第25首 王子レオンは、順番の箱を破る
鉄の扉が開く。
冷気が
骨に染みた。
鉄箱が
黙って整列している。
順番の予定表。
首の台本。
王城の静かな支配。
「殿下」
セヴランが低く言う。
「ここを壊せば
王城は教会を疑います。
教会は王城を疑う」
「疑わせろ」
レオンは
迷いなく鉄箱に手を置いた。
「疑い合って
歯車が噛み外れた瞬間が
俺たちの入口だ」
カイが
一歩近づく。
「俺、斧……持ってきてないですけど」
「斧はいらない」
レオンは
自分の首筋に触れた。
「線がある」
「……え」
セヴランが
息を呑む。
「殿下、まさか
“線首”の権限を
王城にぶつけるおつもりで」
「権限なんて
最初から神のものでも
王のものでもない」
レオンは
鉄箱の蓋に
指先を滑らせた。
すると。
――カチリ。
鉄箱の紋章が
一瞬だけ
揺らいだ。
王家の印が
“ひっくり返った紋”に似た形へ
ずれた。
レオンは
ゆっくり息を吐く。
「ほらな」
「殿下……」
「順番は
祈りと同じだ」
レオンは
低い声で言う。
「信じる者が
多いほど固くなる。
疑う者が
一人でも増えれば脆くなる」
レオンは
鉄箱を
真っ直ぐ開けた。
中の紙を
抜き取る。
そして。
燃やさない。
破かない。
隠さない。
ただ――
床に落とした。
紙は
ひらりと落ち、
石の床に貼りつく。
『第二処刑祭
今年の“落とす首”配分を厳守』
文字が
あまりに
むき出しだった。
カイが
喉を鳴らす。
「これ……
見られたら
終わるやつだ」
「終わらせる」
レオンは
次の箱も開ける。
次も。
順番が
床に広がる。
王城の首の台本が
石の上で
晒されていく。
セヴランが
掠れた声で呟く。
「……殿下」
「なんだ」
「あなたは
“順番の箱を破る”のではない」
セヴランは
床の紙を見下ろした。
「“順番という概念”を
人々の目の前へ落としている」
レオンは
冷たく笑う。
「祭の観客に
台本を渡すだけだ」
その瞬間。
――カチリ、カチリ、カチリ。
音が
王城の奥で連鎖した。
歯車が
悲鳴のように
噛み合い直していく。
「……始まったな」
レオンは
立ち上がる。
「王城の首が
揺れる」
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