ローブ姿の少女は、かつての愛猫でした

小林

第1話 木漏れ日の中、やっと会えた

 木漏れ日が揺らぐ部屋。

 陸斗が目を覚ますと、ローブ姿の少女が彼をじっと見つめていた。

 被っているローブの隙間に見えるのは、猫の耳。

 裾の影からは、ゆらゆらと尻尾が揺れている。

 三白眼の気怠そうな表情。そんな小柄な少女は、どこか嬉しそうに呟く。


「やっと会えた」



 ――昨夜、陸斗はいつもの様に遅くまでゲームで遊んでいた。

 ワンダーテイル。MMORPGとして長く続いているオンラインゲームだ。

 部屋に引きこもりがちだった陸斗にとって、もうひとつの人生がそこにあった。

 どの職業もレベルは最大まで上がり切り、今ではのんびりと釣りをする様な日々を送っている程度。

 それでも陸斗は満足していた。これもまた人生だとゲームを楽しんでいた。


 そんな時、チャットの音が聞こえた。


「みつけた」


 差出人は不明。不気味なチャットから目を逸らす。

 すると、今度は釣りをしていたはずの自分のキャラクターが立ち上がった。

 空を――いや、モニター越しに陸斗を見上げていた。

 キャラクターの唇がかすかに動く。


「――にゃあ」


 猫の鳴き声が聞こえた。

 ゲームからではなく、陸斗の耳元から。

 懐かしさを感じるその声を最後に、陸斗の意識は遠くへと沈んでいった。



 柔らかな木漏れ日の暖かさに、陸斗の意識がゆっくりと戻っていく。

 目を開けると、ローブ姿の少女が陸斗を覗き込んでいた。


「りくと、起きて」


 気怠そうに、それでいて嬉しそうに。三白眼の青い瞳は陸斗を見つめていた。

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