(仮)ブラック企業リベンジャーズ(異世界から転生したら、ブラック企業で働いていた(仮))

離職票の魔術師

第1話:勇者降臨-転生したらブラック企業-

「よくぞ戻った勇者よ!!」


……あぁ、ホントに


俺たちは勇者様一行だ。


相棒として背中を任せた魔術師から進化を遂げた賢者の幼馴染み。


「さぁ、歓迎会だ。


歓迎会のメインイベントが、我々の願いを王が聞いてくれる流れになる」


疲れて適当に聞いていたけど、しっかり聞いててくれた相棒には、頭が下がる。


武道家からクラスチェンジした女怪盗も、珍しく肌が見える服を着ていた。


何度も導いてくれた魔術師も、布面積は変わらないが、透ける素材の服にしていて、エレガントな空気を醸し出していた。


「まだ、疲れが取れてないの?勇者さん?」


「ん~」


疲れかなぁ?


何かがしっくりこない。


歓迎が?いや……だって、小さな村だろうと、城壁に囲まれた町だろうと、歓迎はされてきた。


しかし、何かがモヤモヤする。


そう、【また。】


「まだ、疲れが取れてないの?勇者さん?」


「ん~。なんか、またか、って気がして」


「また、って?」


「いや、歓迎会が、だよ。

小さな村でも、城塞都市でも、みんな俺たちを歓迎してくれただろ。

でも、王都の歓迎会ってのは、なんかゴールの後の手続きって感じでさ」


相棒は目を丸くした後、クスクスと笑った。


「それは勇者さんの性格だからよ。

でも、今日は大事な褒美の話があるんでしょ?」


そうだ。今日は王様の願いを叶える流れの後に、正式な褒美の話がある。

それよりも、この歓迎の熱気に、俺は疲労とは別の違和感を覚えていた。


「よくぞ戻った勇者よ! 伝説の魔王を打ち倒した、真の英雄たちよ!」


王様は玉座から立ち上がり、感動の面持ちで両手を広げた。

その合図で、給仕が大きなトレーを運び込んできた。

トレーの上には、城に代々伝わるという宝飾品の数々が並んでいる。


「これらは、我が国が誇る最高の工芸品。

好きなものを一つ選び、望みを言え!

勇者たるお前たちの願いは、すべて我らが叶えよう!」


目の前に並ぶのは、眩いばかりの宝石。

疲労で早く寝たい俺は、一つも見ずに進言を始めた。


「陛下。我々勇者一行は、長旅と激戦の果てにございます。

その功績に見合う褒美を選ばせていただくのは明日以降に……」


その時だった。


トレーの中央に置かれていた、シンプルな銀のペンダントが、突如として青白い光を放った。


『ピカッ!』


光は線香花火が弾けるような音を立て、真っ直ぐに俺を包み込む。


「さすが勇者だ! 神の加護がある!」

「見ろ! 勇者様が選ばれた!」

「おお、これは吉兆!」


会場中が歓喜の声で騒然となった。

王様も、俺の仲間たちも、式典に参加していた貴族たちも、この神々しい光景に膝をついて喜んでいる。


(いや、選んでねぇよ。

あと、俺の鑑定スキルに反応したのは、そのペンダントだけじゃなくて、王様の指輪も、その奥の魔術師の杖も……)


俺は思わず瞳をきつく閉じた。

鑑定スキルが発動した直後、全身がまるで熱湯に浸されているかのように熱くなった。

次の瞬間、体の底から魂が引き剥がされるような強烈な浮遊感に襲われた。


「また、か」


俺がそう呟いたかすかな声は、歓喜の喧騒にかき消された。


光が消えた後、静寂が訪れる。


王座の間の玉座の間には、勇者・佐藤リベンジの姿はどこにもなかった。


目映い光に包まれた直後、俺は意識を失うまいと必死に堪え、瞳をきつく閉じていた。


――一瞬。


騒々しい王宮の声、歓喜の雄叫び、仲間の心配する声、そのすべてが一瞬で消えた。


「……静かすぎだろ」


誰もいない、無音の状態。

違和感に耐えられず、俺はゆっくりと瞳を開いた。


俺の視界に飛び込んできたのは、見たこともない超高層ビル群だった。


そびえ立つ鋼鉄とガラスの塔、どこまでも伸びるアスファルトの道、そして、聞いたこともないエンジン音。


「……は? ここは、どこだ?」


魔王領の遥か彼方の果てにある秘境か?

いや、俺の【鑑定スキル】が即座に反応した。


『素材:鉄、ガラス、プラスチック、コンクリート。

魔力:ゼロ。

文明レベル:極大。』


そして、自分の身体にも反応する。


『名前:佐藤リベンジ(25歳)。

スキル:鑑定、高速再生、転生者(現代・令和)。』


――俺は、異世界で魔王を倒したその直後、令和時代の日本に、いわゆる【転生】させられたのだった。

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