第12話 下着店オープン

 今日は学び舎に行く日だ。

 いつものように朝ご飯を食べてメッセンジャーバックに勉強道具を入れる。

 それ以外の物は全部インベントリに入っている。

 

 ゆっくり家を出ても、身体強化で歩くと少し早く学び舎に到着する。

 草履じゃなくて靴で歩くから尚更かも。

 まだ誰もいない教室に入って席に座り、検索魔法で靴下について調べる。ニット生地で縫う方法もあるけれど、ニット(メリヤス)生地が手に入らないかもしれない。やっぱり編む事になるのかなぁ。編み方を検索する。


 少しすると、大先生が見回りに来た。

「おはようございます。」

 挨拶すると大先生がにっこり笑う。

「おはよう、今日も早いね。・・・おや?君は見かけるたびに変わったものを身に着けているね。」

 変わった子供と認識されているっぽい。

「ふふっ、変わっていても便利なんですよ。」

「そうかそうか。」

 大先生は頷いて他の教室を見回りに行った。


 他の子供達もぞろぞろと教室に入ってくる時間になる。

 最初の授業は女の子が裁縫なので、裁縫室に移動して縫い物の準備をする。

 男の子は技工で小さな家具作りを学んでいるらしい。


 裁縫道具を出していると、女の子が一人そばに来た。

「ねぇ、この前縫っていた下着、お店で売る事になったの?」

 ん?お店?人気と言えば、村では男性用のパンツが人気だけれど、出店するような話は聞いていない。

「お店があるの?」

「え?知らないの?町の中にお店が出来たって聞いたんだけど・・・。」

 お店が出来たのであれば興味がある。

「どの辺にあるか知ってる?」

 私の反応が意外だったのか、戸惑った様子の女の子。

「本当に知らないの?貴女が作ったのかと思ったんだけど。」

 私が作っているのは自分用のパンツと鞄と靴だ。

 お店を出すような立派な品物を作っていないし、そんな大規模な事は出来ない。

 場所を詳しく聞いていると、ミヨが来た。


「・・・それ、うちの店の事よ。何か文句でもある?」

 おお、ミヨちゃんの家ってお店だったんだ?ちょっと感動していると、最初の女の子とミヨが言い争い始める。

「最初に作ったのがしのさんなのに、どうして貴女の家の店で売っているの?」

「作ったんだもの、売っていいでしょ。」

「しのさんが知らないって言ってるのに?」

「そんなのどうでもいいじゃない!」


 ・・・あれ?私、話題の中心になっていたりする?

 本人を置き去りにして、二人がヒートアップしている気がする。

「えーっと・・・。」

 声を掛けたら、二人同時にぐるりとこちらを見る。怖い。

「しのさん、はっきり言った方が良いよ。」

「うちの店の事なんだから口を出さないで!」

 教室にいる他の子供達もこちらを見て、コソコソと話をしている。

 そんなタイミングに裁縫の先生が来た。

 そうよね、授業が始まるものね。


 教室内の不穏な空気に先生が気付いて、何があったのか入り口近くの子に聞いている。

「はい!おはようございます。」

 パンパンと手を叩いて挨拶をする先生。

「何か揉めているようなので、話を聞かせてください。当事者じゃない人たちは課題を始めてくださいね。」

 他の子供達は各々の席に座って縫い物を始めたが、意識はこちらにありそうだ。


 先生が来たことで最初の女の子とミヨが話し出す。

「先生、しのさんが作った下着をミヨさんの家のお店で売ってるんです。」

「うちで作ったんだから売っていいと思います。」

「・・・。」

 私は何も言う事が無いので無言だ。


 反応が無い私を見て、先生が問う。

「しのさんはどう思っているんですか?」

「え?どうって・・・。売っているなら買いに行きたいです。」

 きっぱりと宣言すると、全員が『何言ってんだこいつ。』という顔をする。

 ミヨも驚きの表情なので、もしかしたら非難されると思っていたのかもしれない。

「しのさんは気にならないんですか?」

 先生が重ねて問うのでこくりと頷く。

「私が考えた品でもないですし、お店で売るという事は、縫い目も綺麗で、種類も豊富なんですよね?選べるって嬉しいじゃないですか。なので買いに行きたいです。」

 宣言すると教室は水を打ったように静かになった。


「なっ、何よ、文句言えばいいじゃない、なんで怒らないのよ。」

 わなわなと小刻みに震えながらミヨが言う。

「怒る要素が一つもないんだけど・・・?」

 教室の皆さんがまたもや『はぁ?』とぽかんと口を開けて見ている。


 先生が気を取り直したように話をまとめる。

「では、教室でしのさんが作っていた下着を、ミヨさんのうちのお店で売るようになったけれど、しのさんは問題無いと考えている。ということで良いですか?」

「はい、その通りです。」

 周りにもしっかりと伝わるように重々しく頷く。

「ではミドリさん、この件はこれで終わりという事で良いですか?」

 女の子の名前はミドリって言うのか。

「はい。しのさん、騒がしくしてごめんなさいね。」

 とりあえず納得したのか、私に謝罪した。

「いえ、教えてくれてありがとうございます。」

 ミドリにお礼を言うと、先生はミヨにも確認する。

「ミヨさんも。いいですか?」

「はい。」

 ミヨはしょんぼりした感じで席に戻って行った。 


 あれ?何か文句でも言ってキャットファイトする場面だった?

 喧嘩する理由が無いからなぁ。

 むしろゴム付きの品が出来ていたりしないか期待しかないのだけれど。

 その後はいつも通り裁縫の時間が過ぎていった。


 授業の後、裁縫室から出る際にミドリが近くに来て言う。

「しのさん、先ほどは勝手にごめんなさい。」

「ううん。気にしていないから大丈夫。お店の事、教えてくれてありがとう。帰りに寄ってみるね。」

「本当に買いに来る気なの?」

 後ろからミヨの声が聞こえた。

「うん、見てみたいし、買ってみたい。行ったらダメ?」

「別に、来たらダメなんて言わないわ。」

 ミヨは小走りで教室に戻って行った。

 

 あれはツンデレというものなのでしょうか?

 ミヨがなんだか可愛いです。

 ちょっとニヤニヤしながら教室に戻った私は悪くない。はず。


 計算の授業や音読の授業が終わり、ご飯を食べて教室を出る。

 ミヨが玄関で待ち構えていた。

 もしかして御飯が喉を通らないくらいに緊張していたのかな?と思いつつ、声を掛ける。

「ミヨちゃん、一緒にミヨちゃんの家のお店に行ってもいい?」

「え、今日行くの?」

「うん。」

「じゃあ、案内する。」

 硬い表情でぎこちなく歩き出す様子が、やっぱり可愛い。

 視界の隅でミドリが手を振っていたので、そっと手を振り返した。

 

 無言で歩いて行くと、店舗の前に到着する。

 ミヨが入っていくと、従業員なのか家族なのか『おかえり』と言うのが聞こえた。

 後ろから私が入ると、女性と目が合う。

「いらっしゃい・・ませ。」

「あっ!」

 この前、布屋さんで見かけた女性だった。

「ミヨ、この子は?」

 子供なので客に見えないのか、ミヨに事情を聴く女性。

「お母さん、この人がしのちゃんで、下着の型を描いてくれた人だよ。」

「ああ、貴女がそうなのね。もしかして文句があってきたのかしら?」

 親子揃って私が文句を言うと思っているようだ。


「お母さん、しのちゃんは買いに来たのよ。」

「え?」

 お母さんが絶句していた。


 販売する事を怒っていない事、売り物は是非買いたいと伝えると驚かれた。

 更に縫製機を使ったのか、紐の部分はゴムを使ったのか?ゴムを使った場合は正面の印にどんな飾りを付けたのか?と立て続けに聞くとドン引きされる。

 縫製機まではわかるとして、それ以降の話が全く見えなかったらしく、肩を掴んで奥の部屋に案内された。

「しのさん、だったかしら。詳しく話してもらえる?」

 凄みのある表情で迫られたけれど、こちらとしても使いたい仕上がりの品があれば嬉しいので、一つ一つ石盤を出して書きながら解説した。


 腰の部分にゴムを使いたかったけれど、手に入らなかったから仕方なく紐にした事。

 紐じゃない場合は前後が分からなくなるので、前に印のような何か(刺繍だったりリボンだったり)があるとわかりやすい事、普段用のパンツ以外にも、月の物専用のパンツがあれば使えるかもしれない事、布ナプキンの事、男性でも下血や尿漏れなどで使うかもしれない事、認知度が上がればおしゃれな品も受け入れられるかもしれない事、胸当てとお揃いで着る楽しみや、男性用の下着が村で流行中だという事まで話した。


 情報量の多さに頭を抱えるミヨの母。

 その様子にミヨもオロオロしている。

「ミヨ・・・。」

「はい・・・。」

「私達はもっとしっかり話を聞くべきだったわ。出し抜くような売り方をしなくてもよかったわね。・・・しのさん、ごめんなさいね。」

「しのちゃんごめんなさい。」

 ん?ここで謝罪されるような何かがあっただろうか?


 不思議に思っていると、呆れたようにミヨの母が言う。

「本当に貴女、何も気にしていないみたいね。下着を初めて見た日、ミヨから話を聞いて、これから売り出せる。競争する店がない今のうちだと思ったから、製作を急いだのよ。」

「そのお陰で買い物が出来るんですね。」

 にっこりと笑って言えば、げんなりした様子で溜息をつかれた。


 その後は気を取り直したミヨの母と、一つ一つの品についてもう一度話し、薄い板を準備してもらって男性用のパンツの型紙をこっそり転写して渡した。

 お店で販売していたボクサーパンツを一枚購入する。

 財布を出すと、気になったのか『それは?』と聞かれたので、布屋さんの取扱品だと宣伝した。

 今度来た時には、パンツの種類が増えているといいなと思いながら布屋に向かった。


 布屋に行くと何人かのお客さんがいて、財布を選んでいた。

「ああ、お嬢ちゃんいらっしゃい。」

 他のお客さんが買い終わるのを待ってから女将さんに編み糸と編み棒の相談をする。

「縫い物の次は編み物を始めるのかい?」

「靴下が欲しくて・・・。」

「ああ、そのための糸と棒だね。この辺の品になるから、選ぶと良いよ。」

 

 糸の細さや色を選んでいる間にも、財布を購入する人が何人か来ていた。

 財布ブーム到来らしい。

 靴下と言えば冷え取り健康法に取り組んでいる人が絹の靴下の話をしていたなぁ。

 それなら、絹糸と木綿の糸とで二種類作ればいいだろうか?

 品物を決めてお会計をお願いする。

「お嬢ちゃんのお陰で財布が売れているよ。作り手を雇うくらいだよ。ありがとうね。」

「使いやすかったから評判になったんですね。私もこの前買ったこれ、気に入ってます。」

「そうかい、それは良かった。」


 町の塀の魔道具に魔力を入れ、急いで村に帰った。

 その後はジロウの所に行っていつも通り過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る