Forgiveness in December
旭
第1話 ツリーの下で
12月1日。
吐く息が白い。東京の空は冬らしく高く澄んでいた。
皆川潤は、わずかに震える手で小さな紙袋を握っていた。
その中には支給されたばかりの所持金数千円と、解放の証書。
10年の重さを象徴するように感じられた。
「……さて、これからどうしたものか。」
行き先はない。
家族とは事件以来絶縁し、職も住む場所も決まっていない。
とりあえず都内の簡易宿泊所まで歩くことにした。
足元のアスファルトにクリスマスのイルミネーションが反射して揺れる。
世の中は楽しげで華やかで、自分だけ季節外れの冷気をまとっているようだった。
途中の小さな公園。
そこには、地域の商店街が設置した背の高いクリスマスツリーが飾られていた。
その下を通り過ぎた瞬間――
澄んだ声が頭の奥に落ちてきた。
「皆川 潤さん。」
潤は足を止めた。
周囲には誰もいない。子どもの笑い声も、車の音もない。
冬の気配だけが静かに満ちていた。
「あなたは、今月中に五人の不幸を抱えた人を幸せにしなさい。」
「そうすれば、あなたの心も救われます。」
「……なんだ? 誰だ?」
返事はない。
ただツリーの飾りが風に揺れてチリンと鳴っただけだった。
幻聴だと片付けようとした。
でもその声は、なぜか不気味ではなく、不思議と温かかった。
「幸せに、する……?」
自分が?
自分のせいで人を不幸にした男が?
笑えない冗談だ。
それでも足が自然とツリーの方へ向いた。
そのとき、背後から女性の泣き声が聞こえた。
振り返ると、買い物袋を抱えた若い母親がベンチに座り込んでいた。
小さな子どもをあやしながらボロボロ泣いている。
潤の胸に、ツリーの声が再び響いた。
「最初の一人は、もう目の前に。」
潤は迷いながらも歩み寄った。
「……大丈夫ですか?」
12月の冷たい風の中、“誰かを救う旅”の幕が上がった。
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