第8話 帰還

――時は少し遡りオラディ村


夜空に星が満たされた静かな夜。


村人達はそれぞれの一日を終え、眠りにつき、外には人は居なかった。

 

「日中の豪雨が嘘みたいだな。」


「そうだな…。」


オラディ村の高台にある物見櫓で周囲を監視する隊員が話をしていた。


物見櫓は東西南北に設置され、二人の見張りが監視についていた。

 

この櫓からは村全体を見渡す事ができ、ペールデニーズ、そしてコール大陸に聳え立つラヴィエルも見る事ができ、空気が透き通った寒期には各大陸に聳え立つラヴィエルも微かだが見える程である。


剣撃隊、守備隊、弓撃隊がローテーションで朝、日中、夜と一日を通して見張りをすることになっており、今は依頼に参加しなかった剣撃隊の余りの人間が見張りをしていた。


「そういえば、フィオルは今日が初依頼だろ?大丈夫かな?」


「ふふ…。大丈夫だろう。副隊長が10人で戦力は足りるって言っていたし、フィオルはとんでもなく強くなってる。」


獣20体程の依頼。

 

その程度であればその半分の数で足りるとジールは剣撃隊の会議で話し、村を経ったのだった。


「隊長は全然帰ってこないし、まぁ帰ってきた所で何も起きないが…。今日は訓練もない。周囲の森の巡回だけ…。暇だったなあ…。」


「そうだな…。見張りが終わったら少し呑まないか?」


「お、いいなそれ!行こうか!」


隊員達は依頼が無い時は訓練に時間を費やし、依頼に赴かない物は周囲の森等を巡回するという日課。


そんなたわいの無い話しをしていたその時…。


「ん?なんだあれは?」

 

ペールデニーズの奥地の樹が大きく揺れているのを発見し、指を差す。


「ん?どれどれ…」


望遠鏡で覗くと、小さいが翼を動かす生物が見えた。


「小さくて見にくいが、鳥?ではなさそうだな…。」


「じゃあ何だよ。」


「暗くてよく見えない…。少し注意しておこう。」


その翼を動かす生物は空から森へと沈む様にゆっくりと降りて行った。


「くそう。見えなくなった。何だったんだろうか。」


「鳥じゃ無いならもしかしたら……竜種か?」

 

「そんな訳ないだろ。ペールデニーズではそんな目撃例は一度もないぞ。」


「それもそうか。」


「ハハハ。」


隊員達は少しふざけながら、そして笑いながら話していた。


「しかし、この間のアルゲン大陸遠征の時のノワルヴェールの指揮力には驚いたもんだ…。」


「弓撃隊に入ってからの成長が凄い…。見事な指揮を見せてくれたな!周りが良く見えてる…。おっ。」


しばらく談笑しながら見張りを続けていると再び翼を動かす生物が森から上がってきた。


そしてそれは、少しずつ村の方へ近づいている様にも見えた。


ゆっくりと前進し、だんだん姿が見える様になってくると、望遠鏡を覗く隊員がその姿をはっきりと確認する。


「おい…!竜だぞ!藍色の…竜だ!!」


「嘘だろ!?」


「でもスピードは早くない…。何かを追っているのか?」


飛んでいる生物が竜だとはっきりわかると隊員達は騒ぐ。


「ん?止まった…。キョロキョロし始めたぞ。」


「獲物でもいるのか?それとも、何かと戦っているのか?」


じーっと望遠鏡を覗く隊員。

 

そして次の瞬間、火球を森に放つのが見え、望遠鏡を覗く目を離す。


「「うおお…!」」


「見えたか!?」


「ああ、肉眼でもはっきり見えたぞ!」

 

望遠鏡を覗いていない隊員にも火球は見え、驚きの声を上げた。


次第に樹に火が付き樹々が燃え始める。



「お主ら!どうしたんじゃ!うるさくて眠れないではないか!」


物見櫓の騒ぎの声に気づいたのかブルクが声を掛ける。


「ブルク長老!竜種が…!ペールデニーズに現れました!樹々も燃えています!!」


「何じゃと?何故じゃ…。」


前例の無い出来事にブルクは眉を顰める。


「ですが、何かと戦っているのか…。こちらに直接向かってきている様子ではないのです。」


「そうじゃったか。日中の豪雨…。何かトラブルがあってジール達が対峙している様な事にならんと良いが…。少し様子を見るのじゃ。」


「「はい!」」

 

依頼に向かった剣撃隊が最悪なケースに巻き込まれていない事を願うブルク。


そして、遠くに見える竜は森に降りていき、再び姿が見えなくなる。


「獲物だったらすぐに仕留めて飛び立つはずだ…。ブルク長老!火がどんどん広がっています。やはり、何かと戦っているようです!どうしましょう。」


「守護隊と弓撃隊を起こし、近くに向かわせる。火も止めねばこの村も危うくなる…。」


「「わかりました!」」


そして、一人を櫓に残し、もう一人の隊員は村中を駆け回った。



物見櫓の下に続々と集まり始める隊員達。

 

見張りは竜がいる方向の様子を逐一報告する。


「何だ何だ…。こんな時間に竜種出現だと?」「ペールデニーズに現れたらしいぞ。」


集まった隊員達は竜種の出現に騒がしくなっていた。


「静かにせい!夜中じゃ。村人を混乱させたくない…。」


ブルクの一言でその場は静まり返る。


「ペールデニーズの奥地に藍色の竜が現れた…。竜は火球を放ち、樹々が燃え広がってしまった。これ以上燃え広がると、この村にも被害が及ぶ危険もある。この村に直接向かってきてる訳ではなく、何かと戦っておるみたいじゃ。直ぐに村を出発し、状況を確認したい。」


現在の状況を冷静に隊員達に伝えるブルク。


「さすが元ソウルガーディアンズ総隊長…。冷静だな。こっちはこれから竜種と……」


「対峙するかもしれないのに…。じゃな?」


隊員がボソッと喋る言葉を読み取るブルク。


隊員達の背筋がピンと伸びる。


「日中の突然の豪雨…。何かしら理由があり、依頼に出た剣撃隊が今戦ってると最悪は考えておる。少し胸騒ぎがしての。一刻も早く駆け付けて欲しいのじゃ。」


「「はっ!」」


声を揃え返事をした隊員達。


その時、竜のいた方向から白い光が一瞬見え、その周囲を照らした。


「何だあれは!?」


上に居る見張りの声に隊員達は上を向いた。


「ブルク長老!一瞬ですが白い光が!」


次の瞬間、咆哮が聞こえ藍色の竜が上空に飛び出し去って行くのが見えた。


「今の聞こえたか?」「ああ。」


その咆哮は村まで聞こえざわつく。


「竜は…藍色の竜は去りました!凄いスピードでさらに奥へと飛んでいきました!尾が切れていた様な…。」


「何者かが退けたというのか?」


目を丸くし返すブルク。


「わかりませんが、そのようですね…。」


「「おおお。」」


集まった隊員達は驚きの声を漏らす。


「じゃが、退いたとしてもその正体がわからんな。剣撃隊なら恐らく怪我人が出ておるはず…。皆、向かってきてくれ。」


「ですがブルク長老…。向かうのは待った方が良いかもしれません…。とてつもなく大きな雷雲が…。」


竜が飛び立った先に巨大な黒い雲が稲光をちらつかせながら村の方へ向かって来るのが見え、指を差す。


「雷はまずいのう…。また豪雨になりそうじゃの。樹々の火ももしかしたら消えるかもしれん。皆、集まってくれたが少し様子を見る事にする…。対峙していた物が剣撃隊で無い事を祈るしか無い…。ひとまず帰って待機じゃ。」


そう告げると隊員達はそれぞれ家に帰っていった。


「櫓も雷は危険じゃ。一度帰り、依頼から帰ってくる剣撃隊を待とう。」


「「わかりました。」」


ブルクはその場に残り、見張りの隊員を残し、集まった隊員達はそれぞれ家に帰るのだった。


(ジール、そしてフィオルよ。どうか無事であってくれ…。)


暗い雲が広がっていく空を見上げながらブルクは願った。


――ペールデニーズ


竜を退き、馬に乗り森を進むフィオルとアイベル。


「アイベル。君のあの力で俺は生きてる…。無事でいてくれ。しかし何だったんだろうなあの力は…。でも…ジール副隊長、皆さん。倒せはしなかったけどなんとかやれました…。」


竜との戦いを空を見上げて報告する。


アイベルはまだ気を失っていて寝ている様に動かないままだった。


空を見上げたフィオルは稲光に気づく。


「雷。この樹の下は危ないのか…。くそぅ、とにかく進むしか無い…!急ぐか…!」



その言葉とは裏腹に、竜との戦いの中でアイベルの力で傷は癒えてはいたが、身体には疲労が溜まり悲鳴を上げるほどで、次から次に訪れる難に疲れ切っているフィオル。


 

そこからのフィオルは自分の行動にあまり記憶が無いと言う。



――二日後 オラディ村


雷雨が滝の様に一日以上の時間降り続き、激しい雨で森の炎は鎮火し、雨が止んだその日の夜中には満天の星空が広がっていた。


竜種が飛び去り、雷雨が向かってきてからブルク含む、あの夜集まった隊員達は依頼に向かった剣撃隊が帰って来ず、やはり竜種と対峙したのかとソワソワしながら過ごしていた。


特に当時から兄の様な存在でフィオルに接していたデュールとノワルヴェールはかなり心配していた。


二人は自分達の職務を終えると何度も物見櫓に登り、森を眺め剣撃隊の帰りを待っていた。


そしてこの日も職務を終え、物見櫓で見張りをしていた二人。


夜明けが近づき、村周辺の山の頂上に陽が差し、薄らと明るくなってきた頃。

 

「あれは…?」


デュールがペールデニーズ方面の森から、村に向かってくる馬に乗った人影を見つける。


「剣撃隊か?」


「確認してくる!見ていてくれ!」


ノワルヴェールを櫓に残し、デュールは物凄い勢いで櫓を降り、駆け足で馬に向かった。


 

「フィオル…!」


その声はこだまのように響き、遠くで見ていたノワルヴェールにも聞こえ、櫓の見張りを放棄し、走って向かった。


「デュー…ルさん。ノワ…ルヴェールさん。この子を…。」


「フィオル大丈夫か!?」


フィオルの身体は傷つき、あらゆる所に血痕があり、ぐったりとしていた。


アイベルはフィオルと紐で繋がられ、未だ起きていないが確認出来たのは身体に擦り傷が一つあるだけだった。


二人を乗せる馬にも擦り傷が多数見受けられ、馬はその場でしゃがむとデュールとノワルヴェールで二人を降ろし、抱き抱えた。


そして馬はフィオルとアイベルに頬を擦り付けながら、悲しげな表情を浮かべ鳴いた。


「すぐに治療を……!」


「ああ!」


デュールとノワルヴェールは馬を櫓に括り、二人を抱き抱え村唯一の療養施設へと全速力で走った。

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