レンズ越しでも折れそう。とりあえず脳内スクショは全力で撮る)


◆婚姻届ガチ勢・女子17

(鞄の中に婚姻届入れてきたの、正直自分でも引いてる。でも「運命の相手に出会った瞬間出したい」っていうロマンは止められなかった。机の中に入れとこ。チャンスは三年間)


◆男子研究オタク・女子18

(男の平均心拍数・握力・視線移動速度……全部データでしか知らない。ついに「生の男」が観察できる時が来た。ノート三冊用意した。実験計画もある。倫理? 知らん)


◆/ややヤンデレ・女子19

(このクラスに来る男子は「全員うちのクラスのもの」なんだよね。外部の女に持ってかれたら普通に許せない。ギャル高? 知らん。来たら全員ぶっ飛ばす)


◆ノリノリ・女子20

(マジ〜? 男子二人ってま? ネイル薄めにしてきて正解なんだけど〜。でも守護生囲いとか聞いたからには、ちょっとくらいはかき回さないとギャルの名が廃るわ)


◆ふわふわ天然・女子21

(男子ってほんとにいるのかな……? 幻とかじゃない? いたらいい匂いしそう……って言ったら委員長に怒られるよね、心の中だけにしとこ)


◆オタク女子・女子22

(英雄志望男子×喧嘩番長女子×氷の主席×無口な守護生……いや構図エグくない? これだけで三本くらいカップリング作れる。尊い。ノートに相関図描こう)


◆法律オタ女子・女子23

(男子に対する接近禁止距離は校則第8条、第9条、第10条に跨って規定されている……。守護生の許可なしに半径一メートル以内に入るの、実質グレーゾーン。訴訟リスク……燃える)


◆貞操逆転社会大好き勢・女子24

(この男女比がたまらん。男子二人に女子二十五人。合法的に取り合える。ここから先は戦場。私は可愛い笑顔のまま、裏で肘鉄くらい入れるタイプ)


◆ちょっとおかしい保護欲MAX・女子25

(男子=守るべき生き物=かわいい。英雄志望だろうがなんだろうが、歯磨きと寝る時間はちゃんと管理してあげたい。今から母子手帳もらってきていい?)


 教室中の脳内がそれぞれ暴走していた、そのとき。


 ガラリ。


◆榊原笹

(来た……ッ! よし私、今ちゃんと笑えてるよね!? 口角上がりすぎてホラー顔になってないよね!?)


◆空気読み・女子15

(今、教室の気温が三度上がった。あと酸素薄くなった)


 先頭に立つのは、スーツ姿の女性教師。その後ろに、白代雪華、水野葵、そして、男子二人。


◆戦果秋保

(……やっぱムカつく顔してんな、朝比奈。真っ直ぐで、迷いがなくて、守るとか平気で言う目。嫌いだ。殴りたい。でもちょっとだけ、かっこいいのもムカつく)


◆図書委員・女子2

(本当にいた……英雄宣言男子……。表紙絵が似合いそうな顔やめてくれ)


◆大人しいメガネ女子3

(あっ、優しそう……。ていうか本当にいるんだ男の子……。はい心臓バクバク開始)


◆葵ファン女子7

(葵さん、真壁くんの横に立った瞬間、完全に「守護生フェイス」になっててしんどい。プロだ。プロの壁だ)


◆黒川麻鈴

(視線の動き、歩幅、肩の揺れ……全部チェック。目が離せない)


◆花村のあ

(真壁くん、やっぱりちょっと緊張してる。でも、葵ちゃんがいるから安心してる顔……よかった)


「はーいみんな、お待たせ」


 担任、水品ミズシナ先生が手を叩いて教室を落ち着かせる。


◆真面目ガチ勢・女子9

(先生、さっきからちょっとテンション高くないですか? 男子来たの普通に嬉しそう。先生も女ってこと。これは危険!)


「改めて。今日からこの一年A組の担任をする水品です。よろしく」


 簡単な挨拶のあと、来た。


「じゃあ、まず噂の新入生、男子二人から挨拶してもらいましょうか。朝比奈くん」


◆女子ほぼ全員:(((噂って言った!!)))


 朝比奈零士が、一歩前に出る。


◆体育会系女子5

(近くで見ると肩幅やべぇ。腕もしっかり。あれは腕相撲したら肘ごと持ってかれるやつ。あの腕に抱かれたい!)


◆大人しい女子3

(黒板前に立ってるだけで主役感すごい……。もう帰ってもいいかな……心がもたない。好き!)


◆婚姻届ガチ勢女子17

(フ、フルネーム……聞き逃さなかった……。婚姻届の「夫になる人」の欄、今サラサラっと書きたい衝動と戦ってる)


「朝比奈零士です。山から出てきました。まだ都会の常識がよくわからないんですけど……ここで、英雄になれるように頑張ります。よろしくお願いします」


 一瞬の静寂、次の瞬間、教室の内側は大爆発。


◆恋バナ好き女子10

(英雄になりたいって、マジで日常会話で言う人類いるんだ……好き)


◆情報通女子11

(入学式のはネタじゃなかったのね。ガチだわ。未来の炎上候補、間近で観察できるの嬉しすぎ)


◆雪華ファン女子6

(白代さんの口元、今ほんのり上がった。はい尊い。ここテストに出る)


◆男子研究オタク女子18

(自己紹介の内容から家庭環境・価値観・将来志向まで推定できる……これは面白いサンプル。実験台第一号)


◆ヤンデレ寄り女子19

(「ここで英雄になれるように」ってことは、ここで守る相手も探すってことだよね? ……はい、うちのクラスから出さない。私が捕まえてもいい?)


「じゃあ、次。真壁くん」


◆読書好き女子C

(うわ、可愛い系きた……! これ完全に守られ男子の顔……保護欲そそる!)


◆葵ファン女子7

(葵さんの保護オーラが増した。真壁くんの一歩一歩に合わせて身体重心変えてるのやば。職人技)


「真壁晴信です。ここで、あまり迷惑をかけないように……でも、あの、友達もできたら嬉しいです。よろしくお願いします」


◆平凡女子8

(迷惑かけないようにって言える男子、好感度高すぎ。友達枠でいいんです!)


◆花村のあ

(ちゃんと前見て話してる……えらい……。今の友達もできたら嬉しいですの一言で、クラス全員ライバルになった気がする。私もがんばろ)


 二人が頭を下げると、表向きは整然と拍手。


 だが内側は完全に祭りだった。


「じゃあ席ね。窓際の一番後ろから白代、朝比奈、真壁、水野。前列に黒川と花村。はい、動いて」


◆榊原笹

(出た、守護生でガチ囲いの布陣。ここが一年A組の聖域か……)


 四人が席へ移動する。


 窓際最後列に白代雪華、その隣に朝比奈零士。

 さらに真壁晴信、水野葵。

 その前に、黒川麻鈴と花村のあ。


◆雪華ファン女子6

(雪華さん×英雄男子の横並び、ビジュアルが強すぎる。今すぐポスターにして昇降口に貼ろう)


◆スポーツ系女子5

(後ろ姿でもわかる、朝比奈くん背中デカい。懸垂何回できるか聞いてみたい。もう背中に乗ってマッサージしたい)


◆戦果秋保

(晴信の隣に葵。うん、想定内。想定内だけどモヤる。私の席だったはずなのに。一番前の私から遠っ!)


◆黒川麻鈴

(背中から刺さる視線……脇汗やば! 感じる!!?!)


◆花村のあ

(真壁くん、呼ばれたらすぐ振り向ける距離……。最高。感謝しかない)


◆水野葵

(隣。守りやすい。何かあっても0.5秒で前に出られる。うん、想定通り)


◆白代雪華

(英雄志望+田舎育ち+稀少男性。リスク指数高すぎ。生活計画、訓練計画、交友関係管理……全部せつかがやらないと死ぬ)


 水品先生が出席を取り始める。


 一見、ただの入学初日のホームルーム。


 だが、女子二十五人分のぶっ壊れた内心は、すでに「英雄志望男子」と「中性的男子」を中心に、ギチギチに回転を始めていたのだった。

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