第16話 王子は誘惑される4

 ララは、罪人は入る監獄の中に投獄されていた。


 その監獄は高い塔にあり、壁のはるか上にある小さな窓の外には、きれいな星々が輝いていた。




 処刑されるのは明日だった。


 その罪状は、敵前逃亡の罪だった。




「もう少し生きたかったな。こんなことで死ぬなんてくやしいな。あのアーサー王子に再び会いたかった。まだ、私のファンでいてくれるのか確かめたかった………… 」




 すると、どこからともなく声がした。




「強き剣士、強き将軍よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」


 ララは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。




「強き剣士、強き将軍よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」




「…………」




「強き剣士、強き将軍よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」




「思わないわ!!! 」




「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」


 壁のはるか上の小さな窓から、黒い影が監獄の中に入ってきた。




 黒い影は監獄にいたララの前の空間に留まると、だんだん実体化し始めた。


 やがて、その姿は魔王の姿に変わっていったが、死を前にしたララに恐怖心は起こらなかった。




「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ララ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」




「悪しき心? 私の中にある? 」




「あるぞ。虚栄心だ。誰もが認めうらやむような美貌をもつ者の宿命だ。その虚栄心を賛美し私と契約するだけで、私は特別な力を与え、運命に抗いこの場所から逃げることができるようになる。」




「…………わかりました。魔王様。自分の虚栄心を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」




 その答えを聞いた途端、魔王は右手をララに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されララを包んだ。




 黒い光りが強くなりララの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだララが現われた。




「暗黒騎士、虚栄のララ、我についてくるが良い。」




「御意。今、道を作ります。」


 ララは魔王アスモデウスの前に進んで、監獄の壁に向かって剣を一閃させた。




 すると、壁は大きく切り取られ、外とつながり外気が吹き込んできた。


 その後、ララと魔王は空にジャンプした。




 飛びながらララは振り返り、自分が閉じ込められていた高い塔をはるか下に見た。


 そして、右手を高い塔に向かって振った。




 黒い光りが高い塔に向かって放射された。


 それは高い塔に当ると広範囲に拡散された。




 高い塔はあとかたもなく粉々となって崩れた。








 アーサーが自分の領地であるゴガン州に帰還した後、それを最速で追いかけてきたように、ランカスター公爵から兵糧と武器が届けられた。




 アーサーは非常に喜んだ後、相談役のショウに言った。




「早い! ランカスター公爵はさすがに早い仕事をしますね。ほんとうに助かります。これで一息つけます。ショウ、他国の状況はそうですか。」




「さすがに先の大敗北の痛手が深く、攻め込んでこようとする国はありません。王子様、もうすぐ第3国軍1万人がここ州都ハイデに配備されます。駐屯地を決めたいのですが。」




「ショウが決めてください。やがて、そこに城を築かなければならない重要な場所の選定です。それは、ショウしかできません。あなたの構想を迷わせるような意見を言うのは止めたいのです。」




「王子様。私のことをそれほど信頼していただきありがとうございます。それでは、御自身の新しい領地の実情をしっかり把握するため、視察なされたらどうでしょうか。」




「大切なことですね。自分の目で見なければ、正しい情報を得ることはできません。メイナードと2人で回ってみようと思います。」








 次の日から、アーサーはメイナードを従者にして、馬でゴガン州の中を視察し始めた。




「メイナード。あなたはここゴガン州の出身です。それに、最強の槍使い、よろしくお願いします。」




「王子様。今回も私を従者に選んでいただきありがとうございました。」


 2人は、できるだけ効率的に多くの都市や町を見ようとした。




 ある町に来た時だった。


 町の回りを武装した集団が取り囲んでいた。




 町の門は固く閉ざされていた。




「王子様。強盗集団ですね、約100人ほどです。私1人で十分です。撃滅しましょうか。」




「メイナード。少し待ってください。何か動きか有るみたいです。」




 町の門が開き始めた。


 すると、そこには1人の騎士が立っていた。




 黒い甲冑を着込んでいるが、鮮やかな赤毛と突き刺すような緑色の瞳はとても印象的だった。




 それを見た強盗達は驚くとともに大変喜んだ。




「おう。最高の美人のお出迎えか。」


「これから、楽しい接待をしてくれるということか。」




「お頭、この町は我々に降伏したようですぜ。案内役の娘にたずねてきます。」


「いやいや。少し待て。あれは女騎士だ。殺気がある。俺たちに降伏するのではないだろう。」




「問題ないですわ。」


 頭目の制止を振り切り、手下は馬を下り女騎士に歩いて近づいた。




 女騎士に5歩くらいの場所まで近づいた時だった。


「よう。お嬢さん。この町は降伏し、我々を中に入れてくれるのをお嬢さんが案内してくれるのだな。」




 手下がそれを言い終えた瞬間だった。


 女騎士の剣が見えない速さで一閃し、手下は命を落して倒れた。




「やろう。なめやがって! 」




 100人ほどの強盗集団は剣を抜き女騎士に殺到した。


 しかし、女騎士は強盗達の動きをスローモーションのコマ送りのようにしっかりと確認した。




 わずか数分で、全ての強盗が命を落しその場に倒れた。




 その後、




 その女騎士は少し遠くで見ていたアーサに向かって深く一礼し、その場にひざまずいた。

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