IDLE OR DIE

路地裏乃猫

第1話

 ――キラキラが止まらないの。

 ――だからわたしは歌うの。


 数万もの聴衆が一堂に集うコンサートホール。広大な空間は、今や、たったひとりの小柄な少女が発するオーラ、あるいは気迫に支配されている。マイクを通じて拡散される少女の歌は大気を震わせ、今日この場面に立ち会うことを許された観客たちの鼓膜を、心を容赦なく揺さぶる。


 アイドル。


 ただそこに立つだけで無尽蔵の輝きを放つ生ける偶像。彼女は人間であって人間ではない。人ならざる輝きは人ではないからこそ持ちうるもの。その輝きを求めて、数万の聴衆がこの場に足を運び、その数十倍もの観客が、あらゆるメディアを通じてステージ上の少女を見守る。


 ――わがままに自分勝手に。

 ――でも、そんなあたしが好きなんでしょ。


 少女の投げキスに、あざとく閉じられる片目に、どう、と湧く幾万もの観衆。誰ひとり彼女のカリスマを疑わない。疑う余地などない。なぜなら彼女はアイドルになるべくして生まれた存在。アイドルとして生き、輝きながら死ぬ。まさに偶像アイドル。そう、私達だけの――



 だが。

 人は所詮、ただの人であり。

 偶像だった彼女も、いつかはただの人に戻って。





 そして悲劇は起こった。

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