第5話 塩分過多な召喚士 激レアゲットだよ!
「はーちゃんが無事でよかった〜」
「リン、心配してくれてありがとう♪」
「もう本当に心配したんだからね」
「ごめん、ごめん! リンとゲームできると思ったら嬉しくてさ、早くやりたかったのに、変な奴らにリンが絡まれてたから、ついサクッとね♪」
つい『サクッと』って……。
さっきのは『サクッと』どころか、『バシッと一撃必殺』だったと思う。
私があの場にいたら、間違いなく怖くて逃げてた。
広場の中はざわざわと騒がしくなり、周りからいろんな声が聞こえてきた。
「オイオイ、マジかよ。ついサクッとで、アソコをストライク」
「あれ、想像しただけで痛ぇ」
「アイツら、普段から狩場の横入りとかMPKとかでマナー悪かったしな。いい気味だ」
「あの二人、いつもナンパばっかしてウザかったもんね。スカッとしたわ!」
「ナンパするなら現実でしろっての!」
周りの野次馬たちから、思い思いの声が飛び交う。
男の人たちは青ざめてるけど、女の人たちはスッキリした顔をしてる。
チャラ男たちが倒されたのは正直自業自得だけど、あの“急所ショット”の話題だけは、聞いてるこっちが痛くなる。
でも、はーちゃん本人は全然気にしてないみたいで、いつも通りの笑顔。
周りの視線がだんだん集まってきて、私はなんだか居心地が悪くなってきた。
「リン、とりあえず、場所を変えよっか?」
「そうだね。あっ! あの地面のアイテムどうするの?」
私が視線を向けると、パンツ一枚でデッド状態のチャラ男二人が転がっていた。
その周りには、装備していた武器と防具が強制的に解除され、地面に散らばっている。
キラリと光る剣の刃先に、虚しく映るパンツ姿の男。
うわ、なんかシュール。
「ねえ、あれって拾っていいのかな?
なんか他の人の物みたいだし」
「あ~、それね。倒した敵のアイテムって、一番ダメージ与えた人に『優先権』があるの。一分経つまでは他の人は拾えないルールなのよ」
「へぇ〜、そんな仕組みになってるんだ。
ゲームって奥が深いんだね」
「一分過ぎると、誰でも拾えるようになるから、そろそろ争奪戦が始まる頃ね。なんかあの二人のアイテムを装備する気が起きないし。放っておこう」
「そうだね。なんかこんなのでアイテムを手に入れても、嬉しくないもんね」
「うんうん♪ さっ、早く遊ぶわよ。時間がもったいないしさ!」
「行こ、はーちゃん!」
私たちはドロップアイテムを無視して、スタスタと広場をあとにした。でも背後では……。
「え? ドロップアイテムを放棄するのか!?」
「お! じゃあ俺が!」
「いや、俺様が!」
そんな声が聞こえてきて、案の定、後ろで小競り合いの音が響いた。
残されたチャラ男たちのドロップアイテムをめぐって、低レベルプレイヤーたちの壮絶な取得合戦が起こったのは、言うまでもないかな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふ〜、はーちゃん、それにしても凄いね、このゲーム! リアル過ぎて、まるで本当に異世界にいるみたいでビックリだよ」
「でしょ!」
はーちゃんは肩をすくめた。
「最近のVRMMOはリアル志向。細部の作り込みが命なんだって。『どっちが現実か分からなくなる』って人も出るくらいらしいよ」
「うん。広場の噴水も凄かった〜。水のきらめきが本物みたいだった」
「でもこのゲーム、やられるとインナー姿になるのはちょっと」
「あ〜、あれは特別な場合なだけだから安心して。普段はアイテムをドロップしないから、インナー姿にもならないわよ」
「そっか! よかった〜。男の人に、露出度高めの姿を見られるのが恥ずかしい。このゲームをやる女性の人は、見られて平気な人ばかりなのかと思って心配したよ」
「いや、リン。女性ならみんな抵抗があるからね。私も当然あるからね!」
「え〜、はーちゃん、なんの躊躇もなく、あの人達と戦っていたでしょう? だから他のゲームで負けて、恥ずかしい姿になるのに慣れているかもって思って」
「いやいやいや! それどんなどんなキャラ設定よ⁉︎ 酷いリン! 私をそんな風に思っていたなんて、よよよ……」
はーちゃんが泣きまねをして、腕で目をこすって見せる。
それが妙に可笑しくて、私も思わず吹き出してしまった。
「はーちゃんが変な路線に目覚めてなくて良かった。『お宅の娘さんが、ゲームの中で保護者会で話題になりそうな行動してますぞ〜!』って、おばさんに言わなきゃいけないかと思ったよ」
「やめてリン。下手したらゲーム禁止になるから!」
「そっか、じゃあこのことは内緒だね」
私が笑いながら小指を前に出すと、はーちゃんも当たり前のように指を出す。
「はい、約束だからね」
二人で小指をからませて笑い合う。
その笑顔に、さっきまでの緊張が嘘みたいに溶けていった。
「まあとにかく、インナー姿になるのは特殊な場合だけだから、そこは安心して」
はーちゃんは人差し指を立てた。
「それにね、デフォルトのインナーは絶対に脱げない仕様なの。装備が外れても、そこから先は脱げないわ」
「このゲーム、インナーまであるの?」
「あるよ〜、可愛い物からカッコいい物までいっぱいね」
「待って、はーちゃん。インナーがあるということは?」
「当然、服もたくさんあるからね♪
この神器オンラインに女性プレイヤーが多い理由の一つがこれなのよ」
「ふぁ〜、これだけリアルだと服のデザインも期待出来そう。楽しみ♪」
「でもリンには、服以上に耳寄りな情報があるわ」
「え! なになに?」
「このゲーム、いろんなリアル志向が売りなんだけど、味覚と嗅覚の本気度が違うの。食べ物の味も、バッチリ味わえるんだって」
「それって、まさか!」
「フッフッフッ、リン君、気が付いたようだね」
某名探偵みたいに、はーちゃんが腕を組んで得意げに笑う。
「はい! はーちゃん先生、つまりそれは、いくら食べても?!」
私はゴクリと唾を飲み込む。
その答えを聞くまでもなく、胸の奥はドキドキしていた。
「その通りだよ、リン君。
いくら美味しい物を食べても太らないの!」
「やったー!
塩分を気にせず好きなだけタクアンが食べられるね!」
「そう! 好きなだけタクアンがって、
リン、本当にタクアン好きだね」
はーちゃんは呆れたように笑う。
でも仕方ない。私は、タクアンが大好きなんだもん!
「うん、大好き。最近はお母さんに塩分の取り過ぎだって控えられちゃって。
あんなに甘いのに、なんで塩分高いんだろうね。
この前なんて、お父さんのお酒のおつまみをコッソリ食べたら怒られたよ」
思い出すだけで、ちょっと苦笑いしてしまう。
子供の頃からお婆ちゃん子だった私は、おやつにいつもタクアンを出されていた。
毎日ポリポリ食べていたら、それが当たり前になってしまって、今では自宅のベランダで自家製タクアンを干して作るレベルになってしまった。
我ながら、塩分過多な女子高生だと自覚している。でも、美味しいものはしょうがないよね。
「糖分を摂り過ぎて体重に悩む女子高生と、
塩分を摂り過ぎて高血圧に悩む女子高生、どっちがいいんだろうね?」
はーちゃんが首をかしげながら言う。
「どっちもイヤだけど、でもたくあんの誘惑には勝てないと思う!」
「リン、ゲームの中に、たくあんがあるといいね……」
「うん! あとで探してみる!」
私がそう言うと、はーちゃんが少し笑って、
ゲームの中くらいは好きなだけ食べさせてあげようって顔をしていた。
はーちゃん、優しいな。
この世界の中でも、やっぱり私の一番の味方だ。
「それにしても、はーちゃんの武器、凄かったね?」
「でしょ! すっごく頑張った甲斐があったわ。
チュートリアルで出現するマッドラビットってイベントモンスターを、初見で倒すと激レアなアイテムを落とすかもって、情報をネットでゲットして、頑張ってみたの!」
「あのお腹に口があるやつ、マッドラビットって言うんだ」
するとはーちゃんは腰のホルスターから銀色のデザートイーグルを抜き、くるくると軽やかに回して私に見せてくれた。
反射する光がまぶしくて、まるで本物みたい。
「性能もすごいのよ。見てコレ」
はーちゃんが私の隣に立つと、システムメニュー画面を操作して、アイテムの詳細を表示してくれた。
======================
《デザートイーグル改》
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 分類:双銃(ガンナー専用)
◆ レアリティ:ユニーク/譲渡不可
◆ 装備条件:
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 性能
・攻撃力:+140 (×2)
・STR : + 10
・DEX : + 50
・射程:中距離(最大15m)
・反動制御:STR依存(高STRで命中上昇)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
強烈な反動を誇るカスタム大口径ハンドガンの二丁セット。
高い威力と貫通性能で、小型銃とは思えない火力を発揮する。
======================
「ふぁ〜、本当に銃なんだね」
「いや〜、私もいろんなゲームやってきたけど、ここまでリアルな銃は初めてかも。アメリカで本物を触ったことあるけど、ここまで重量バランスが完璧な銃、見たことない」
はーちゃんは、重そうな銃を手首ですっと返す。
重心の移動がやけに自然に感じる。
「だから私でも扱えるよう、STR(筋力)にちょっとポイント振っちゃった。この重さを素で振り回すのは無理だからね」
すると片手で銃をクルクル回し、ホルスターにスッと収める。
完全に映画のガンマンだ。
うん、私がやったら確実に落とす。
「ランダムセレクトでガンナーっていうレアな職業が当たったの。多分マッドラビットってチュートリアルのイベントモンスターを倒すと、職業に沿ったユニークアイテムが手に入るみたいね」
「へ〜、すごいな〜。さすが、はーちゃん!
よっ、このゲーマー女子高生!」
「リンよ、もっと褒めるが良い♪」
「でもいいな〜。私もチュートリアルでモンスターを倒したけど、レアアイテム手に入らなかったよ」
その瞬間、はーちゃんの目がギラリと光った。
「え? リ、リン? 倒したの、マッドラビットを!?」
「え? う、うん。名前は分からないけど、お腹に口がついてる可愛くないウサギなら、倒したよ?」
「リン、それだよ! マッドラビット! アイテムBOX開いて見て!」
「え? メニューにある“アイテム”ってやつ押せばいいの?」
「そう。マッドラビットはドロップじゃなくて、アイテム欄に直接配布されるの。私もいつの間にか入ってたから」
「あっ、本当だ。なにかある!」
私は慌ててクリックした。
すると、手の中に淡い光が生まれ、
その光が収まった瞬間、ひんやりとした金属の感触が指先に伝わった。
「指輪かな? ん〜、デザインはカッコイイ系?
可愛いのがよかったな〜」
指輪の表面には、黒曜石のような紋様が浮かんでいる。
説明ウィンドウを開くと、そこにはこう表示されていた。
======================
《従魔の指輪》
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 分類:ユニークリング(召喚士専用)
◆ レアリティ:ユニーク/譲渡不可
◆ 発動条件:指定した召喚獣が召喚中
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 性能
・召喚獣の能力補正
・全ステータス:×1.2倍
・攻撃力:×1.5倍
◆ 効果:ステータス共有機能
・共に戦う召喚獣の中で最も高いステータス1種をプレイヤーと共有
・共有中はその値がプレイヤーに反映される
・複数召喚時、対象召喚獣を指定可能
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
召喚主と従魔が歩んだ記憶は、やがて力となり指輪に宿る。
心が離れぬ限り、二つの鼓動は同じリズムで強くなる
======================
「専用ユニークアイテム? 召喚獣のステータスを共有するみたい。う〜ん、はーちゃんみたいな武器じゃなかったよ〜。ちょっと残念」
「いやいや、リン……ちょ、ちょっと見せて!」
はーちゃんが私の目の前に顔を突き出して、ウィンドウを凝視する。
数秒後、彼女は大きく息を呑んだ。
「これ……激レアどころじゃないよ!? ぶっ壊れチート級だよ!」
「えっ、そうなの?」
「『ステータス共有』って書いてあるでしょ? これ、召喚獣のステータスがリンに上乗せされるってことだよ。
つまり、もしコタロウが『力が強い』タイプだったら、リンもゴリラ並みの怪力になれるってこと!」
「ご、ゴリラ!? ヤダよそんなの!」
「あくまで例えだってば! でも、『譲渡不可』ってあるし、これはリンだけの力だね。
……LUK極振りのリンが、コタロウの戦闘力を借りて戦う……これ、意外と最強の組み合わせになるかも?」
「そうなの? でも『譲渡不可』ってあるし、他の人に渡せないんだね。どうしよう?」
「ん? どういうこと?」
「えっとね、私、最初のステータス振りでやらかしちゃって……」
私は指輪を見つめたまま、小声になる。
「LUK(幸運)に全振りしちゃった。さすがにマズいかなって。せっかく手に入れたレアなアイテムだけど、やり直した方がいいのかな?」
自分でも情けなくなって、思わずため息が出た。
こんなドジっ子振り、リアルでもゲームでも健在かぁ。
はーちゃんが腕を組んで、少し考える仕草をすると……。
「様子見でいこう!」
はーちゃんは、優しいまなざしで答えてくれた。
「召喚士は前に立たない後衛。STRやDEX(器用さ)が薄くても致命傷じゃない。
INT(知性)とVIT(体力)はあとから積めるし、困ったらその時に作り直そ」
「そっか。うん、わかった。しばらくこのままで頑張ってみる」
「よろしい。ちゃんと私がサポートするから、大船に乗った気持ちでいるが良い!」
「はは〜っ! はーちゃん様〜」
「ふっふっふっ! 良きかな良きかな♪」
そう言ってはーちゃんが得意げに笑う。
私はその姿を見て、なんだか本当に安心した。
やっぱり、はーちゃんが一緒だと心強い。
「よし、それじゃあ、まずはギルドでクエストを受けるわよ」
はーちゃんが前を向く。
「レベル上げと同時に、資金を稼ぐわよ」
私は大きくうなずいて、並んで歩き出した。
「よ~し やるよ~♪」
意気揚々とギルドへ向かって歩き出す私たち。
このときは、まだ知らなかった。
このあと私たちが向かう先に、
絵に描いたようなテンプレ展開が待っていることを。
……To be continued
次回予告
意気揚々と冒険者ギルドへ向かったリンとハルカ。
そこで幸運極振りのリンが手にした物は⁉︎
殺到する勧誘、浴びせられる心無い言葉。
「
泣きそうなリンを守るため、最強の親友と忠義の鋼鉄犬が激怒する!
『これが噂のテンプレ展開?! ―リンと忠義の騎士―』
虚構が軋み、心が吠えたとき、世界は書き換わる。
もし「続きも読んでみようかな」と思ってもらえたら、
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