025 アゼートを脱がせよう 前編

 アゼートの傷を見たのが一週間前の事。


 そして、あの日から一週間が経とうとするが、アゼートは一度も教室に現れることは無かった。

 前向きな返事をくれたからクロノ・アリオンルールを学びに来てくれると思っていたが……まったくやってこない。


 普通に考えるとあの突風事件が原因だ。

 あの時の俺の言葉、パンツを見ていたから傷は見ていない、という内容を暗に含めた返答は受け取ったはずだ。あの笑顔(マスクで見えなかったが)がその答えのはずなのだ。


 だけど来てくれないということは、あの傷には何か事情があるに違いないという確信が強まっていく。


 とはいえ、あの対応からするとアゼート本人に聞いても素直に教えてくれるとは思えない。

 なんとか証拠を押さえて言い逃れできなくする必要がある。


 証拠を押さえると簡単に言うが難易度が高すぎる。

 アゼートは完全防備なのだ。もちろん力で押さえつけて無理やりスカートをめくるなんていうのはもってのほかだ。

 さすがに着替えの時は服を脱ぐだろうが、その場を押さえるということは彼女の部屋を監視している必要があり、ストーキング&覗き&盗撮のコンボでお縄が待っている。


 童話にもあるとおり、自ら脱がせる案も考えた。

 つまりは雨に濡れれば自分自身で脱ぎだすだろうと。アゼートが外出中に都合よく雨が降るかというとそうでもなく、雨が降りそうならそもそも傘を持って出るだろう。

 だったら雨に頼らずに水をぶっかけたらどうだろうか。ばれない位置から水を放水すれば可能は可能だが、そんな場合はその場で脱がずに寮まで帰って着替えるに違いない。


 あ、雨で思いついたけど、水たまりに反射させて下半身のショットを狙うのはどうだ?

 いくつかのスキルと魔法道具を組み合わせれば、水たまりに映った映像を固定することができるかもしれない。


 これって名案なのでは? と思ったところで、どうやってアゼートに水溜まりの上を跨がせるのか、という高難易度の問題にぶち当たった。


「あああ、いったいどうすれば……」


 何かほかにいい方法は……。

 そうだ……あれだ。


「身体測定があるじゃないか!」


 身体測定。それは毎年行われる学生の体の成長を計る行事だ。身長、体重、胸囲などを測定する身体測定はクラスごとに行われ、欠席することは許されない。つまりアゼートも強制参加することになる。

 測定は正確な数値を求められるため、着衣のまま行われることはなく、下着姿、もしくは軽装の運動着で行われる。

 つまり、そこでは肌を露出するというわけだ。


 もちろん俺はその場にいることはできないので、誰かに代わりに見てもらう必要がある。


「よし! 作戦実行だ!」


 ◆◆◆


 ――女子更衣室 身体測定前


「はぁ~」


 メル・ドワドが深いため息をついた。


 ここは女子更衣室。

 今から身体測定に挑む女子たちが測定しやすい服に着替えているところだ。


「深いため息なんてついてどうしたのメルさん。悩みがあるのならこのリクセリア・ラインバートが聞いてあげてもよくってよ?」


 大きな赤いリボンで束ねたポニーテールを手でかきあげてふぁさっとしながら、金髪の貴族令嬢がそう言った。


「……辛いなら話して……」


 横で着替えているアゼート・クームもそう答えた。


「いっ、いえ、すみません! 大丈夫です。多分お二人には理解できないと思いますので」


 わたわたと手を振って、二人のお手を煩わすなどもってのほかだ、という態度をとる。


 そんなメルの様子が腑に落ちないようだが、そこで話を終えるリクセリアとアゼート。


 そんな二人の姿を恨めしそうな目で見るメル。


 (本当に……神様は不公平です。リクセリア様はグロリア王国の至宝と呼ばれるほどの美貌の持ち主。それだけにとどまらず、ボディラインがすごく美しい。胸だって大きすぎず小さすぎず理想の大きさだし、お尻だって引き締まってる。アゼートさんは……もはや犯罪。長身というだけでアドバンテージがあるのに、胸はすごく大きくてお尻も大きくて、でも体型はすらっとしてて! もう! ずるい!)


 メルは自分の胸に手を当てる。

 年齢平均よりも平な胸。身長も平均以下だ。男の格好をしたらそれで通せてしまいそうな体型。


「はぁぁ~」


 再び大きなため息をつく。


「……ドワドさん。よかったら触ってみる? ……辛そうだから……」


 夏用の半袖の運動着は通気性を確保するため薄く、いつもは分厚いローブで隠されているアゼートの胸が強調されている。

 メルの視線が自分の胸に向いたことで、触りたいのだろうと判断したのだ。


「へぇっ!? そ、そういうつもりはないんですが! で、でも、よろしければぜひ……」


 (もしかして巨乳成分とか接種できるかも?)


「……どうぞ……」


「あ、ご丁寧にどうも」


 アゼートが手を後ろに回して胸を突き出してくれる。それによって凶悪な胸がさらに凶暴さを引き立てられる。


 (お、大きい……。これが魔性の胸……。ええい、臆するなメル! この胸に打ち勝って巨乳を手にするのよ!)


 おそるおそる手を伸ばすメルだったが――


「あうっ!」


「ご、ごめんなさい!」


「……つかむのはだめ……。触るだけ……」


 何を考えたのか、大きく広げた手でアゼートの左右の胸を鷲掴みしたのだ。

 触れられるだけだと想定していたアゼートは普段出さないような声を出してしまったが、何事も無かったかのように大人しくクラスメイトの女子をたしなめる。

 それに自分から言い出したことなのだと、続きを許可したのだ。


「そ、それでは触るだけ……」


 再び恐る恐る両手を伸ばすメル。片手だけでもいいはずだが、なぜか今回も両手を伸ばす。それほどに相手が強大なのだ。


「んっ……」


 メルの手が強大な相手に触れると、僅かに声を漏らしたアゼート。


「おぉ……これが……」


 さわさわと優しく両胸をさする。上の方では運動着の下から返ってくる肌の反動を、下の方では重力に抗えない圧倒的な重さを体験することになる。


「……んっ、んっ……」


 メルの手が強大な相手を調伏するために正確に情報を集めている。それを拒むことなくアゼートは触れられる感覚に耐えている。これまで誰にも触れさせた記憶は無い。いわば新雪の上に足跡を付けるようなことだ。


「あうっ! ど、ドワドさん、そこは……」


 メルの手がとうとう先端の敏感な部分へ到達したのだ。


 (ここがキーポイント。きっと巨乳成分はここから出るに違いありません!)


 圧倒的な存在感と質量を体験し、わずかでもその力を得ようとして夢中になっているメルは、アゼートの漏らした言葉を捉えていない。


 (さあ、出して、出して出して! どうだ、まだか、これでもか!)


「あっ、あっ、あっ、あっ、だ、だめっ」


 激しい手の動きにアゼートの息が荒くなる。そして――


「ああっ!」

「きゃあっ!」


 一際大きな声を上げたアゼートは力が抜けて体勢を維持することができなくなり、そのままメルを巻き込んで前のめりに倒れ込んだ。


「うぼぉ、こ、これが、敵の正体……。圧倒的な……力……」


 倒れてきたアゼートの胸を顔面に受けたメルの最後の言葉。


「あっ、あっ、あっ、あ、あなたたち、何をやってるんですのーっ!」


 急に始まった展開にその様子を見まいと両手で顔を覆っていたリクセリア。突っ込みを入れるタイミングを失っていたものの、さすがに気になって指の隙間からちらりと見たらこのありさまだった。

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