封じられた記憶
久遠 れんり
始まり
第1話 集う者達
俺は顔を洗おうとして、河原へ降りて行った。
河原を見ると、ヨシなのかセイタカアワダチソウなのか、はたまたススキなのか背の高い草が生えていて鬱陶しい。
詳しくないから、何の草なのかは判らない。
ちらっと一瞥をして、岩場へと移動。
岩から岩へと移動をして、川面に突き出す形の岩を発見。
その上で膝をつき、水面に向かって両手を突き出す。
当然。水を掬うためだ。
南側から空が映り込み、流れがなだらかな水面は白く光っていた。
その世界を、俺が伸ばした両手が壊す。
伸ばした手により落とした影が、水面を覆っていた光りのベールを払う。
水面の向こう側。
水底には、昨日から行方不明になった女。
確か森山
「うわあああぁぁっ!!!」
「―― おい。
親父から掛かって来た一本の電話。
「幾ら首になったからと行って、暇じゃないよ。ハローワークに行かないといけないし」
「そんなもの、月に一度だろ」
「いや、なるべく顔を出した方が良いんだよ」
そう言ったのだが、俺の話しはぶった切られた。
「御託は良い。土地の境界を決めなきゃいかん。じいさんの家を覚えているだろ」
「じいさんの家?」
「ああ、子どもの頃に一度行ったはずだ」
そう言われて思い出す。
「行ったって言っても、まだ小学校に上がる前だろ。まったく記憶が無いよ」
「教えてやるから行け。後を継ぐ者が境界を覚えておくものだ」
「そんな事を言っても境界なんか知らないよ」
「昔は、大体何かを目印にして、そこからまっすぐ引いてある。見たらわかる」
そんな感じで、山へと出発をすることが決まった。
途中実家へ帰って道具を取っていく。
作業用ベルトに、鉈と横引きのノコギリをぶら下げる。
小型のナイフと鎌。
鎌も、小型の草刈り鎌と、藪はらいに使う長さ一メートル以上ある藪切鎌。
刃の部分は、五十センチもあり、クエスチョンマークに見える。
新聞紙を巻き付けて、紐を巻き付けて鞘にしてある。
「これって捕まらない?」
「職質を受けたら、警官も連れて行って草刈りを手伝わせろ」
親父はにやりと笑いながら、そんな事を言った。
「そんな無茶な」
「昔はやってくれたぞ」
親父はこっちを見ずに言う。
「そうなの?」
不安だったが、それを信じて村へと向かう。
ちょっと離れた所に、温泉旅館があるらしく、そこで泊まれば良いとのこと。
でも一応、テントとかシュラフ。キャンプ道具も積んでおく。
○○町流山。奥村。
蛇谷と言う、川が流れている。上流側、奥に向かえば村がある。
でだ、現場では事件が起こっていた。
エンジン式の草刈り機が振り回されて、草が綺麗に刈られている最中だった。
「お疲れ様です。道が完全に藪になってしまって、通れないので開通をするまでお待ちください」
まだ若い感じの人が数人。
作業服を着た役場の人と、調査士さんとかだろう。
他の人は、俺と同じく村人の子孫なんだろう。
多分。年齢はまちまちだ。
「大変ですね。こう言うのってよくあるんですか?」
「人が住んでいれば大丈夫なんですが、この村。十数年前に、最後の方が村を捨てたので」
そう言って、すっかり藪となった、元の道を二人で眺める。
「ざっと通れる分だけ刈りますので、車はおいて人間だけで行きましょう」
「そうですね」
周りを見れば、皆が鬱陶しそうな顔をしている。
きっと俺もそんな顔をしていただろう。
おばさんが何かを言い始める。
「もう、地図で見て決めても良いでしょう」
その声を聞いて、役場の担当者、
「皆さんそう言って、実際の時には数センチで文句を言い出すんです」
「そんな事を言う人いるの?」
「いるんです。二足三文だった土地が開拓されて、坪単価が数万になることもあるので」
そう言った瞬間、眠そうだったおばさんの目が見開いた。
「そんな計画がありますの?」
「今はありません。ですが、将来、もしという事もありますので」
焦った感じでそう答える。
それを聞いて俺達はないだろうと思う。
ここは、近くの街から車で一時間以上。
途中にもっと便利な土地はある。
ここは、熊の住処といった方が正しいだろう。
深い山。
ここを開拓する気にはならないだろう……
いや最近は、隙あらば太陽電池パネルが並び始める。
その関係ならばあるいは……
まあ、周囲にいる方は関係者だし、時間が出来たので挨拶をして行く。
俺は
聞くと森山さんだったり、吉田さんだったり、
話しを聞くと
「早く開通させなさいよ」
おばさんが叫ぶ。
あーいやまだ四十前ぽい。
おばさんは失礼か。
他の人とは違いノリノリで、村へと行きたいと言う意思が高い。
確か、森山
彼女が、村に行きたかったのは、ある古文書を見つけたから。
彼女の家に伝わっていた、謎の刀。
刃紋も無く文化的価値は全くないもの。
鞘も、柄も適当に切り出して、削ったような刀。
家の中で見つけた物。
研ぎに出して、警察に届け出を出しただけで赤字になるような物だ。
文化財登録には刃紋が必要だが、適当に打った刃物らしくてそんな物はなかった。
だが掃除の時に落として、柄が割れた。
そこに埋め込まれた、メモ帳。
そこには秘密が書かれていた。
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