ナオ・クランクは貢いじゃう ~惚れるとスキルを貢いでしまう俺、魔法学校の男子クラスを教えていたのに男色疑惑をかけられて問題児女子クラスを担当させられてしまう~
018 飛べ、その先へ! その2 時間と空間は歪んでいるかもしれない
018 飛べ、その先へ! その2 時間と空間は歪んでいるかもしれない
記者の説明のとおり、その写真は俺にリクセリアがキスしているのが映っていたが、もちろんそんな記憶は無い!
「ね、捏造です! 俺がそんな事をするはずがない!」
――ドドドドド
「あそこにいたわ!」
「クランク先生、お話を!」
「ラインバート嬢と交際しているんですか?」
「第1王子に宣戦布告したとか!」
「ファンクラブから命を狙われる気分はいかがですか!」
振り向いた先。地響きを上げて多くの記者たちが我こそはと駆けてきている。
リクセリアとキスをするだなんて正直身に覚えがなく、起こり得ることの無いことなのだが、記者たちに捕まったら厄介だ。
質問攻めはともかく、女性記者に詰め寄られるだけで、女性耐性が無い俺はスキルを貢いでしまうわけで、命がガシガシと減っていくことになる。
こんな時は逃げるに限る。
俺はスキル【長距離走者(5km)】を発動する。
持久力に優れているスキルなので、学園まで全力疾走したが体力は全く減らなかった。
学園の正門をくぐって、ホッと一安心する。
許可のない記者たちは学園内には入れず、入口の警備員が止めてくれるはずだ。
金持ち学校であることが幸いしたな。
しかし、あの写真はよくできていた。
倒れた俺にリクセリアが覆いかぶさり口づけしている場面だった。リクセリアは本物っぽかったけど、俺の顔は誰かの顔と変えられてるんじゃないか? 場所も学園の図書館みたいな石造りで、シーンにもこだわった偽造写真だったな。
――ガチャリ
俺は自室に帰るため、通る必要のある
「あ」
そこには椅子に座った美少女の姿があった。
俺を見るなり目を吊り上げて怒りの形相を見せてきたのは、渦中のリクセリアだった。
「あなたっ! これはどういうことよ!」
白黒のニュースペーパーを広げてこちらに向け、パンパンと手でそれを叩くリクセリア。
それに合わせて綺麗な金色の髪の毛と赤いリボンが揺れる。
「なんでこんな記事が出てるのかしら! グロリア王国の至宝、図書館での逢瀬!」
怒りに任せて近づいてこようとするので、どうどう、となだめて距離を取る。
机に置かれたニュースペーパーの記事を見ると――
「なになに、相手は担任の教師。はぁ、これ、よくできた偽造写真だよな」
「え? え、ええ、そうね。そのとおりだわ。わたくしがこんな事するはずがなくってよ」
「だよな。もしこれが本当だったら、今頃俺はラインバート家か王家の刺客に抹殺されてるところだ」
「そ、そうね?」
「なんだよ、歯切れが悪いな。まあ、偽造写真なんだから、きちんと説明しよう。記者たちは正門にいるだろうからさ」
「だ、だめですわ」
「どうしてだよ。早く誤解を解いておきたいんだが」
「記者たちは面白おかしくスキャンダルを暴くことが仕事なのよ。何を言っても上げ足をとられるわ。記者慣れしているわたくしならともかく、一般貴族のあなたならなおの事、手玉に取られてね」
「そうは言ってもな……。おちおちフルーツ牛乳も買いに行けないのは困るんだが」
「フルーツ牛乳? 何かは知らないけどそんなことはどうでもいいでしょ。問題なのは王子の耳に入ることよ」
「婚約者の? 確か第1王子のケーリッシュ様か」
「そうよ。ケーリッシュ・グロリア様。ゴシップ紙の記事とは言え、王家の諜報員は優秀だから……。王子の耳に入っていなければよいのだけど……入った場合、嘘だとしてもいい気はしないでしょうね。まさかこんな記事を信じるとは思えませんが、万が一の事が起こるということもありますわ。
ですが、わたくしは万が一にも婚約破棄をされるわけにはいかないのですわ。弟のためにも」
「弟さん? この前学園の見学に来てた?」
「ええ。こうなった以上、あなたには伝えておくわ。わたくしは弟に自由に恋愛をしてもらいたいから、王子と必ず結婚しなくてはならないの」
「どういうことだ?」
普通に考えるとラインバート侯爵家と王家のパイプを太くするための政略結婚だ。そこに弟が絡む要素はないはずだ。
「父は王族との結婚を強く求めているの。一番良いのがわたくしとケーリッシュ王子。だけどもしその結婚が成らなかった場合、次に父が考えているのが弟と王女……。
あなたも見たから知ってるでしょ? 弟には好きな子がいるのよ。わたくしはそれを応援したい」
なるほど。身分について厳しそうなリクセリアが、弟のカルツくんとペアになっていた男爵家のダニル・フォーグ嬢に対して甘々だったのはそういう訳だったのか。
つまり、リクセリアは弟のために王子と結婚しようというわけか。
俺はまだリクセリアと接し始めて短い。だけど彼女が弟の事を溺愛していて、弟のためなら自身の事を厭わないということには気づいている。
気づいているけど……。
「言っておきますが、弟のためとはいえ、わたくしも王子の事は気に入っていますのよ。わたくしにふさわしいご身分ですから。というわけで、いいですね、絶対に記者に見つかってはだめよ?」
チャリっ、と身に着けたレッドミスリルの鎖を手で揺らすリクセリア。
『記者たちが乱入したぞー!』
正門の方から大声が響いてくる。言葉が本当であれば学園は無法地帯となる。何人もの記者達が俺とリクセリアを見つけ出して、絞り上げようと狙ってくるのだ。
「いけませんわ! 記者たちの情報網はあなどれない。ここ、つまりあなたの部屋の場所なんかすでに割れているはず。先に行って。私もすぐにここから離れますわ」
そう言うと、リクセリアは懐から取り出した香水をあたりに巻き始める。
「なにをしてるの、早く行きなさい。私は匂いを消してからいくから!」
すごい剣幕で怒られた。
急いでいなかったら飛びかかられそうな程に。
俺はドアから出て左右を見渡す。まだ記者たちの姿は見えない。
とりあえずは正門と逆方向に逃げればいい。
そう考え、俺は走り出す。
「いたぞ! 先生だ! クランク先生を見つけたぞ!」
校舎から校舎へ移動する間に記者達の一人に見つかってしまった。
不法侵入だとしても武力を行使して怪我をさせるわけにはいかない。結局は逃げるしかないのだ。
俺はスキル【幻影】を使う。このスキルは自分自身の幻を生み出すものだ。ただし効果時間は3秒。だけどそれで充分!
「先生があの校舎に入ったぞー、追い込めっ!」
幻影を校舎の中に突入させた。
思惑通りにそれに引っかかって記者たちが明後日の方向の校舎へと突っ込んで行く。
これでしばらくは時間が稼げるかな。
「いたわ! あそこよ! クランク先生、お待ちになって!」
しまった、別部隊の女性記者に見つかった! もうそんなに広範囲に散らばっているのか!
俺は力を込めて走る。
こっちの方角は……まずい。
何がまずいのかというと、男子校舎だからだ。俺は男色疑惑で男子校舎に入ることは禁じられている。いくら緊急事態で相手が無法者たちだからといって、俺が率先して規則を破るわけにはいかない。
くいっと向きを直角に変えて疾走する。
だが、そのコース変更がアドバンテージを無くし、記者との距離が一層に詰まってしまう。
(ええい!)
俺は地の利を生かすために、やむなく校舎へと突入した。
(どこかに隠れてやり過ごすしかないか!)
階段を上がり、2階へ到達し、廊下を曲がったところで――
「いた! クランク先生だ!」
すでに校舎内にも記者が!?
俺はすぐに踵を返して階段に戻り、3階へと駆けあがる。
すぐ横の教室の扉が開いており、そこへと滑り込む。
とはいえ棒立ちではすぐに見つかってしまう。廊下から見えないように窓の下の壁にしゃがんでおくか……いや、そこがいいな!
目に入ったのは掃除用具を入れるロッカー。狭いけど人一人が入るくらいは余裕だ。
急いで近づいて扉を開く。
「あ」
「え」
なんと先客がいたのだ。
金色ポニーテールの少女が目を丸くする。
俺も一瞬固まってしまうが、記者たちが階段を駆け上がってくる音で我に返る。
「ちょっと、見つかるでしょ! 早く閉めなさい!」
「でも!」
「デモもスピーチも関係ないわよ、早く!」
ええい、仕方ない。こうなったら一緒に入るしか!
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