第6話 王子は辺境領主となる

 アーサー王子は新たに自分の領地になったゴガン州に入った。


 この地方は敵国との国境に接し、たびたび戦場になっているので、実情はかなり悪かった。




 街道を進みながら、アーサーは両側の様子を注意深く見ていた。


 そして、相談役のショウに言った。




「ショウ。どう思いますか。やはり、作物があまり育たないやせた土地ばかりですね。」




「王子様、見かけは低木と雑草、石ころだらけですが、だまされてはいけません。土質はかなりよさそうです。土地の利用計画をしっかり立てれば、大農産地帯になることも夢ではありません。」




「ありがとう。住民達の暮らしも悪そうで、暗い顔をしている者達ばかりで心配していました。農産物が多くとれるようになり、農業以外の他の産業も盛んになればよいですね。」




「御意。」


 ショウはアーサ王子が幼い頃から家庭教師としてつかえ、現在は相談役だった。




 ヘンリー国王は、ショウは身分は低いので王宮で上の役職につけることはできなかったが、軍事・民政等全ての分野で卓越した能力をもっていることを知っていた。




 国王は彼の才能を是非いかしたいと思っており、平民出の側室が産んだアーサー王子の将来のために、その家庭教師にしたのであった。




 実は、ヘンリー国王は平民出の側室アーヤを最も愛し、その子であるアーサーの将来の幸せを第一に考えていた。








 アーサーの一向は、州都ハイデに到着しようとしていた。


 彼の一向は100人あまりだった。




 ハイデは一応城塞都市のような形態をとっているが、城壁は壊れ放題で補修が全くされてなく、城門以外の場所からも出入りが自由な状態だった。




 彼らの出迎えのために、城門の前で数人が立っていた。




「アーサー王子様。ゴガン州の領主になられたこと、おめでとうございます。私はこの都市の市長をしておりますロードリックと申します。さあさあ、まずは我が館にお出でください。」




 アーサーはふと疑問に思った。




「あの――、名前は忘れてしまったのですが。ゴガン州の前領主は今どうされているのでしょうか。」




 アーサーのその問いを聞いた瞬間、ロードリックの顔が一瞬険しくなった。


「ああ、ガル様ですね。もう数日前にこの都市を出て王都イスタンに御帰還されました。」




「そうすると、領主不在の期間が数日間あったということですか。その間に敵国からの侵攻を受けるリスクもありましたね。」




「王子様。代々のゴガン州の領主様は口をそろえて、ハイデに赴任される初日、『島流し』にあったと言われました。それから、王都イスタンに戻されるのを指を数えて待たれるのです。」




「王子様は今回の敵国との戦いの指揮をとられ、少ない兵力で大勝利するという大功績を挙げられました。しかし、失礼ですが『島流し』された。お可哀想かわいそうです。」




 アーサーは微笑んで話した。




「あの――私は『島流し』されたわけではありません。今回の戦いに勝利した褒美として、父上ヘンリー国王にこの地の領主になりたいと願い出て、お許しいただいたのです。」




「えっ! 王子様はこの地の領主になることを褒美とするよう、国王様に申し出られたと―― 」




「私はこの地を戦場として敵を迎え撃ちましたが、この地の住民の皆さんに大きな犠牲を強しいたのです。ですから、これからこの地のために働き栄えさせたいのです。幸せを届けたいのです…… 」




 市長のロードリックはアーサの言葉を聞き、黙り込んでしまった。




「私の考え、変ですか。」




「いいえ。アーサー王子。少しも変ではありません! 」




 市長は頭を深く下げておじぎをした。




「さあ。おまえ達。王子様はさきほどの戦いと長旅でひどくお疲れだろう。私の館に早く御案内するのだ。」




 アーサー達一向は、ハイデ市内の中の市長の館に案内された。




 市内に入ると、多くの住民達がひざまずいて王子を出迎えた。


 彼らは心の中で思っていた。




(神から惜しみないギフトを与えられた知略、武芸全てに全能の英雄。やがて英雄がこの世界から戦いを終わらせ、全ての人々に幸せをもたらすだろう――)




 アーサー達一向が市長の館の中に入ると、歓迎の宴会の席が設けられていた。




「市長殿、私はまだ領主の館を見ていません。先に確認したいのですが。」




「いえいえ王子様、今日はもう遅うございます。我が館でお泊まりください。」


 知らない土地であるので、アーサーは市長の申し出を受けることにした。




 相談役のショウの方を見ると、黙ってうなずいて同意したことがわかった。








 宴会が終了後、アーサーはとても広い豪華な寝室に通された。


(明日はいろいろ場所に行かなければならない。今日は早く休もう。)




 いつものくせで、王子がしばらく本を読んでいるとノックがあった。


 なんだと思って王子が扉を開けると、そこには美しい娘が立っていた。




「何か?」




「アーサー王子様。私は市長ロードリックの娘フレイヤと申します。父からは今晩、王子様のお世話をするよう申し使っております。」




「世話ですか? 私はこれから眠るだけですので、特に何かしていただく必要はありません。」


 そう言うと、王子はドアを閉めようとした。




 ところがフレイヤは、無理矢理体を部屋にこじいれた。


 そして、決意を込めた顔でアーサーを見つめた。




「私をお好きにしていただいて良いのです―― 」

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