俺の所為で婚約者がダサいと笑われたので、仕事着でパーティーに参加してみた
星雷はやと@書籍化決定
第1話 待ち合わせ
「はぁ……はぁ……。お待たせ、クレハ嬢……」
休日の王都、城下町にある噴水広場。俺は息も絶え絶えに、挨拶を口にした。
「クラウス様っ! 大丈夫ですか!?」
紅茶の様に綺麗な髪を靡かせながら、待ち合わせ相手が俺へと駆け寄る。彼女は俺の婚約者のクレハ・リンデン伯爵令嬢だ。
「だ、大丈夫だよ。待たせてしまったかな?」
クレハ嬢に手を引かれて噴水前のベンチに座る。何とも情けない姿だ。
「いいえ、大丈夫です。約束時間ちょうどです」
俺の質問に、隣に座った彼女は首を横に振った。
如何やら、約束の時間に遅れることはなかったようだ。しかし、クレハ嬢を待たせてしまったことは事実である。本来ならば、待ち合わせ時間よりも先に待っている筈だった。俺が全力疾走していた理由は、今日が彼女とデートだからだ。
「ありがとう。でも、俺は大丈夫だよ。その……クレハ嬢に早く会いたくてね……見苦しい姿を見せてごめん」
何時もは仕事で中々、クレハ嬢とは会うことが出来ない。だが昨晩に長期の仕事が終わり、漸く休日を迎えられた。そして今日は久しぶりに婚約者とのデートである。
日付が変わった頃に就寝し、数時間の仮眠を取った。待ち合わせ時間には余裕で間に合う時間に起床したが、デートの格好に迷った結果がこれだ。普段は仕事着で過ごしている為、デートで着る服が分からなかった。
折角のデートで見苦しいものを見せたと、クレハ嬢に謝罪をする。仕事先の部下がアドバイスをして、整えてくれた髪は乱れた。副官から何故か、渡された伊達メガネを押し上げる。
「いえ! クラウス様はお仕事を終えられたばかりですから、お気になさらないで下さい。それに……わ、私もクラウス様にお会いしたかったです……」
クレハ嬢は笑顔で俺を労うと、照れたように頬を赤らめる。そして嬉しい言葉を口にした。
「……っ! あ、ありがとう……クレハ嬢。それで……その、そろそろ卒業のようだね?」
俺は可愛らしい婚約者に礼を伝えた。それから、クレハ嬢に卒業に関して話を振る。クレハ・リンデン伯爵令嬢は未だ学生だ。もうすぐ卒業予定である。
卒業を口実に、クレハ嬢へ何か贈り物をしたいのだ。彼女には、日頃から贈り物や手紙を送っている。だがクレハ嬢は中々、会うことが出来ない俺に対しても優しい。日頃の感謝も込めて、何か特別な贈り物をしたいのだ。
「はい。おかげさまで、来週無事に卒業できます」
「流石はクレハ嬢だ。貴女は優秀だからね。それで何か……お祝いというか……。その、欲しいものとか……俺に出来ることはあるかい?」
微笑むクレハ嬢の言葉に頷く。彼女は勤勉であり、卒業できるのは彼女の努力の成果である。
俺はクレハ嬢に何か欲しいものはあるか尋ねた。婚約者に欲しいものを直接訊ねるというのは、配慮に欠ける行為かもしれない。俺は普段から仕事ばかりであり、俺は女性への接し方が下手である。普段のクレハ嬢への贈り物は、部下に相談して決めているのだ。婚約者として大変情けない話だが、俺のセンスは悪いらしい。
だがいつまでも、部下たちを頼りにしている訳にはいかないだろう。そして大切な婚約者であるクレハ嬢の、卒業という門出の贈り物は自分自身で決めたいのだ。
「クラウス様……。いえ、そんな。何時も沢山頂いていますので、大丈夫です」
クレハ嬢は首を横に振ると、控えめに微笑む。
「だが……」
「号外だよ! 第三騎士団が、国境沿いの魔物を討伐し終えたよ!」
俺は言葉を続けようとしたが、大きな声に搔き消された。
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