第5話
「えっ?」
あなたは、だれ?
知らない人の声だ。
しかも、男の人の声…
声の主は、どこ?
だが…姿は見えない。
まさか…ユーレイ?
両手を振り回して、何かをつかもう…と、無我夢中であらがう。
すると…フワッと見えない手が、有羽に伸びてきて、自分の
身体が持ち上げられていた。
「え~っ!ちょっと、待って!
もしもーし、あなたはだれ?
私を誘拐しても、何も得なことは、ないですよぉ」
どうにかして、相手に自分のことをあきらめさせよう…と
いう作戦だ。
「ワタシ…お金持ちじゃあないし。
ただの、サラリーマンの娘だし。
キレイでもないし。
ナイスボディでもないし…」
思いつく限りの言葉を、並べ立てる。
「もっと、他にいいことがあるから」
何とか相手のその気を、削いでやろう、と頑張る。
ははは!
とて耳ざわりのよい声が、頭上に響くと、
「安心して。そんなのじゃあないから」
にこやかに、そう告げた。
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