蛸の人の亜人研究
グルタミンちゃん
第1話
夜。
海底は今日も穏やか。
蛸子(『タコ』。"子"は黙字)は、水に髪をなびかせながら水面を見上げていた。
夜でも、遠くの陸から発される光で、海底は明るかった。
敵の襲撃は無し。
今日も平和。
蛸子ら海洋亜人は、海で暮らす人種だ。
人なのにエラ呼吸。
つまり陸には出られない。
蛸子は、自作の弓と矢を持ってしばらく、集落の周りを歩いた。
弓に埋め込まれた小さな宝石は、水中で矢を飛ばせるよう魔法をかけるためのものだ。
この世界には、そういった宝石:いわゆる魔石、がある。
蛸子は器用なので、魔石を使って武器を自作するのだ。
「蛸子ちゃん!
見てこれ!
海藻に引っかかってたんだ!」
遠くから誰かが叫びながらやってくる。
泳いでいるのか、走っているのかわからないがやってくる。
渡里(ワタリ)だ。
髪の毛がうっすら青色に輝く。
しかし、蛸子には色がわからないので人の判別は桿体細胞に頼るしかない。
…色盲なだけで目は良いため、人の判別に困ることはなかった。
「渡里ちゃん!
どうした?」
「見てよこれ、拾ったんだ!
魔石だと思う」
蛸子は、魔石にチョンと触れた。
確かに、コレは魔石っぽい。
「残念。
コレはただのガラスだね。
シーグラスってやつ。」
「えー!まじか…」
渡里は残念そうにした。
「残念…。
今度こそ、蛸子ちゃんに武器作って貰えると思ったのに。」
「えへへ、また今度ね」
そろそろ、夜が明けてくる。
見回り交代時間もすぐだろう。
ふと、遠くで不自然な灯りを見つけた。
あれ、もしかして。
襲撃?
「渡里ちゃん、離れてて」
そう言うと、蛸子は明かりのある方へ走って行った。
…当たり。
明かりの正体はヤツらだった。
ヤツらの正体は人間だが、蛸子たちは知らない。
たまに、食用として海洋亜人を狩りにくるのだ。
障害物の多い、比較的浅い海では視界が悪い。
岩陰に隠れていれば、なかなか見つけられることはない。
蛸子は岩に手で色を確認するように触れると、自らの髪色を岩にした。
…擬態というものだ。
それから、岩陰からじっと水面の光を見る。
弓を構えた。
シュッ
一発飛ばして、また様子を伺う。
光は点滅し、それから消えてしまった。
あれ、光源に当ててしまったか。
よろしくないことに、光が消えてしまったら敵の居場所がわからない。
夜明けとはいえ、まだ暗いのでヤツらの影を水面から見つけ出すのはかなり困難だ。
蛸子は岩陰から、ヤツらの影を探した。
あ、いた。
意外にもあっさり見つかったその影はかなり遠くにあった。
逃げているのか、かなりのスピードで離れていく。
よし、勝った。
蛸子は影の跡を少し追いかけてみたが、追いつけない。
追いかけてまで倒す必要はないと判断して、蛸子は帰ることにした。
蛸子が振り返って一歩踏み出した時、足元が光った。
蛸子は一瞬敵かと思ったが、そうではない。
一枚の黒い板が地面に落ちていたのだ。
板の片面は不思議なことに触ると光る。
もう一回触ると、変な模様が現れる。
画面には、四角い点がいくつか現れた。
蛸子は、好奇心からそのタブレットをいじり始める。
もちろん蛸子はタブレット端末など知らない。
手探りで、蛸子はその板を調べていた。
「これ、渡里に見せたらどんな反応するかな」
蛸子は、考えてみた。
それから蛸子は一直線、集落まで泳いだ。
「家、この辺りだよね?」
蛸子は戻ったが、家を見つけることが出来なかった。
「うわっ」
蛸子は何かにつまづいた。
削られた岩が砂から覗かせていた。
…コレは家への入り口ではないか。
蛸子は、その岩の周りを掘った。
…家が崩れている。
砂の下から、元々壁だった岩が出てきた。
蛸子たちの家は元々地下にあったが、どれも完全に崩れている。
「え、どうして…」
蛸子は、しばらく集落だったところを歩いた。
砂の上に、シーグラスを見つけた時はどうにかなりそうになった。
蛸子は青いシーグラスを手に取ると、渡里のことを考えた。
「武器、作ってあげていたら…」
蛸子はしばらく、集落跡地を離れなかった。
あれはおとりだったのかもしれない。
蛸子が光るヤツらを追いかけている間、集落に戦えるものはいなかった。
蛸子がヤツらを追いかけている間、拾ったヤツらの黒い板に夢中になっている間に皆んな消えたのだ。
蛸子はもう何もできなかった。
ただ一人、潰れた家の上に座っていた。
『ビービー』
突然タブレットが鳴る。
蛸子は、タブレットに目をやった。
タブレットの上に影が落ちる。
「…来た」
蛸子は見上げた。
狩に来たヤツらどもか…。
蛸子は、座ったまま船の陰を見つめていた。
蛸子は逃げようとしなかった。
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