第27章:文化祭の幕開け

夏が少しずつ移り変わり始めた。家の中で、イズミは手引のノートを握っていた。開いたばかりのページは、単純な文字の羅列で埋められている:「夏祭りはとてもにぎやかだった。ナツメのキーホルダーは買い替えた。明日から学校が始まる。」


ドアを開けると、家前の小道には、すでに慣れ親しんだ三人の姿があった。彼らが誰なのか、改めて尋ねる必要はなかった。

「イズミ!」イシダが大きく手を振り、お馴染みのくつろいだ笑顔を見せる。

カナさんがそっとイシダの横腹を小突く。「おい、朝から彼を怖がらせないでよ」

ナツメは少しだけ近づき、優しい眼差しでイズミを待つ。白銀の髪が朝の光にきらめいている。「 …おはよう、イズミ。 」

イズミはうなずく。「おはよう」


四人は一緒に歩き始めた。学校への道の雰囲気は違っていた――休み明けの生徒たちで賑わっている。

「って言うか、一番楽しかった夏の思い出って、明らかに昨日だよな?」イシダが仲間たちを振り返る。

カナさんは、バッグにぶら下がった新しいキーホルダー――紫色の本の形――を揺らす。「そしてキーホルダーのことも忘れないで!これで私たち正式にチームよ」

ナツメは自分のキーホルダー――明るいオレンジ色の小さなアクリルの弓――を見つめる。指先でそっとつまむ。「 …うん…今度は、無くさないようにする。 」

イズミは自分の赤い剣の形のキーホルダーを見つめる。ただ、鞄の紐をしっかり握りしめるだけだった。


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その朝、二年A組はいつもよりにぎやかだった。イズミはイシダと一緒に入室した。ドアをくぐると同時に、その喧騒が一層耳に響いた。

間もなく、女生徒数人が近づいてきた。そのうちの一人が、ためらいがちに口を開く。「えっと…イズミくん…昨日、夏祭りで…一年生の女の子と一緒にいるのを見たんだけど…その子、彼女なの?」

イズミは黙る。その言葉――彼女――は彼にとって馴染みがなかった。

気まずい沈黙が流れ始めた時、前方でイシダが小さくくすくす笑った。「はあ?彼女?誤解しないでよ。彼女じゃないよ。でも…」彼は一瞬間を置き、イズミをちらりと見て、「…まあ、ただの友達ってわけでもないけどな」

女生徒たちは顔を見合わせる。「え…どういうこと、イシダくん?」

イシダは肩をすくめる。「だって、イズミがどんな奴か知ってるだろ?彼が誰かと近しくなる時は、きっと理由があるんだよ」

空気は一気に新しい囁きでざわめく。イズミはただ少しうつむき、指が無意識に鞄の長い剣のキーホルダーを探る。

一方、イシダは相変わらずくつろいだ笑みを保っている。「もういいよ、自分たちで盛り上がらないで。いつかイズミ自身が選ぶかもしれないしさ」


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放課後、古典文芸部の部室はいつもより活気づいていた。カナさんが様々なスナックを持って意気揚々とやってきた。

イズミは自分の席に座る。ナツメは机の向かいに静かに座っている。

昼からもやもやを抱えていたイズミが、ついに顔を上げ、まっすぐナツメを見つめる。「ナツメ。彼女…って何?」

一瞬、陽気だった空気が止まる。カナさんは凍りつき、イシダはむせ、ナツメはすぐに顔を赤らめ、目を驚いて見開く。

「彼、彼女って…」ナツメは深くうつむき、声が震え、かすかでほとんど聞き取れない。「 …ただ一緒にいるだけじゃなくて…お互いを守り合って、理解し合うこと… 」

イズミは真剣な目でそれを聞き、まるでその言葉の意味を直接脳に書き写そうとするかのようだ。

「あはは…もう、重い話題だな!」カナさんが叫び、すぐに立ち上がる。「でも、そんなこと悩んでるより…もっと差し迫ったことあるでしょ?」

彼女は鞄から文化祭のポスターを取り出し、机の上に広げる。「文化祭!私たちの部も出ないと、よね?でもまだ何をやるか決まってないわ」


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文化祭のチラシが机の上に広げられる。イシダが片手でそれを拾い上げる。「え、まだ時間あるじゃん?シンプルなアイデアでいいよ。例えば、くつろぎの読書コーナーとか」

カナさんがすぐに机をポンと叩く。「それじゃ全然魅力的じゃない!すごいアイデアを考えなきゃ!」

「よせよせ、部長、そんなに慌てるなよ」イシダはくすくす笑いながら返す。

カナさんが目を細める。「うるさい?!」一瞬で彼女はイシダに近づき、彼の手首をはさむ。「手伝わなかったら、明日からここでお菓子食べるの禁止だからね!」

それを見ていたイズミはただ黙っているしかなく、目を見開き、こんなに賑やかなやり取りに慣れていない。

はさんで満足した後、カナさんは再び座る。「とにかく、すごいアイデアを考えないと」

イシダはまだ赤い頬をこする。「はいはい、わかったよ」素早い動きでスマホを取り出す。「まだ時間あるし、ついでにマルチやろうぜ。新イベント出たぞ」

カナさんの目がすぐにそのスマホを追う。不満そうな表情はまだ消えていないが、明らかに熱意のきらめきがある。「え…新イベント?」

イズミがそれを見て、無表情だが混乱している。「マルチ…?」

カナさんが慌てて振り返る。「あ、イズミ、あなたもアカウント持ってるでしょ。私たちもうチーム組んだんだから」彼女は自分の本のキーホルダーを揺らす。「一緒に遊ぶと、なんか…本当に一つのグループみたいな感じがするの」

イズミは黙り、それからうなずく。「僕も…やる」

ナツメもうなずく。「 …みんなとなら…私もやる。 」


小さな笑い声がその午後の部室を満たす。ゲームの戦いが終わったばかりだった。

イシダが大きくあくびをする。「はあ…やばい、さっきのボスけっこう強かったな」

カナさんがくすくす笑う。「それはあなたがスキルを適当に押しすぎたからよ。ナツメがとどめを刺さなかったら、もう全滅だったわ」

ナツメがうつむく。「 …私…たまたまキャラの位置が良かっただけ… 」

イズミは三人の友達を見つめ、それから短く、しかし力強く言う。「たまたまじゃない。ナツメがうまくやったんだ」

その言葉にナツメは黙り込み、慌ててさらに深くうつむき、顔をますます赤らめる。


四人が一緒に帰路につく時、イシダが突然言う。「気づいた?もし文化祭がチームゲーム対抗戦だったら…うちの部間違いなく優勝だよな」

カナさんは小さく笑う。「ははは、そうかもね」

しかしその笑いが収まると、カナさんは突然うつむく。彼女の顔の笑みが次第に薄れる。「 …でも残念ながら…現実はそんなに単純じゃないんだよね。 」

彼らの足取りも遅くなる。


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その夜、イズミの部屋は静かだ。スマホが鳴り、画面に「文化祭 – 古典文芸部」グループの通知が光る。


カナ (19:50)

ねえ…文化祭の出し物、アイデア浮かんだ。さっきのイシダの話で思いついたんだけど…私たち、ファンタジー風のショートストーリー書いてみない?私たちのゲームからもインスパイアされた感じで。登場人物は私たちみたいな…でもファンタジー世界で。


ナツメ (19:54)

 ショートストーリー…みんなで一緒に書くってこと?


カナ (19:55)

そう!だから書くだけじゃなくて、文芸部としての私たちの反映みたいなものにもなる。


イシダ (19:56)

ほおー、ミニ小説みたいな感じか?かっこいいじゃん。


イズミは長い間その会話を見つめる。指が震えながら画面に触れる。


イズミ (19:59)

 もし…みんなが賛成なら、僕も…やる。


ナツメ (20:01)

 …私も…賛成。


カナ (20:02)

やった!!よし、明日からもっと詳しく話し合おう!


イシダ (20:03)

ははは、よっしゃ部長。俺も流れに乗るよ。


イズミはスマホを閉じ、空白の手帳の横に置く。胸に何か温かいものが残っている――かすかながら。まるで静寂の中でゆっくりと灯り始めた小さな火のように。

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