第22話 副僧院長ベリス(2)
――やっぱり、一皮剥けちゃってるわね。
神技とうたわれる突きや払いを、精妙な身のこなしでさばいていく少年僧を見据え『天槍』のベリスは心中で呟いた。
初めて指導をしたときから、リィフは異常なまでの目とカンの良さを持っていた。
他の僧侶達では身動き一つ取れないベリスの槍技を、自然に目で見て反応してくる。
あるいは、動きを読んで反応してくる。
だが、良いのは目とカンまでで、身体が追いついていない。結局はベリスの手中ではあったのだが、手のひらの上で踊っているだけというのではなく、何かの弾みでひょいと飛び出して行ってしまうのではないか、そう思わせるものがあった。
面白いとも、小憎らしいとも感じた。
押し倒して、泣かせてみたいとも。
一番強いのは最後の感情だったが、ベリスにはある種の嗜虐趣味がある。
精神的に打ちのめし、心を折った相手にしか興奮しない。
なので、リィフの心も折ろうとしたのだが、これが上手くいかなかった。
なんど叩きのめしても、折れる気配がない。
一定の畏敬の念、男色家としての悪名を恐れる気配は感じられたが、それだけである。
心の底から屈服する気配は、全く感じられなかった。
心が折れる前に体力がなくなって気絶してしまうというのが大きいが、普通なら何度も気絶させられれば折れるものだろう。
気弱そうに見せて、心胆は恐ろしく図太い。
ある意味、この立ち会いが最後のチャンスとも言えたが、今回もダメかも知れない。
――完全に、見切られてるわね。
殺さない程度の加減はしているが、スピードについては、既にトップスピードに乗せていた。
今のリィフは、それに追従してくる。
間合いを取り直し、ベリスは再度リィフの目を見る。
緊張の色は見えるが、清澄な目だった。
――本当に、綺麗。
最初に尼僧院に放り込まれていたのが良かったのか、怒号と暴力が渦巻く僧院暮らしの中にあって、怖いほど屈折の色がない。
男色僧侶のベリスは最初から論外。
僧院長のノインも金と権力の亡者。
その息子であるシンも、権威と力に酔っている。
他の僧侶も五十歩百歩。
下に居れば上にへつらい、上に立てば思い上がる。そんな者ばかりだ。
そんな者しか育てられないのが、このマイス僧院だった。
「全力で行くわ」
ベリスは微笑んで言った。
「貴方も全力で来なさい。その紋章も使っていいわ」
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