謎の種族

第3話 ご先祖様の話

 彼等は昔から、山の奥深くで自然と共に生きていた。


 平安時代には認識されて、山の民として市井いちいの者達と関わりがあったようだ。


 無論、山は危険で、常人は奥までなど入らず、山村の周囲のみで暮らしていた時代。


 野生動物は牙を剥き、無力な人などあっという間に殺されるのが常。

 そんな中で、人里に鹿や猪を担いで、売りにくる者達がいた。


 修験道を極める者達と共に、山の奥深くに暮らす民。

 謎の言葉を喋り、通力を使う。

 そのため、彼等を求めて、後に山伏と言われる者達は、山の奥へと修行の場を求めた。


 時に鬼だとか、天狗。物の怪だとか人々に語られる。

 鬼火を従え、暗闇を人とは思えぬ早さで掛け回り、突風を起こし、木々をなぎ倒す。時に、空に浮かぶことも出来たとか。


 水を操る者は朝廷に請われて、巨石を加工。

 地を操る者は、とても抱えきれぬ大石を軽々と運んだと言われている。


 里の者とは、良い距離感を持ち、延々と繋がりを持っていた。


 だが、人ならぬ力は土地を治める地主に恐れられ、時に討伐の対象となる。

 力無き者達が彼等は大丈夫だと訴えても、豪族の武士団は愚かにも山へと踏み入った。


 そして、無為な争いが起こる。


 武装した兵達も山では無力なもの。

 弓を使い、いくらかの反撃をしたのだが、通力により、焼かれ切り刻まれ、山津波に襲われた。


 これにより、いくつかの豪農は土地を失い、逃げる事になる。


 時代時代にそれを繰り返し、彼等は権力者から恐れられ、敵対され、敬われる存在となっていった。


「そんな感じに聞かされています」

 彼女は、俺の胸に指を這わせる。


「じゃあ、山神とか名前が付いているのはお仲間なのか?」

「多分、部族が違います。私たちの部落では、四神様。つまり火神ほがみ様」

 そう言って、俺にキスをする。


 ああ、そうそう。

 彼女と話しをしていて、なんとなくそうなった。

 彼女としては、本家筋に当たる俺に興味があったらしく、モテない俺は彼女に興味を持った。だって男盛りの三十二歳ですもの。この気持ちは抑えられなかったのさ。

 いまは、一戦をして、寝物語にハナシを聞いている。

 

「そして、水神みずかみ家と地神ちかみ家、風神かざかみ家が村の守り神です。主家の通力はすべてを燃やし、すべてを水没させ、山の形を変えて、すべてを吹き飛ばしたと聞いています」

 俺は座り直して、酒を飲みながら話しを聞く。


 仕事中はアップにしていた彼女の髪は下ろされて、乳房に掛かる様子が色っぽい。

 毛先を掴んで、すりすりと胸のてっぺんをくすぐる。


「もうっ。聞いています?」

 彼女はそう言って、ちょっと拗ねた振りをする。


「聞いているよ。それって何か書物があるのか?」

 なんとなくそこまで聞いて、興味がわいた。


「いいえ、口伝です。子どもの頃から繰り返し寝物語として聞かされて。明治時代に名をごまかすために、火神ほがみ穂上ほがみヘと変えて、水神みずかみ水上みなかみヘと変更。今回紅羽くれはさんという三十二歳の方が来ていますね」

「ああ、あの人か。美人だけどちょっと怖い感じの」

 そう答えると、すぐに反応したのがおもしろくなかったのか、彼女の顔がむっとする。


「そうそう。そうです。彼女に興味があるんですか?」

 そう言ってじっと見てくる。


「いや」

 俺は首を振る。


 すぐに打ち解け、仲良くなれる方が俺としては嬉しい。

「それは何より。で、地神ちかみ近見ちかみ様。来ていたのは、男の方で颯真そうま様だったと思います。たしか、二十五歳。それと……」

 彼女はあれ? っという感じでど忘れをした様だ。


風神かざかみだろ?」

「そうそう。そうです。風神かざかみ加瀬上かざかみ大樹たいきさまで四十三歳です」

 言いきったところで、彼女も酒を飲む。


「もう。遊ぶから気になるし、また準備が出来てしまいました」

 そう言って彼女は、俺のものにかじりつく。


 手を伸ばすと、彼女が言うとおり、準備は出来ているようだ。

「んんっ。もう」

 彼女に睨まれた。



「戦国時代、有名な甲賀とか伊賀が色々な大名、特に徳川とかに雇われる中、ご先祖様達は、中立を保っていたんです。ですが、軍門に下らず、味方とならないことで疎まれたのでしょう。討伐対象となって、各地を転々と移動。そしてこの地へ流れ着いてきたんですよ」

「そうなのか?」

「はい。ですので明治になるまでは、ひたすら徳川の幕府軍と戦闘をしていたようです」

「大変だったんだな。島原のようなものか?」

 いま彼女は喋りながら、オレの上にまたがっている。


 途中で、腰が抜けたとか言ったので、抱え込む。向かい合って抱っこ状態。彼女はしずかに揺れている状態。

 時が来ると、目細めてのけぞる。

 途中、幾度と無く痙攣と硬直。弛緩を繰り返す。


「本家の方はすごいです」

 などとぼやいていた。


「明日からは金がないからテント生活だな」

 そう言うと彼女は、嫌そうな顔をする。


「まさか、やり捨てですか?」

 彼女に眉間に皺が入る。


「いや、ここに連泊をする金がないんだよ」

 そう言うと、彼女も理解。


「ああ、ここって高いですからね特に、この数日……」

 やっぱり、土地の境界判断、特別割り増しキャンペーン中だったようだ。


「仕方が無いんですよ、ご予約じゃなく飛び込みなんですもの。仕入れとかの段取りが付かないし、穂上ほがみさんみたいに、明日からはテントって言い出す人は居るし……」

 そう言ってジト目で見られた。


「悪いな」

「いいえ。でもあの谷。はうっ…… んんっ、はふっ。水は…… 綺麗なんですが…… かっ、河原でのキャンプは…… おすすめしませんんんっ。っもうっ。いじわるっ、しないで……」

「どうして?」

 彼女の意向は無視して、理由を問う。

 すると抱きつかれて、動きを抑え込まれた。


「上で雨が降ると、下では降ってなくても、鉄砲水が出ますから」

「そうか。鉄砲水か。気を付けよう。ほれっ」

「んんん、んあっっっ……」


 体を強引に離して突き上げると、それが最後の我慢だったようだ。果てたようで彼女の動きが止まる……

 明日は、彼女の意見を聞いて、少し高いところでテントを張ろう。


 今日は、ずぶ濡れだ……


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