第14話次の魔道具作成

 いつものようにちょっと早く学び舎に到着する。

 今日から木綿の糸で靴下を作るつもりなので、時間を見つけて編み始める。

 パンツが出来て、鞄が出来て、靴と靴下が出来て、今度はチノパンやシャツが欲しいかな。

 でもなぁー、衣服となると、この年頃の子供ってすぐにサイズが変わるよね。

 今年作っても来年着られなくなるんだよね。

 作るのはパジャマにしておこうかな。パジャマというかネグリジェみたいな感じのもの。

 既製品が出来て欲しいなぁ。軍服や官公庁関係以外の一般人用の既製服も昭和になってから販売と聞いた気がする。

 そうなると、この世界でもまだ遠いのかなぁ。

 教会関連で生産システムが出来ている可能性って、ワンチャンあり?

 何か大流行が起きて、工場生産を始めてくれない物だろうか。



 新しく覚えた手芸魔法を使って編み物に集中していたら、授業の時間になっていた。

 手芸魔法は一度作った事がある物は出来上がりの速さが違うようだ。初めての物でも手際が良くなるのかな?

 慌てて鞄に仕舞って、勉強を始める。

 道徳っぽいもの、単語を覚えて書き取り、生活魔法の順に習う。

 身体強化に至っては、教室の子供が全員使えるようになっていた。


 夏と言えばプールだよね。

 生活魔法で水を出して泳いだりしないのかな?

 水を入れる場所が無いのかな?泳ぎだと運動の授業になっちゃう?水着が無いか。

 線香花火というか、藁の先に小さな火を点ける練習をしながら、考えていると、先生に話しかけられる。


「しのさん、何かわからない事がありましたか?」

「あ、いえ、特にありません。」

「そうですか?何か悩んでいるように見えましたが。」

「悩みというか・・・夏は暑いから、生活魔法で水をいっぱい出して溜めたら、水遊びの運動も出来るなって思ってただけです。」


 水を出す部分に先生が反応し、水遊びの単語に子供達が食いついた。

「庭に穴を掘って、風呂のようにしっかりと木枠で固めたら・・・終わったら水遣りに使えるし・・・。」

 先生がぶつぶつ言い出した。

 

 先生の監督の目が離れた途端に何かやり出すのが子供だ。

 藁の塊に大きな火の玉を繰り出す男の子がいた。

 ボッ!っと火が点き、メラメラと燃えだしたと思ったら、火の粉が飛んで行く。

「飛び火したら大変!」

 頭上から水がざっと雨のように降るイメージで生活魔法を使った。


 ザザーッ!

 ふう、鎮火して良かった。

 無い胸を撫で下ろしていると、先生が男の子を叱り始める。

 全員びちゃびちゃに濡れたので、それぞれ洗浄をして成り行きを見守る。

「タカシさん、火の魔法は取り扱いに注意しなくてはいけないと、何度も注意していますね?事と次第によっては放火の大罪人としてお縄になるんですよ?今回は水を降らせてくれた人がいたから良いものの、二度とこのような事をしてはいけません。」

「・・・はい。・・・ごめんなさい。」

 『大罪人としてお縄になる』と知って、青くなりながら謝罪するタカシ。

「濡れた服を洗浄して、あとで反省文を書いて提出してください。」

 罰を言い渡す先生だった。


 火の取り扱いは慎重にしないといけないものね。

 以前の国でも枯れた葉や草木がある所で歩きタバコをする無神経な人がいて、それが原因で山火事になったり、ポイ捨てしたタバコが排水溝でガスと反応して爆発したなんて聞いたもの。

 火は安全な場所で、必要な分だけ使う事が大事だし、万一事故で発火した時は、初期消火できるだけの備えがあるといいよね。

 そういう意味ではこの世界、水が自力で出せるんだから便利。

 

 タカシに罰を言い渡した先生が、グルリと首を回し、私に焦点を当てるとツカツカと歩き出した。

 怖い。

「しのさん。」

「はい。」

「火を消してくれたのは貴女ですね?ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

「それで、水の魔法ですが、どうやってあんな風に出したのでしょう?」

「火の粉が飛んで行ったら他の物に引火する可能性があったので、雨のように水が降る様子を想像しました。」

「そうですか・・・。それも魔法の呪文ではなく、この国の言葉で?」

「はい。」

 あら?何かまずかったかな?

 ドキドキしていたけれど、それ以上は先生が何も言わないままに授業が終わった。


 ミヨとミドリの三人でお昼ご飯を食べ、一緒に学び舎を出た。


「水ってあんな風に出せるんだね。」

 ミヨとミドリが目をキラキラさせて言う。

「え?今まではどんな感じで出してたの?」

 何が違うのか確認しなくてはと二人に聞く。

「うーん・・・チョロチョロ?鍋や水差しにジャーっと?そんな感じ。」

「昔出来たって言う集合住宅にあるお風呂の魔道具に、上から雨のように水やお湯が降り注ぐものがあったらしいけど、それの付与を真似するのが難しかったって聞いてる。」

 そうだったのか・・・。

 ということは、学び舎の子供が全員出来るようになったら、目立たなくなりそう?

 これは皆に頑張って覚えてもらおう。

 

 町の塀と道路の魔道具に魔力を入れてから村に戻った。



 いつものようにジロウの所で魔石に付与をする。

 作業の合間にジロウに聞いてみた。

「ジロウさん、最初の集合住宅に設置された雨のように水やお湯が出る魔道具の事なんですけど。」

「うん?あれか。洗浄で殆ど済ませるからいらないだろうって思ってたんだが、使ってみると湯に浸かるのも、浴びるのも気持ちいいな。あれの付与と道具作成は本当に難儀したぞ。」

「じゃあジロウさんは作成できたんですね。」

「おう、町にいる付与師と大量に作ってなぁ、作っても作っても終わりが見えなくて嫌になるくらいだったぞ。」

「今の状況と一緒ですか。」

 魔石を掌に載せて言う。

「呼び出しの魔道具はその辺の木材で作れるし、簡単でかわいいもんさ。」

「そうだったんですね。これの上位版を作るときは大変そうだなぁ。」

 ジロウがぴたりと動きを止める。


「そういや、最初の頃に顔がわかる装置って言ってたな。しのが想像するのはどんな物なんだ?」

 そこからざっくりと像を写すための道具と像を見るための道具があって、双方向で会話も出来て、場合によっては像を保存出来るという所まで話した。

「像を写し取る・・・か。そういやどこかでそんな道具の話を聞いたな。」

「それって肖像画のように動かない像ですか?それとも動いている像を写し取る?」

「どっちだったかわかんねぇな。そうか、そういう道具が発展したら、便利になるんだな。」

「道具はともかく魔石に付与そのものは出来ると思うんですけど・・・。」


 ギンッ!と音がしそうな勢いでジロウが私を見る。

 付与より道具作りの方が大変だよね?

 そう思いながら首を傾げると、大きくため息をつかれた。

「俺ももっと技術を付けないといけないなぁ。そろそろこれ(呼び出し魔道具)も独占せずに他の魔道具師に任せる頃合いか。」


「一旦そこから離れて違う物を作製してみる・・・というのはダメですかね?」

「違う物って?」

「うーん・・・足のほぐし道具?」

 元の世界でヘビーユーザーだった足のマッサージ機を思い出して言ってしまった。

「ほぐし?なんだそりゃ。」

「疲れた足を揉んでくれる道具ですよ。ふくらはぎや足裏を刺激したら楽になるんです。」

 ちょっと失礼と、ジロウの足を拝借して、揉んだり、足裏のツボを押してみた。

「はい、立ってみてください。」

 最初は痛がっていたが、言われた通りに立ち上がる。

「おっ!なんか片足だけ軽くなった気がするな。」

「自分の手で揉んだり、木の棒をあてたり転がしたりも良いけれど、魔道具で出来たらいいなって。必需品じゃないから売れ行きに関しては微妙ですが・・・。」

「まぁ、作れそうな物があるっていうのは良い事だな。暇な時に試しに作って自分用にするか?」

「そんな感じでもいいかもしれないですね。」

 実用品・・・何か無いかなぁ。


「音が鳴る繋がりで目覚まし時計・・・。珍しくも無いか・・・。」

「なんだ?目覚ましって?」

「時計が自分で指定した時間に鳴ってくれるんです。」

「でかい魔石が必要なんじゃないか?」

「一番小さいので大丈夫ですよ。手のひらに乗るような大きさの時計に、呼び出し魔道具みたいな音が出るように組み込めば。」


 ジロウと話を詰めた。

 どうやら大きな時計は教会がある町にあるが、懐中時計を所有している人は限られた人だけらしい。

 一般家庭には時計そのものが無い事が多いというので、小型の時計兼目覚まし時計を作ってみる事になった。


 まずは魔石に付与をする。


 『音の魔石:風の魔力を付与した魔石が使われている。魔石の魔力効率--。』


 時計部分の作成は時間がかかるので、ジロウに頑張ってもらうしかない。

「これが上手く出来たら、呼び出しの魔道具より、目覚まし時計の制作を複数で行わないとダメだな。」

 個人的には時計が欲しいので、完成を心待ちにする。

 呼び出しの魔道具のための魔石付与は続行が決定した。

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