第5話 異髄力
カガリは、着地するとすぐにコープスイングをしまう。
収納すると同時に、専用武器のシナプスダガーで縫い留めた空間からフジツボ型を狩った。
カガリの異髄力の一つ、エーテル・スティチャーだ。
本来は異髄力は一人一つしかないが、カガリは何故か二つの力を使い分ける。
一つは、癒しの力。そしてもう一つが、この空間に敵を縫い付ける能力だ。
敵の進軍を止め、戦いやすいように足止めをする。
これが、兵長として抜擢された要因の一つでもあった。
癒しの力も、類似する異髄力は未だ発見されていない。
防衛高の時代から、カガリの異髄力を頼りにけが人が運ばれたり、カガリが呼ばれたりと学生時代から忙しかった。
「よそ見するな、五百雀! 初陣で死ぬ気か!」
どことなく呆然とした月子に怒鳴り、カガリはシナプスダガーを次の標的に向ける。
一番区画から遠い場所は、御厨大尉と種田上等兵が駆除にかかっていた。
「凄い……これが、20
お茶の水基地のオペレーションルームで、宮田オペレーターが呟く。
カガリが到着してから、画面の上にいた脅威は、次々と駆逐されていった。
全部で八体いたフジツボ型は、三体は御厨大尉が仕留めて、一体は種田上等兵が倒している。
残る四体が、見る見るうちにカガリによって打ち倒されている現実。
異髄力を使っているのに、同調率は依然として20%を保っている。
「ふうむ……これが不知火カガリか」
剣崎副指令も、気が付けば画面にくぎ付けになっていた。
到着の早さも、隊長格と遜色はない。
新人は、脅威度Eランクならば二人で一体倒せれば御の字だ。
「安全を確保しました。
「データリンク確認、研究車を派遣します」
異髄は新鮮なものほど良い。
今回の
「オフィリア05部隊、そのまま市街の
「了解しました」
御厨大尉のかわいらしい声が、きびきびと返答する。
剣崎は、
これで、息を殺していた一般市民は敵が倒されたことを知って安心できるだろう。
「不知火中将の遺児は、エリート街道を行くか……」
この先が、楽しみになる。
生島基地司令が肩入れする気持ちはわかった。
***
哨戒は、二手に分かれた。
御厨大尉とカガリ、種田と月子でバディを組む。
新人同士で組ませるわけにはいかないので、ベテランとルーキーの組み合わせだ。
それぞれ探知機で、パソコン類がないかどうかを調査する。
法に反して所持していた場合、一度目は罰金で済むが二度目からは逮捕だ。
国から許されるのは、テレビやラジオ。そしてガラケーだけ。
厄介なのは、専門書などの電子媒体ではないパターンだ。
何度か、戦闘の援軍ではなく違反物探しに他班から狩りだされた経験のある御厨隊長によると、かなりの地獄らしい。
「ていうか、初戦なのに四体撃破凄いじゃん! 不知火くん、さすが主席卒業だねー?」
三十センチ以上の下から、御厨がカガリを見上げる。
それぞれ探知機を向けているが、人気のない住宅地からは反応がない。
「隊長だって、主席卒業でしょう。そういうのは自画自賛ですよ」
「違うよ~もー。まあ、一歳ズレて、鷲塚くんの代だったら無理だったかもねー」
御厨が話題に出したのは、ローゼン02部隊の隊長。鷲塚中尉だった。
カガリとしては、久遠揚羽の同じ班というだけで敵視している男の一人だ。
自然と眉間に皺がよる。
「あのキザな人も主席卒業ですか……」
「キザって。あ、髪の毛長いから?」
鷲塚中尉は、長い髪をひとくくりに垂らしていた。
軍の中で、男の長髪は珍しいだろう。
本部に次ぎ、優秀な人材がお茶の水基地には集まる。
「そろそろ鷲塚くんにも階級抜かれそうだなぁ。不知火くんも、あっという間にあがりそうだよね?」
「大尉まで七階級差ですよ? さすがにいきなりは無理です」
「でも、出来ないとは言わないんだ~さすがだねえ」
御厨大尉は、カガリの前で母の名前を出したりしない。
同期にはさんざん言われて、聞き飽きた単語が出ないのは、カガリにとってありがたかった。
「御厨隊長、こちら違反物の反応がありました」
種田上等兵の低音の声がイヤフォンから響く。
カガリと御厨は雑談を止めて、背中からコープスイングを取り出した。
「御厨大尉、不知火兵長、目標までのナビゲートを開始します」
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