第48話 ヘドロの竜(2)
少女の手から抜け出したスライムは、雨粒のように落ち。
水切りのように水面に当たって跳ねて、海面に着地した。
テケ。
場違い極まりないその落下物の頭上に、光の槍が生じる。
魔力で出来た槍のようだ。
スライムとは思えぬ魔力だが、長さはせいぜい五〇センチ。
当たったところで竜のスキュラに効き目はないだろう。
と、思ったが、それはどんどん大きくなっていく。
テケテケテケテケテケテケテケテケ……。
倍の大きさ。
更にその倍の大きさ。
その倍。
それは見る間に体積と密度を増していく。
どこかの幽霊が見たら<ドリルを生やすな>と呟いていた場面である。
おかしいと悟ったのだろう。
竜のスキュラたちは、スライムめがけて触手を放ち、さらには水竜の口から衝撃波を放ってスライムを潰しにかかる。
しかし、
テケ! テケ! テケ! テケ!
謎のスライムはヘドロ竜の尻尾をかわした時よりもさらにすばやくポンポンヒラリと猛攻をかわしたあげく、繰り出された触手の一本の上を跳ね渡って竜のスキュラの真上へと跳ね上がる。
テーケェェェェー……。
溜めを作るように、
そして、
テケーッ!
ギィィィンッ!
高い音と共に放たれた
水竜の背骨部分をごっそりとえぐりとる形で抜けて、下半身の触手塊を破壊する。
竜のスキュラがぐらりと崩れ落ち、水しぶきを上げた。
スライムの寸法からすると異様な破壊力だが、致命傷ではなかったようだ。
体を痙攣させながらも、竜のスキュラはまだ動こうとする。
他の三匹の竜のスキュラも健在だ。
だが、そこに。
別口の光の槍、火球、電撃などが八方から襲いかかった。
――な。
目を点にするヘドロの竜。
テケテケ!
テケテケ!
テケテケテケテケ!
水平線の向こうから、そんな声が聞こえてきた。
――まさか。
あのスライムの声と同じ声だが、多方向から、複数聞こえてくる。
愕然とするヘドロの竜のもとに、それは、群をなして現れた。
総勢一〇八匹にも及ぶ、やたらに士気の高いスライムの群。
テケテケ-!
テケー! テケー!
波の上を滑るように走ったり、波そのものに乗ったり、水中を泳いだりしてやってきたスライム達は、稲妻や焔を放ち、あるいは光の槍などをはなって竜のスキュラ達を攻撃していく。
とにかく数が多く、手数が多い。飽和攻撃を浴びせられた竜のスキュラたちは瞬く間にずたずたになって崩れ落ち、あるいは深海へと逃れていった。
テケテケー。
テケーテケー。
勝利の雄たけびのような声をあげ、飛び跳ねるスライムたち。
ヘドロ竜同様、空中であっけにとられていた少女が降りてくる。
「聖竜様」
「それ以上近づくな」
まだ酸と毒が漂っている。
「御怪我は、ありませんか?」
距離を取ったまま、少女はヘドロの竜の身を案じた。
「ねぇが……」
頭の近くをちょろちょろしているスライムを目で追いかけつつ呟く。
「なんなんだこいつら」
そこからどうにか身を起こすと、スライム達が目の前にやってきた。
ヘドロの竜の毒と酸は、このスライム達には関係ないようだ。
テケテケ、テケー。
「何を言ってやがる」
「ついてこいといっているのでは? 自信はありませんが」
少女の言葉に、スライム達は水面上でぽんぽんぱしゃぱちゃと跳ねた。
「それっぽいな」
自信は全く持てないが。
「どうする?」
「行ってみてもよいと思います。もしかすると、助けになってもらえるかも知れません」
「……そうだな」
少女を保護してくれる可能性はありそうだ。
行ってみる価値はあるだろう。
テケー。
話がついたとわかったようだ。
スライム達は、ヘドロの竜と少女を先導して動き出す。
そうしてヘドロの竜は、『闇の賢者』ルルスファルドの島に向かったのだった。
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