「頭が悪そうな子がタイプ」と言ったら、堅物聖騎士が白ギャルになってついてきた件。 ~最強の俺と、無理して「うぇーい」と言う彼女の勘違い旅~

ラズベリーパイ大好きおじさん

最強の賢者様は、頭の悪そうな子がタイプらしい

「――解析完了。構造的弱点は第四層の魔力供給源だね。はい、終わり」


 俺、アレンが指先をパチンと鳴らした瞬間、目の前にそびえ立っていた古代遺跡『嘆きの迷宮』が光の粒子となって崩壊した。

 轟音と共に、数百年もの間、聖王国を苦しめてきた「解析不能の呪い」が霧散していく。


「バ、バカな……! 王国の魔導師団が三代にわたって解けなかった超古代魔法を、たったの三分で……!?」

「アレン様、あなたは一体何者なのですか……!」


 腰を抜かす兵士たちや魔導師たちを尻目に、俺は小さくあくびを噛み殺した。

 何者もなにも、ただの転生者だ。

 前世の社畜時代に培った処理能力と、転生特典の『超・高速演算』というチートスキルがあるだけ。この程度のパズルなら、鼻歌交じりで解けてしまう。


(ふぅ……これでようやく王様からの依頼も終わりか。早く宿に帰って寝たいな)


 そんなことを考えていると、カツン、カツン、と清廉な足音が近づいてきた。

 その場の空気が一瞬で引き締まる。

 現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ一人の少女だった。


「お見事です、アレン様」


 腰まで届く美しいプラチナブロンド。宝石のように透き通った碧眼。

 聖王国最強にして、最も高潔と謳われる聖騎士――セシリア・シルヴェストだ。

 彼女は兜を脇に抱え、その美しい顔に尊敬と崇拝の色をたたえて、俺の前に跪いた。


「このセシリア、感服いたしました。まさか、あの複雑怪奇な術式を一瞬で見抜かれるとは……。アレン様のその『知性』は、まさに神の領域です」

「いや、そんな大げさなもんじゃないよ、セシリア」

「ご謙遜を。武力だけでなく、これほどの叡智まで兼ね備えているとは……。アレン様こそ、私が生涯をかけてお仕えするに相応しいお方」


 セシリアは熱っぽい瞳で俺を見上げてくる。

 ……うん、悪い気はしない。

 絶世の美女に褒められて嬉しくない男はいないだろう。

 だが、俺は少しだけ息苦しさも感じていた。


 彼女は真面目すぎるのだ。

 会話の内容は常に「正義」か「魔法理論」か「王国の未来」について。

 前世で散々頭を使って働いてきた俺としては、二度目の人生くらい、もっとこう……頭を空っぽにして生きたいというのが本音だった。


 その夜。

 王城で開かれた祝勝会のバルコニーで、俺は夜風に当たっていた。

 背後から気配がする。セシリアだ。彼女は祝いの席でも酒を一滴も飲まず、護衛として俺の後ろに控えていた。


「アレン様。先ほどの魔力理論についてですが、私の考察を聞いていただけますか?」

「……えっと、今は休憩中だからさ」

「失礼しました! では、次なる魔物の生態についての議論を――」

「いや、そうじゃなくて」


 俺は手すりに寄りかかり、夜空を見上げながら、ついポロッと本音を漏らしてしまった。


「俺さぁ、あんまり賢すぎる会話って疲れるんだよね」

「……え?」

「なんて言うのかな。こう、もっと気楽でいいっていうか……ぶっちゃけ、自分より『頭が悪そうな子』のほうが、一緒にいてリラックスできるんだよねぇ」


 そう。

 何も考えずに「うぇーい」とか言って笑い合えるような。

 IQの低い会話で盛り上がれるような。

 そんなギャルみたいな子が、今の俺の理想だった。


 俺の言葉を聞いたセシリアが、息を呑む気配がした。


「あ、頭が……悪そうな、子……ですか?」

「ん? ああ、ごめん。セシリアみたいな才女には分からない感覚だよな。忘れてくれ」


 俺は苦笑して、会場へ戻ろうと歩き出した。

 だから、気づかなかったのだ。

 背後に残されたセシリアが、雷に打たれたような衝撃を受け、ブツブツと何かを呟き始めていたことに。


「(アレン様が求めているのは、知的な伴侶ではなく……リラックスできる存在?)」

「(頭が悪そうに見える……つまり、知性を感じさせない振る舞い……)」

「(今の私のような、堅苦しい聖騎士のままでは、アレン様の隣には立てない……!?)」


 彼女の碧眼に、狂信にも似た決意の炎が宿る。


「(なりましょう。アレン様の理想の女に。このセシリアの全知能を駆使して、誰よりも『頭が悪そうな女』を演じてみせますわ!!)」


 ――翌朝。

 俺が宿屋のロビーに降りると、そこにはとんでもないものが待ち受けていた。

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