第5話

俺達は、琴理さんといのりが務める探偵社、「朝月探偵社」へと向かった。

琴理さんが運転する車の道中、

俺は事情を話した。

……事情を話したら、殺される系異世界転生じゃなくて良かった。


「ふーん、魔王ねぇ。」

「ゲームのやり過ぎなんじゃないかい?」

「……その発想、もう時代錯誤だと思いますよ。」

「何にしても、私が言う「地の魔法使い」と君が言う「地の魔王」は同一人物だろう。」


俺は怪訝な顔をしながら聞いた。信じたくなかったんだ、その事実を。

「……なぜです?」

「「地魔法」を使うやつは滅多にいない。魔法が使えても基本、その他三種類だ。」

「じゃあ……」


俺は感情の赴くままに怒鳴った。

「じゃあ! あなたと女神様は、「人殺し」を俺にやれと?!」

「だってそうでしょう?! 現実問題、人間の無力化なんて殺す以外ないでしょ!!」


「まあ、落ち着きたまえ、佐藤くん。そう結論を急ぐな。」

「無力化は多岐に渡る。生物学的な死もそうだが、社会的死を与える、という方法もある。」

「悪事を世間にバラせばいい。そうすれば「彼」は活動不能になる。」


「……なぜ、そもそも魔王が悪事を働いていると?」

「私が探偵を志した理由がそれだからだ。」

「「彼」により私は大切なものを失っている。まあ、語るつもりもないが」

「しかし、悪事がバレないのは「彼」が「財力」と「権力」に溢れているからだ。」

「であれば、社会的死による無力化が見込める。」


……ファンタジー、どこ行った?


渋々納得しながらも、探偵社に着いた。

「朝月探偵社」。

入ると、コーヒーと資料のインクの香りが満ちていた。

本棚が壁一面に並んでいて壮観だ。

どことなく落ち着く。


「さて、何にしても魔法の特定だ」

「一人につき使える魔法は一種類だからね」

「……まあ、一つでも使えるなら万々歳ですよ。」


「よし、やろうか。」


――風。

扇風機の風を浴びる。

ひんやりとした風が気持ちいい。


――地。

プランターの土に指を突っ込む。

うん。土の香り。


――火。

マッチに火をつけ、それを眺める。

まあ、暖かくて、多少落ち着く。


――水。

お風呂に浸かる。

ふぅ。

いい。湯船に浸かるのは好きだ。


「琴理さん!」

「どうだい? 何かしっくりくるのはあったかい?」

「お風呂! いい湯加減でした!」


俺は琴理さんにヘッドロックされた。

「しっかり、暖まってるんじゃないよ。真面目にやりなさい」

「痛い痛い! だって、あんなので魔法の特定なんて! 痛い!」


「何か一つぐらいなかったのかい? 感覚でいいんだ。」

「……あえて言うなら「水」でしょうけど、」

「だから、お風呂じゃなくて良かったんだよ。湯船の安心感と混同するじゃないか」

「まあ、いいや。とりあえず「水」で行ってみよう」


――再び、お風呂場。

お湯が風呂の底栓から抜けていた。

ザーー、と


「なんで、お湯抜いてるんだい?」

再び怒られた。

「なんでなんで! 入りたかったの?! 痛い!!」

「私、入りたかったのに……」

いのりは指を加えながら悲しげにお湯が抜けていくのを眺めていた。


「違う。君の「魔法」の練習に水が必要だろうが」

キュポっと琴理さんは栓を閉めた。

「さあ、両手を水に突っ込んで魔法を使うんだ。」


言われるがままに、手を突っ込んだ。

うん、暖かい。


「えい。」

いきんでみた。

無理だ。何も起きない。

ただ、いのりからの視線が冷たくなっただけだ。


「だめか。流石に曖昧すぎるんだな。」

「よし、次だ。」

「今度は指で境界を引くようにして、モーセのように湯船を割るんだ」


言われるがままに。

指に沿って、水に軌跡が走った。

……以上です。


「……飽きてきたな。」

琴理さんは小声で言った。


「よし、いのり。仕事の時間だ。行くぞ。」

「ま、待って。置いてかないで! この状態で!!」

「大丈夫だ。君はそうやって練習していたまえ。返ってくる頃には魔法が使えているだろう。」

「絶対そんなことない! 飽きただけじゃん、絶対!」


そんな俺の声を捨て置き、玄関へと向かっていく2人。

え、嘘でしょ? まじで俺このまま放置?

騙された?


「あ、そうだ。」

「私が初めて魔法使えたの、感情が高ぶったときです。」

「……いのり、言うのが遅いよ。」


インターホンがなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る