第32話 「好きなお寿司の具は何でしょう?」


まあ大分生きて来たなと思います。

多少長い人生の中で、高校受験がありました。


受験は昭和58年(1983年)でした。


うちビンボーなんで、滑り止めナシの公立一本でしたー。


ただまあ「ご褒美」というか約束はありまして


「高校合格したら、好きな『あのお寿司』を一鉢丸々食べさせてくれる」


その代わり。


「落ちたら、夕飯のオカズは目刺しだけ」


って母に言われました。


そして合格発表の日を迎えました。

うろ覚えだけど、発表は午後2時からだったかなぁ。


その日、母は午前中にスーパー行って。

「はい」

と、買った目刺し見せられました。

うわ、落ちた時の準備するのかよ

ってか本気だった訳?夕飯に目刺しコース。


そして私は合格発表を見に、高校へ行く。


うん、受かってたよ。


やけにあっさりですが、ここは食べ物の話中心なんで手短に報告だけ。


かくして我が家はその夜、寿司屋に向かいました。


メンバーは私と両親、そして兄貴。

兄貴は寿司目当てで寄生もとい帰省してきた。


寿司屋は満席に近い。

どの客も家族連れだ、その中に大体私と同じ歳くらいの子供がいる。

そうみんな、合格祝いで寿司食べに来ていることは一目瞭然だ。


座敷の長いテーブルに座る。

隣人も家族連れ、私と同じ歳くらいの娘さん。


「そちらも合格祝いですか?」「そうです」

「おめでとうございます」「どちらの高校ですか?」


なんて話題をどちらからともなく振る。


やがて寿司が出てくる。

一人前ずつ鉢に入れられて各々の前に置かれる。

始めは普通の握り盛り合わせだ。


食べている最中、私が希望した

「ご褒美」

の寿司が、一人前の鉢に入れられて出て来た。


それは中央に置かれる。

隣の家族がギョッとした表情で、その寿司を見て訪ねて来た。


「これ、何のお寿司ですか?」


私は喜びの表情で答える。


「スモークサーモンです」


昭和の時代。

「鮭」を寿司の上に乗せる文化は殆ど無かった。

だいいち鮭を生で食べるということ自体NGだ。


鮭には寄生虫が多い。

近年、生食が可能になったのは、寄生虫がいないとされているトラウトサーモンやアトランティックサーモンの養殖物が流通されるようになったからと聞く。


なので昭和では、鮭は過熱するのが普通。あと燻製なら寄生虫も死滅か。

私がスモークサーモンの寿司に出会ったのは、それこそ中3の時だ。

一口食べて、私はスモークサーモン寿司の虜になった。

当時のスモークサーモンに使われた品種は知らない。

ただまだ「サーモンの刺身」は、市場には出回っていなかった時代だ。


寿司屋にしてみれば一種の「賭け」だったのだろう。

サーモンという食材を寿司に使うことは。


そしてその「賭け」に釣られた娘が一名。

鉢一杯のスモークサーモン寿司を、喜々として食べていた。


兄貴は一つ食べてみて

「俺には合わない」

と言い捨てた。いいよ独り占めするから。


今ではすっかり、好きな寿司ネタの上位に入っているサーモン。

実は寿司の中では、新参者だったりします。


私ももちろん今でも大好きですサーモンも鮭も。


ただ、昨今の世界情勢やらなんやらで


この魚も徐々に「高級魚」なっていると感じ、気が重いです。



追記:

母が買って来た目刺しはですねぇ

翌朝の、朝食に出ました。


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