第30話噴霧ポーションの実力
コランは傷付いたカムイ鹿をユニーの背から降ろして取り出した防水シートに横たわらせて傷口を確認する。
グラゼラーベアの鋭い爪に引っ掻かれた傷口が痛々しい。土の上で転げまわっていたせいで傷口に土が入り込んでいる。
通常なら丁寧に傷に付いた土を取り除き消毒してからポーションを飲ませる事になる。
ポーションを飲ませると傷口が一瞬で塞がってしまうから、土などの不純物が筋肉部分に残っているとやがてそこから腐ってくる恐れがある。
だがコランは構わず傷口にポーションを噴霧した。
(えっ、そんなことしたら!)エルミランは驚愕した。
驚くのはその後だった。鹿の傷口からブクブク泡が溢れその泡に土が乗って傷から排除されていく。鹿の様子が穏やかになっていく。痛みも感じていないようだ。
「ふむもう大丈夫なようだのう」コランは頷いた。
傷口から溢れていた泡はサッと消え去り出血も止まり傷口が塞がった。
たった1度ポーションを噴霧しただけなのに、まるで最初からプログラムされていたように、治癒行為が流れるように実施されていたのにエルミランは、ようよう気が付いた。
「コラン様これって?」
「そう、ポーション自体に仙術を施して、治癒行為を順序良く鑑定しながら行われるように組み立てておるのじゃよ」
「ポーション自体が考えながら治癒行為を行っていると⁉驚きました」
そうしている間にも鹿の方は元気を取り戻していた。コランに礼を言うかのように頭を下げて元気に森に戻って行った。
「コラン様教えて下さい、何故薬草を乾燥させたのですか?何故【アネキリ草擬き】を混入させたのですか?何故……」
「まあ落ち着いて一つずつ答えていくよ」
「申し訳有りません、焦ってしまいました」
「なぜ乾燥させたかじゃが、薬草の水分を蒸発させると薬草の
薬効成分が凝縮させて効き目が良くなることは知っているだろう?」
「はい、たいていの薬草はそうですが【アネキリ草】の場合はそうじゃない筈だったのですが……」
「君自身は乾燥しないものと乾燥したものとの比較試験を行ったことが有るかね?」
「いいえ、【調薬大全】という書物に則って調薬しております。下手にその本に書かれた以外の方法を試そうとすると先生に叱られました」
「そうじゃろうのう【調薬大全】という権威に邪魔されていたのだろうて」
「では【調薬大全】が間違ったことを書いていたと?」
「そうは言わんが【調薬大全】だけに頼りきりになるのは危険だということだ。進歩が無くなる恐れがあるからだ。儂は今回のポーション作りの前に実験していたのだよ。その結果乾燥させて粉々にして用いた方が30%効果が高くなったという事実を突き止めていたんじゃよ」
「流石です。コラン様何時の間に?」
「儂の使う仙術には、時間を操作できる術が有るとだけ言っておこう」
エルミランは思う。(はあ、【コラン様だから】なのね……)
「なぜ【アネキリ草擬き】を混ぜたのか?という質問には毒も薬になるなるからじゃよ。傷の内部から土などの不純物を除去するための時間的余裕を持たせるためじゃ」
「効き目の良いポーションほど一瞬で傷がふさがって異物が筋肉内部に残るのを防ぐ為ですね」
「そうじゃよ。賢いのう」
(コラン様に賢いって誉められちゃった嬉しい)
実際に自分がそれを出来るかと問われたら考え込んでしまう。
この調薬方法は【コラン様だから】可能なのだとエルミランは思う。仙術と、魔法、錬金術を巧みに取り入れて行うコラン様だからこそ出来る奇跡的な方法なのだ。
「そろそろ夕食の支度をするか」
「では私はテントを張りますね」
「いや、君こそ良ければ儂のテントに泊まらぬか?大丈夫鍵のかかる個室が完備されておるぞ」
「はへ鍵のかかる個室付きですか?」
エルミランは間抜けな声を出してしまった。
「論より証拠。ここに出してみよう」
言うなりコランはテントを張る場所の地面を一瞬で整地を行いサクサクッとテントを張ってしまった。外から見ると5メートル×5メートルの大きいテントだったがたった1人だけで設営してしまった。中に入ると窓はないけれど普通の住宅の室内みたいだった。
外から見た大きさの何倍も広い空間だった。食堂が有り2つの個室が有る。確かにカギがかかるようになっていた個室には風呂とトイレが付いている。日本のホテルの部屋に似ている。
コランは食堂の調理場で夕食の準備を始めた。
エルミランは呆気にとられたまま適温に保たれた快適な室内で、ふかふかベッドに腰掛けて夕食が出来上がるのを待つしか出来ることが無かった。
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