第24話 約束

「ウル……」


【沼地の魔女族】領から滑空して1時間。ついに元灰狼族の領土にたどり着いた。



 しかし、そこに広がっていたのは地獄の跡。



 燃え尽き、剥き出しの骨子と角だけで構成された人家

 白骨化した灰狼族の戦士の遺体。

 踏まれ折れた草花。



 この地獄から命からがら逃げ切って、何とか誓いの丘に転がり込んだウルは今、どんな胸中なのだろう。想像するだけで胸が痛くて、私は黙ってウルを抱きしめた。


「ご主人……」


「えっと……」


 何と言えばいいのか分からなかった。


 この状況を作り出したのは人間。私の同族だから。自分勝手ながらに、どうかウルが私を嫌わないで。なんて思ってしまう自分に嫌気がさした。


 そんな私の手をウルが取った。


「……今はご主人がウルのすべてですよ」


「ウル……」


 ウルの顔はいつものウルの顔だった。それがなぜか余計に苦しくて、胸がキュッとなった。


 足が止まった私たちだけど、1人だけ足取り軽く前に出た。メルトだ。


「犬の旅情のために来たわけじゃない。さっさと温泉を持って帰る」


 厳しい言い方だけど、メルトなりの優しさだと思う。こんな故郷の光景を眼に焼き付ける必要はなく、未練なく楽園で楽しく過ごせ、というメッセージに聞こえた。


「犬と言うなです、馬鹿メルト」


 ウルの反論はいつになく弱々しく感じた。




 ウルの案内でたどり着いた温泉は、秘境というだけあってかなり高い山の中腹にあった。流石に人間軍もここまでは侵攻しなかったようで、秘境温泉は無傷だった。


「ねぇせっかくだし温泉入っていかない? ウチ沼地の匂いを落としたいんだけど」


 リンがギャルらしい理由で入泉を提案した。みんなウルに視線を配って、ウルは優しく「いいと思うのです」と答えた。


 というわけで……



「はぁ〜〜〜〜、これは極楽だわ……」


 1番に服を脱ぎ、体を清めて一直線に温泉に入った。


「た、躊躇いなく脱ぎます、ね? うぅぅ」


「ウィンディも入りなさいな。気持ちいいわよ」


「で、でも私……みなさんほど綺麗じゃないです、し」


「はぁ? ウィンディだって十分可愛いわよ」


「か、かわっ!?」


 ウィンディは温泉に入ってもいないのにのぼせたように真っ赤になった。


 まぁ、たぶん慣れればその内入ってくるでしょう。


「ラティーナ、背中流す」


「すっごい下心を感じるんだけど」


「ぎく」


 分かりやすいドラゴンめ。


「ねぇラティ、ウルのことだけど……」


「うん、リンも気がついたわよね」


 リンは人一倍、他人のことを気にする癖がある。だからウルの異変にも敏感に気がつけるのだろう。


 ウルはせっかく故郷の温泉に入れたのに、黙って虚空を見つめていた。あの元気なウルが……。


 やっぱり、故郷の惨劇を目の当たりにして辛いのね。


 ウルは年端もいかぬ少女だ。詳しい年齢は聞いてないけど、13歳・14歳くらいに見える。



 不意に隣からチャポン、と控えめな水音が聞こえてきた。


 視線をそっちに配ると、ついにウィンディが観念して脱いで温泉に入ったらしい。……あれ?


「なっ、なにぃ!?」


「ぴゃっ!? なな、な、なんです、か?」


 私はウィンディの体を見て絶叫した。


 まず落ち着いて確認だ。


 ウル……ちょいある

 メルト……ちょいある+

 リン……まぁまぁある。形綺麗。

 私……ほぼない。壁。



 そしてウィンディ……双丘が2つ! 誓いの丘はここにあったんだ(アホ)


「ウィンディ! 貴女そんな立派なもの隠し持っていたのね!」


「へ、へ? 何がです、か?」


「おー、ウィンディめっちゃ大きいじゃん。このこの〜」


「ぴゃゃゃ! リンさん、や、やめ〜!」


 リンったら大胆にもウィンディの胸を鷲掴みにしてしまった。


 なんか……いいなこの光景。私の嫁が私の嫁とイチャイチャしてる。てぇてぇ。酒飲めそう。


「むー……ウィンディ、侮れない」


「割と小さい目が集まってたけど、ついに大きい側が来たわね」


「油断した……」


 メルトはギリっと爪を噛んだ。どんだけ悔しいのよ。




 ……これだけ騒いでいてもウルは虚空を見つめていた。


「……よし、のぼせちゃいけないし上がりましょうか」


 私の言葉にみんな従って、すぐに温泉から上がっていった。


 そして私の魔法で温泉をキュッと小さくして、運びやすいサイズに圧縮した。これで温泉を源泉ごと移植できるはずだ。



「さぁ、そろそろ帰りましょうか。……リン、ちょっとウィンディとメルトをお願い」


「らじゃ! ラティもウルのこと、よろしくね」


「察しが良くて助かるわ」


 私は2人をリンに任せ、ぼーっと虚空を見つめるウルの元に駆け寄った。


「ねぇウル、少し散歩しない?」


「ご主人? 分かりました、いいですよ」


 私はウルの手を引いて、山道を少しずつ登って行った。


 ウルは何も語らず、でも手を繋いでいるのが嬉しいのか表情は朗らかだった。


「ウル、私からは灰狼族について何も言えないわ。何かを言う資格もない」


「ご主人……」


「でもね、」


 私はウルの手をぎゅっと強く握った。


「もう2度と、絶対ウルにこんな悲しい思いはさせないわ。誓いの国は誰1人死なせないし、滅びない。私が命に変えても絶対に守り抜いてみせるから」


 私がそう誓うと、ウルは我慢していた涙が決壊したように溢れ出てきた。


 そして私の胸に飛び込み、細い声で言葉を紡ぐ。


「約束……守って欲しいのです」


「絶対に守るわ」


「それから撤回して欲しいのです」


「撤回?」


「"命に変えても"。ウルはご主人が死ぬのが1番嫌なのです」


「ウル……そうね。撤回する。私も死なない。誰も死なない。毎日ハッピー。それが誓いの国よ」


「はい、はい!」


「今はたんと泣きなさいな。でも泣き終わったら貴女は灰狼族じゃなくて、誓いの国の一員よ。忘れないでね」


 ウルは私の胸の中でコクコクと頷き、しばらくそのまま抱き合った。


 少し大変な遠征だったけど、すごく意味あるものだった。そんな確信が私の心を満たしていくのでした。




累計pv5000!

累計☆☆☆100!


ありがとうございます!

みなさまのお陰で何とかコンテストで希望を持てる順位にいます(いま17位です!)


まだ☆☆☆を入れてないよ、という方は応援していただけると嬉しいです!!


メリークリスマス! まぁ私は家にこもって執筆してますが(泣)


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