戦力担当になった
@ceoite98
1. ドラゴンハートを拾う
会社に出勤して作業道具を取り出し。
人数分の荷物を積んでトラックに乗り込んだ。
俺の仕事はゴミ処理場の掃除。
汚くてきついのはさておき、魔界では清掃員に対する認識が良くなくて、他の連中はやろうとしない仕事だが、前世で持っていたスキル「浄化」を使えるので、少し我慢すれば俺にはそれほど難しい仕事ではなかった。
道が悪くてトラックの荷台に乗っていると。
地面がデコボコなのを全身で感じることができた。
ガタン。
俺だけが不満を抱いていたわけではなかったのか。
誰かが運転席に向かって喚き散らした。
「運転もっと上手くやれよ! 尻が痛えぞ。」
返ってきたのは窓から突き出された中指。
「プッ。」
「キキッ。」
周囲の嘲笑に、男はフーフーと荒い息を吐きながら怒りを静めるしかなかった。
ガタガタ揺れるトラックの上でしばらく尻を酷使していると、胃がムカムカしてきた。
数日前から始まった魔界編入100周年祭が昨日終わったのだが、祭りの期間中は酒代が安くて飲みすぎたせいで、腹の具合が最悪だった。
浄化を使って酔う前にアルコールを飛ばすこともできたが、酔うために飲むのに、それじゃ飲んだ酒がもったいないじゃないか。
ガタン。
「着いたぞ。降りろ!」
「降りろだとよ。」
ゾロゾロ。
一糸乱れぬ動きでトラックにある荷物を下ろし、一緒に行動するチームを分けた。
俺のチームは俺とハンス、そしてジョシュ。
ハンスはここ半年近く同じチームで作業している男で。
ジョシュは車で恥をかいた男で、誰も連れて行かないから経験豊富だという理由で俺が押し付けられた。
一緒に入ることになったジョシュが愛想よく近づいてくる。
「ヘヘッ、よろしくお願いします。兄貴たち。」
「なんで俺らが兄貴なんだ? 年はお前の方が上だろ。」
「年が上だからって全てじゃないでしょう。評判はかねがね聞いてます。お二人が一緒なら事務所でついてこれる人はいないって。」
「水に落ちても口だけ浮きそうだな。」
ハンスの言葉にジョシュが手を横に振って言った。
「俺もそういう奴らは大嫌いです。」
そんな二人を見てから、ゴミ処理場に入るために入口を守っているインプに近づいた。
「今日も来たか? 一日も欠かさず来るな。実に真面目だこと。」
俺の背丈の半分にも満たないインプ。
下級魔族だが、ああ見えても魔法使い。
俺みたいな人間がどうこうできる存在じゃない。
インプが笑って言う。
「キキッ、お前がいつ死ぬか賭けてるんだが、もし死にたくなったら俺に耳打ちしろよ。あの世への路銀くらいは用意してやるから。」
「死ぬつもりはないから、そんな賭けはしない方がいいぞ。」
「さあな。弱い人間に死に場所を選べたかな? 行きな。」
入ってもいいというインプの許可に、俺たちはガスマスクを被って中へ進入した。
「初めて来た連中は、死にたくなければ古株の言うことをよく聞くこった。生きてまた会おう。」
俺は人々が去っていくのを見守ってから。
アリの巣のように伸びている通路を先頭に立って歩いた。
ゴミ処理場は文字通り。
都市から不要なカスが集まる場所。
こういう場所があちこちにあって、定期的に掃除しないと変種スライムが発生してしまう。
ブスッ。
俺は持ってきた電気棒を使ってスライムの核を壊した。
細長い液体がついてくる。
棒を振った。
俺たちは周囲を警戒しながら汚染されたスライムを処理した。
ここはゴミ処理場。
たまに金になるものが捨てられることがあって、運が良ければ一日の酒代くらい稼げる時もあるが、思いもよらないものに出くわした。
「これ、あれじゃねぇか? 噂には聞いてたがマジだとは……」
「兄貴たち、こいつ死んでるみたいですよ?」
俺たちの目の前で通路を埋め尽くしているのは、都市の主が宴で使ったというドラゴンの死体だった。
ここまで来る道中、前に来た時よりスライムが少ないからどこに消えたのかと思ったら、死体にべったり張り付いていて見えなかったようだ。
スライムが固まっている姿は見栄えが良くなかったが。
その鱗から見える妙な魅力に見惚れていると、ハンスが静寂を破った。
「ボケっとしてないで片づけようぜ。一山当てなきゃな!」
金になるのを見て目の色が変わったハンスが。
死体に張り付いたスライムを殺し始めた。
「ジョシュ、来て手伝え。」
「へい!」
俺もその列に加わった。
これ全部でいくらだ?
どうせやる仕事だし、金も稼げればいい。
電気棒を持って死体に張り付いたスライムを突いた。
ブスッ。
シュゥゥッ。
すると、今までとは違う濃い魔気が顔を覆った。
「うっ。」
自然と眉をひそめる。
急いで手を挙げて浄化フィルターを押さえた。
不浄なエネルギーを防いでくれるガスマスクをつけているのに、鼻と目が痛かった。
俺は手を止めて後ろに下がった。
「やめろ。」
洞窟に響き渡る声。
ピタリ。
二人が手を止めて俺を振り返った。
なぜだと言わんばかりに不審そうに俺を見る彼らに言った。
「俺たちの手に負えるもんじゃない。戻って人を連れてくるか、上部に報告し……」
「ダメだ!!」
俺の言葉が終わる前にハンスがカッとなって怒鳴った。
「人を呼んだらみんな来ちまうだろ、分けたら残るもんがねぇよ。俺たちだけで処理しよう。」
「三人でやるのは危険だ。」
「ユジン、頼む! 今回だけ頼むよ。な? お前だってこんな生活嫌だろ? 今回だけ目をつぶってやれば、人もうらやむ暮らしができるんだから……」
ガスマスク越しに目をぎらつかせるハンス。
その姿に背筋を冷や汗が流れた。
「ジョシュ、お前もそう思うだろ?」
「え? はい! 他の奴らにやるのはもったいないですよ。どうせ金があったって賭博や酒に使う連中なんだから、俺たちだけでやるのがいいと思います。」
ジョシュまで同意する状況で、ここでやめようと言えば危険だということを俺は本能的に悟った。
「じゃあお前の言う通りにして、代わりにヤバいと思ったら帰ることにしよう。」
「信じてたぞ! 俺だって命は惜しいから心配すんな。ジョシュ、早く金を拾うぞ。」
「ヒヒッ、はい兄貴!」
再び作業を始める二人。
俺も場所を確保して仕事を始めた。
代わりに以前より彼らと離れた場所で。
ブスッ。
シュゥゥッ。
どれくらい作業しただろうか。
腫れ物のように張り付いていたスライムをあらかた除去した時、胸につけておいた浄化フィルターの交換シートが黒く染まっているのを見た。
俺は急いで背負っていた鞄から。
予備の浄化フィルターを取り出して付け替えた。
カチッ。
グルルッ。
「フゥ……フゥ……」
浄化フィルターを交換しながら、止めていた息を吐き出して呼吸を整えた。
空気が少しマシになったような気もする。
少し休もうかと思ったが、剥き出しになった胸骨の間にキラキラと光る物体が見えた。
後で確認することもできるが、運命のような引力を感じた。
我に返った時には、それを持ち出した後だった。
宝石のように見えるが黒いしみがついていて、浄化を使うと元の色に戻った。
大きさが小さいから。
隠して持ち出せば分けなくても済むだろう。
宝石をポケットに入れて、二人は何をしているのか見ようと彼らがいる場所に移動した。
胴体を回って近づくにつれて。
貝を剥くような音が大きくなった。
案の定、スライムを全部処理したのか。
ハンスが短剣でドラゴンの鱗を剥ぎ取っていた。
ジョシュはどこにいるのかと見回したが。
壁際で腕をだらりと下げて背をもたせかけているではないか。
「ジョシュはどうしたんだ?」
「あの野郎、浄化フィルター一つしか持ってきてなかったみたいだぞ?」
「!!」
ハンスが倒れたジョシュを疎ましそうに言いながら。
鱗を一つでも多く剥がすために手を動かした。
行って状態を確認するとまだ息はあるが、揺すっても意識が戻らなかった。
状態を見ると、今出なければ危険だった。
今でも遅いかもしれない。
治療も受けられずに死ぬ姿は見たくなくて、出る準備を急いだ。
俺を見ていたハンスが言った。
「何してる? 時間に合わせて出るなら一つでも多く持ってかなきゃな。」
「ジョシュを連れて出た方が良さそうだ。このままだと死ぬぞ。」
「……あえて今か?」
「今だ。やってる分はまた来て持っていけばいいから。」
「外にいるインプがいるから、出たら二度と来れないかもしれないぞ。」
ガスマスクの隙間から漏れ出る殺気立った声。
「俺たちは同類だと思ってたが、俺の勘違いだったか?」
短剣を握っている彼の動きが荒くなった。
長い付き合いでそれなりに親しくなったと思っていたが、殺伐とした彼の姿に口の中がカラカラに乾いた。
ピタリ。
鱗を剥いでいたハンスが手を止めた。
「もっと持っていきたいが、このくらいが限界だろうな。」
そう言って体を向けると。
手に持っていた短剣を投げた。
ヒュッ──
ブスッ。
「ぐぅぅ……」
ハンスの手を離れた短剣がジョシュの胸板に突き刺さった。
ジョシュが血をドバっと吐き出す中、ハンスが冷たい声を吐き捨てながら近づいてきた。
「ユジン、冷静に考えろ。連れて出たところで治療費もなかっただろうし、仲間の俺たちが楽にしてやらなきゃな。」
彼が死体から短剣を回収しながら言葉を続けた。
「予備の浄化フィルターを持ってこなかったあいつが悪いんだから、死んだ奴のことは気にせず、俺たちはこれからのことだけ考えた方がいいんじゃないか? どれどれ……今出てもギリギリだな?」
何事もなかったかのように平然と袋を空にしてドラゴンの鱗を拾い入れる。
放っておいてもよかっただろうに、余計なことを考えるなという俺への警告だろう。
成り行きの状況にため息が漏れた。
すでに起きてしまったことを問いただせば雰囲気が悪くなるだけなので、俺もハンスのように袋を持って鱗を詰めた。
「いいよな?」
「何が?」
「ジョシュのことだよ。」
「今日初めて会ったのに、一人死んだからって俺が泣かなきゃなんねぇのか? 生かせないなら金でも챙겨야지(手に入れなきゃな)。」
「やっと俺の知ってるユジンに戻ったな。歓迎するぜ。」
タノス・ヘブンは死が蔓延る場所。
俺もここで生まれ育った住民だ。
ここで彼と揉めたら危険だということくらいは分かっている。
鱗を無理やり袋に詰め込んだ俺たちは、それぞれ一つずつ背負って来た道を戻るために動き出した。
無言で歩いていると入口に着いた。
ところが待っている人が一人もいなかった。
「他の連中は先に出たみたいだな。」
「そうだな。ジョシュのことは大丈夫なんだよな?」
俺が外に出て別のことを言うんじゃないかと不安だったのか、再び聞いてきた。
「何かあったか?」
ニヤリ。
俺は扉の前に近づいてインプを呼んだ。
ドン、ドン。
「戻ったぞ。開けてくれ。」
「なんだ? 遅かったな。キキッ、他の連中は俺が先に帰したぜ。」
「俺が行った所は変種スライムが多かったんだ。」
「精一杯働いたなら少し休まなきゃな。」
なんだ?
生前しなかった心配なんて?
「そうするつもりだ。」
「お前と一緒に行った連中は?」
「ここに一人いる。」
「そうか? キキッ……」
陰湿な笑い声が中まで聞こえてきた。
「外から開けてやらないと開かないってこと……知ってるよな? 俺が気をつけろと忠告しなかったか?」
「……インプらしくない冗談も恐ろしく言うもんだな。」
「キキッ……次に来る時、それまでお前は生きてるかな?」
奴の言葉を聞いていると。
単なる冗談じゃないことが分かった。
どうりで仕事の前から因縁をつけてくると思ったら。
俺は扉を壊す勢いで強く叩いた。
バン、バン。
「おいこら! 俺が戻らなきゃ所長が黙ってないぞ?」
「知ったことか。人間一匹死んだだけだ。もう一人いるだろ? お前が誰か知らんが、ユジンを殺せば出してやるぞ。」
外から聞こえてくるインプの言葉に、俺は荷物を放り出してすぐさま扉から離れた。
ハンスの顔はいつになく冷たかった。
「あいつの言うことを信じるわけじゃないよな?」
「お前の言う通り信用できない奴だからな。」
ハンスが袋を下ろした。
短剣をいじりながら近づいてくる姿に、俺は少しずつ後ずさりした。
だが遠ざかった分だけ距離を詰めてきた。
「すぐ開けてくれるかもしれないだろ。ちょっと待ってみたらどうだ?」
「俺もそうしたいが、ここを見ろ。」
服をめくってシートを見せるが、真っ黒だ。
予備の浄化フィルターに変えたはずなのに黒いのを見ると、とっくに限界が来ていたようだ。
「マヌケなジョシュのせいで一人で仕事したから、もう持たねぇ。一人は生き残らなきゃならないだろ?」
その言葉が合図だったのか、ハンスが近づいてきた。
その姿に俺は唯一の武器である電気棒を持って前に突き出した。
喧嘩の経験が少なくて俺が不利かもしれないが、武器のリーチを考慮すれば俺にも勝算はある。
バチバチッ。
棒の先から出る火花を見て心を落ち着かせた。
「これまでの情を考えて、苦しまずに送ってやるよ。」
俺は距離を測って、今だと思って接近するハンスに武器を突き出した。
しかしハンスは俺の攻撃を避けて懐に潜り込んだ。
ドン。
「ぐっ。」
俺は短剣を握っていたハンスの腕を掴んだが、体をぶつけてくる衝撃に持っていた武器を取り落とした。
俺が倒れた隙に。
ハンスが俺の上に乗りかかって体を押さえつけ。
足を使って俺の上半身をがっちりと固定した。
すべてが瞬く間に起きた出来事。
体を捻ってみたが抜け出せなかった。
「おい! これは違うだろ! お前一人で出たらあれを持って行けるとでも思うのか?」
「あばよ。」
腕の力が抜けるほど短剣との距離がどんどん近くなる。
このままでは何もできずにやられるだけだ。
その時、頭の中に声が響いてきた。
「我はカール・アイリアン。力が欲しいか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます