第3話
目を開けると、白い。
ここはどこだろうか。
しばらく波打つ白い天井を見つめてから、蛸子はヤツらに狩られたのを思い出した。
息はできる。…生きてる?
蛸子は体を起こした。
蛸子目の前には見たことの無い景色だった。
…研究室。
全体的に白っぽい部屋に、大量の書類、書類、書類。
その書類の間の小さい空間には、いろんな道具が散乱していた。
ここの人は片付けができないようだ。
蛸子の目の前には、タブレットがあった。
あっ、と蛸子が手に取ろうとした時、蛸子は自分が透明の壁で覆われていることに気づく。
触ると確かにあるのに、見えない。
蛸子は水槽に入っていた。
車一つ入る倉庫の広さ…巨大な水槽だ。
ガチャッ
誰かが部屋へやってくる。
蛸子に足音は聞こえなかったが、ドアが開いたのが見えた。
蛸子は非常に警戒した。
それから姿勢を低くして、なるべく白くなろうとした。
しかし、やってきた人間に対しては無駄だった。
一直線にこちらへ向かうと、水槽の前に座った。
「ħ^*ięhya páqüe !!!」
その人間は、聞いたこともない音で小さく鳴ると、目の前のタブレットを掴んだ。
蛸子は、その人間を睨んだ。
しばらく人間はタブレットをいじり、蛸子の方へ目をやる。
「YAH ,KO NI CHI WA」
突然蛸子の知っている言葉が出てきた。
こんにちは…、挨拶したのか?
人間の言葉に動揺しつつも、蛸子は目の前のそれを睨み続けた。
「HA JI ME MA SHI TE 」
再び人間が鳴る。
おそらくコミュニケーションを取ろうとしている、ということは蛸子も察してきた。
しかし、蛸子は警戒している。
「何者だっ!お前!」
蛸子は人間に向かって言った。
しかし、相手はキョトンとしている。
話すのが早すぎたか、そもそも水槽越しには聞き取れなかったか。
目の前の人間は何か思いついたようで、突然後ろを向くと水槽から離れた。
そのまま、床に散乱しているゴミを避けながら部屋の外まで歩いた。
…どこいった?
…あ、帰ってきた。
人間は何やら黒い道具を持ってきたようだ。
黒い物…マイク…を水槽に投げ込む。
「何コレ…」
蛸子は目の前に投げ込まれたマイクから離れた。
なんだこの気持ち悪いものは…という顔でマイクを睨みつけた。
人間はタブレットをまたいじっていた。
「HA NA SU KO TO WA NA I ?」
「無い!
ここから出せ!」
親切な人風に話す人間に、蛸子は少しイラついていた。
「渡里を返せ!
私の集落を返せ!」
水槽のマイクは良く音を拾いすぎたらしく、蛸子の叫び声が、人間の耳を攻撃した。
耳を押さえてうずくまっている。
しかし、すぐに人間はタブレットをいじり始めた。
どんだけその板が好きなんだ。
数分、慌てるようにしてタブレットを触った後、人間は悲しそうな顔をした。
そして静かに、蛸子を見る。
「WA TA SHI WA ,A NA TA WO TA SU KE NI KI MA SHI TA 」
…助けにきた?
蛸子は、水槽の奥で丸まっている。
髪色は部屋の色に合わせて白くなったままだ。
「KE N KYŪ NI KYŌ RYO KU SHI TE KU RE RU KA ?」
けんきゅー…?
「私は、お前らとは協力しないぞ!
ケンキューともだ!」
人間との会話はタブレットによる翻訳を介して行われたので、テンポが悪かった。
「NA KA MA WO TA SU KE MA SYŌ」
…仲間を助けるって?
蛸子は人間の言うことを聞いた。
…どうやらヤツは、〈仲間助け〉をこちらに提案しているようだ。
相変わらずケンキューの意味は蛸子にわからなかったが、目の前の人間がこちらに敵意がないなら協力してもいいかもしれないと思った。
人間側の言葉は、会話するうちに明瞭になった。
「我々ハ、アナタガタ海洋ノ亜人ヲタスケタイト思ッテイマス。
協力シテホシイノデス。」
「そんなこと言って、だますつもりじゃないのか?
なんてったって、貴様らの狩りの手口は最悪だからな!」
蛸子は、親切過ぎる人間に違和感を感じた。
もしかして、コレも何かしらの罠では…
自分を捕まえるような奴が、自分達の仲間を助けたいと思うのか?
「ワカリマシタ。
デモ、コレダケ渡シテオキマス。」
人間はそう言うと、持っていたタブレットを差し出した。
しかし、コレが無いと話せないので今渡すようではない。
「ジツハ、コレヲ使ッテ亜人狩リノ居場所ヲ知ルコトガデキマス。
ドウカ、私ノ代ワリニコレヲ活用シテクダサイ。」
タブレットについての説明をしばらくした後もしばらく話が続いた。
内容は、半日前のことのお詫びだった。
最初は蛸子も何の事を言っているかわからなかったが、蛸子の集落が襲われた事についてだとわかった。
…私のせいで、酷いことになった。
集落が襲われる前、蛸子の前に現れた小船は、この人間だったようだ。
あの船はおとりではなく、狩人を追い払おうとでもしていたのかもしれない。
一通り、タブレットについての説明をした後、人間はタブレットを水槽に入れた。
タブレットは、水中でゆらゆらしながらコンッと軽く底へと着地をした。
蛸子は、あの時の戦犯を睨んでいたが、内心は困惑していた。
完全な悪意があっての行動でなかったからだ。
「協力デキナイノナラ、強要ハシマセン。」
その一言から、人間は何か準備を始めた。
蛸子は、タブレットと一緒に近くの海に返されることになったのだ。
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