第31話 昨日の最後へ
声が震えた。
膝も。
手も。
世界は静かなのに、自分だけが騒がしく崩れそうだった。
原田は俺の横に立ち、変わらず穏やかに言った。
「あなたが昨日を“全部”思い出すには、もう一歩だけ必要なんです。」
『もう一歩……?』
「はい。“場所”です。」
場所。
確かに、何かが俺を呼んでいた。
記憶の底で、昨日の終わりが手招きしている。
『この先に……何があるんですか?』
「あなたが昨日を終えた場所があります。」
その言葉は静かだった。
でも、その静けさは残酷なほど真実味があった。
俺は深呼吸をして、足元の影を見つめた。
世界が薄い。
昨日の世界が崩れ始めている。
それでも、進むしかなかった。
『……分かりました。
行きます。』
原田は短く頷く。
「では、昨日の“最後”へ。」
夜の冷たい風が二人のあいだをすり抜け、街灯の光がわずかに揺れた。
俺たちは暗い道の奥へ向かった。
昨日の終わり。
昨日を失った場所へ。
真実がすぐそばにある。
その確信が、重く、冷たく胸に沈んだ。
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