十五章 今日の名を受け継ぐ

第44話 今日への階段

今日への階段


 駅の階段を降りると、空気の温度がすっと変わった。


 さっきまでの世界より、どこか静かで柔らかい。


 ホームは薄明かりのような光に満たされ、電車も人影もない。

 それなのに、寂しさはなかった。


 昨日の世界ではない。

 でも、今日と呼ぶには、まだ輪郭が曖昧だ。


 その曖昧さが、妙に心地よかった。



 原田は線路の方を見ながら言った。


「ここは“昨日と今日の境界”です。

 あなたの世界が、ここから始まります。」


 ホームにかすかな風が吹き抜ける。


『俺の……今日。』


「ええ。昨日を終えた者が立つ場所。それが“今日”です。」

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