ねむさんの台所〜ちょっとごちそう〜
夕月ねむ
塩豚のポトフ
冬である。たとえ日当たりが良すぎる自室が暖房無しで28度とかいう室温を叩き出していても、冬である。だってもう12月だもの。朝晩はしっかりと寒いし。
寒くなると食べたくなるものは色々あると思う。ほっこり湯気が上がる中華まんとか、よーく味がしみたおでんとか。トロリと優しい味わいのシチューも良い。
でも私にとって、一番は『塩豚のポトフ』である。これを作っていると『冬だなあ』と思う。というか、煮込み時間が長い料理で、夏には作りたくないのだが。
私が作る『塩豚のポトフ』は、まず塊の豚肉を入手するところからはじまる。昔はバラで作ったこともあったけれど、今は専ら肩ロースだ。脂が辛いのである。
赤身と脂身のバランスが良さそうな、豚肩ロースの塊を探して買ってくる。この時、野菜はまだ買わなくていい。
買ってきた豚肉には、塩を擦り込む。塩の量はいつも目分量である。ただ、豚肉の断面にしっかりとつける。塩がついていない部分を残さないように。もし気になるなら、ネットで調べれば、豚肉の重さに対してどのくらいの量の塩を使うと良いかわかる。
塩を擦り込んだ豚肉は、塊のままジッパー付きの保存袋や食品用ビニール袋などに入れて、しっかりと封をし冷蔵庫へ。塩と一緒に砂糖を使うとか、ハーブやスパイスを一緒に漬け込むというレシピもあるようだけど、私はいつも塩だけだ。
豚肉は丸一日以上、できれば三日間ほど漬け込みたい。その間に野菜を買いに行く。私が使うのは、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、セロリ、それからにんにく。じゃがいもはメークイン推奨、にんにくはチューブではなくまるごとのものを買う。国産のにんにくが良い。味が違う。
豚肉と時間差で購入するのは、セロリが傷むからだ。そうそう、粒マスタードを用意するのも忘れてはいけない。もし家になければ何かしらのハーブソルトも買うと良いかもしれない。
家にある一番大きな鍋の容量を意識しながら材料を揃えると良いと思う。肉の量にもよるけれど、これは大量に作った方が良い料理だと思う。
さて、買い物のあとはいよいよ調理。野菜はあまり小さくしない。メークインは芽をとって皮を剥き、大きさによっては半分から四分の一に切る。玉ねぎは皮を剥いて半分に切る。にんじんは火が通りにくいのでじゃがいもより少し小さめに切る。セロリも大きめ、適当に。
私のポトフでポイントになるのは『セロリの葉』と『にんにく』の使い方。セロリは葉を捨てず、よく洗っておく。にんにくは皮を剥くけど、最後の薄皮一枚を残す。これもよく洗っておく。にんにくはひとかけと言わず、いくつか入れた方が良い。
材料の用意ができたら、冷蔵庫の塩漬け豚肉を取り出す。水気が出ているのでそれは捨てて、表面を軽く水洗い。塊のまま鍋に入れて、たっぷりの水を張る。
塩漬け豚肉だけで火にかける。バラで作ると脂がすごく出る。三十分くらい、肉だけを煮て、一度取り出して大きめに切り分ける。まだ中が生でもいい。
鍋の中のスープをよく沸かし、味見してみる。塩豚の旨味がしっかりと出ていて、脂の甘さと熟成されたような塩気の、美味しいスープになっていると思う。
が。このままだと豚肉の臭みが気になるだろう。漬け込む時に擦り込んだ塩の量によっては、かなり塩辛いかもしれない。
塩味が強すぎる時は、スープを減らして水を足す。料理の塩分というのは足すことはできても引くことができない。ここで塩辛いまま野菜を入れると大惨事になりかねないのだ。
減らす時はスープを捨てずに、スープストックとして他の料理に使うことをおすすめしたい。塩豚の茹で汁をベースにしたカレーなんてどうかな。フリーザーバッグに入れて冷凍しても良い。
さて、鍋の中を『そのまま飲めそうな塩味』くらいに調整できたら、野菜を入れる。ごろごろと野菜を入れて、切り分けた肉も戻す。にんにくは薄皮ごと入れる。そして一番上にセロリの葉を乗せて、火にかける。
ここからはじっと待つだけだ。1時間近く、ただひたすら弱火で煮ていく。気をつけて欲しいのは、ガスコンロによっては『消し忘れ』と判断されて火が消えること。
この料理は鍋の中をなるべく触らない。あまり混ぜてはいけない。崩れるからだ。玉ねぎは崩壊し、じゃがいもはスープを濁らせる。見た目だけなら構わないけど、崩れてしまうと食べづらい。
ゆっくりと煮込んで、じゃがいもとにんじんにちゃんと火が通ったら、それで完成である。豚肉を大きめに切った場合は、ひとつ切ってみて中までしっかりと加熱されていることを確認した方が良いかもしれない。
食べ方は、好きな具材を好きなだけ、好きな器に乗せればいい。そして味が足りなければ塩を振るかハーブソルトをかける。
私はこのポトフには、たっぷりの粒マスタードをつけるのが好きだ。そして、じゃがいもにはハーブソルトが合うと思う。セロリの葉を食べるかはお好みで。私は食べる。
わざわざ薄皮を残したにんにく。これにはちゃんと理由がある。皮を剥いたにんにくをポトフに入れると煮崩れる。形を保っていられない。でも、薄皮付きなら?
しっかりと加熱されてとろとろになっているにんにくは、皮を剥くと中身はもはやペースト状。薄皮は捨てて、そのにんにくペーストに粒マスタードを混ぜ、しっとり柔らかく煮えた豚肉にたっぷり乗せて食べるのだ。これが本当に美味しい。人数分のにんにくがないと喧嘩になりかねないくらいに。
と、言うわけで、私は塩豚のポトフを作る時には人と会う約束がない日をおすすめしたいと思う。そしてできれば数日分を一気に作り、翌日も楽しんで欲しい。
具材がなくなっても、このポトフのスープは絶品である。洋風雑炊のベースに使うのもよし、具材を変えてトマトスープにリメイクするもよし、スープストックとして冷凍してもよし。別の野菜、例えばカブやキャベツを入れて、次はベーコンやソーセージを使った煮物にするのも美味しいだろう。
とても大好きなメニューであり、毎回満足度は高いし、失敗したこともない。でも、これはあまり頻繁には作れない。
何故か?
ガス代が半端ないのである。そして私は圧力鍋の蒸気が上がる音がどうしても苦手で耐え難く、時間の短縮が難しいのだ。電気圧力鍋なら静かだという噂を聞いたので、いつかは欲しいと思っている。
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