第7話 扉の向こうの約束



胸の中がふわっと暖かくなった。


僕はそっとその場に腰を下ろし、ドアに向かって静かに語りかけた。


「お兄ちゃん……

 今までごめんなさい……。

 さっき、お父さんが手紙を見せてくれたんだ。」


言葉にした途端、胸の奥がきゅっと痛んだ。

兄の苦しさがようやく分かった気がして、それがつらかった。


「理由があるから部屋にいるんだよね。

 そんなことも考えずに、自分のことばっかり 

 で……。

 毎日ここを通るたびに、酷いこと言って……本当 

 にごめん。」


喉が詰まり、自然と笑いが混じる。


「でもね……ちゃんと伝わったよ。

 お兄ちゃんが僕のことをどれだけ大切に思ってく 

 れてたか。

 ありがとう。」


しばらく沈黙が落ちた。

それでも、言葉は止まらなかった。


「僕も、お兄ちゃんのこと、信じてる。

 だからさ……お兄ちゃんと同じ高校に行くよ。

 明日からもっと頑張って、推薦されるようになる 

 から。」


自分に言い聞かせるように、拳を握る。


「僕なら大丈夫。

 きっと、お兄ちゃんの方がもっとつらいんだろう 

 し。」


言ってはいけないと思いつつ、どうしても確かめたくて口を開いた。


「四年後……いなくならないよね?

 お兄ちゃんが部屋から出てくるの、みんな楽しみ 

 にしてるから。

 六年分の話、ちゃんと聞かせてよ。」


ふと、あの紙袋のことを思い出す。


「あ、そうだ。ハンバーガー、ありがとう。

 泣きながら食べたけど、めちゃくちゃ美味しかっ 

 た。」


自然と、兄の姿が頭に浮かぶ。


「ご飯はちゃんと食べてる?

 体、大きくなってたからびっくりしたよ。

 臭くなかったし、お風呂もちゃんと入ってるみた 

 いで、安心した。」


少しだけ、からかうように笑う。


「でも、髭は剃った方がいいよ。似合ってなかった 

 からさ。……ハハハ。」


笑い声はすぐに震えに変わった。


「ねぇ、お兄ちゃん。

 毎日、話しに来てもいいかな?

 夜の八時から九時の間、勝手にここで話すから。

 時間があったら、聞いててよ。」


最後の一言は、そっと祈るように。



「それと、今日の晩ご飯もハンバーグだったよ。

 ……じゃあ、また明日ね。おやすみ。」


ドアの向こうは静かだった。

それでも、僕はほんの少しだけ、温かな気配を感じていた。


翌日。

約束の時間に兄の部屋の前へ行くと、ドアと床の隙間に、一枚の紙が置かれていた。



第8話へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る