第2話 実家の静かさ


田んぼの横を抜ける細い道を歩きながら、胸の奥が少しざわついているのを感じた。


実家に着くと、玄関の戸は少し色あせ、表札の苗字も当たり前のように同じ場所にあった。


「ただいま。」


靴を脱ぐと、台所から母さんが顔を出した。


「おかえり。……あら、本当に帰ってきたんだ。」


「帰ってくるって言ったじゃん。」


「どうせ直前でめんどくさくなって来ないかと思ってた。」


そう言って笑う母さんは、白髪が増えた気がした。


台所のテーブルには総菜パックとみそ汁の匂い。

実家の、変わらない匂い。


「荷物置いてきなさい。ご飯あったかいうちに食べよう。」


「うん。」


自分の部屋を開けると、そこだけ時間が止まっているかのようだった。

ベッド、古い本棚、学生時代のポスター。


都会のワンルームとは違う、落ち着きすぎる静けさ。



台所に戻ると母さんが言った。


「今日は寒いね。」


「うん、寒かった。」


「今日は寒いね。」


「……さっきも言ってたよ、それ。」


母さんは自分で笑いながらごまかした。

些細なのに、胸に小さな違和感が残る。


「同窓会、今日なんでしょ?」


「うん、夜。」


「飲みすぎないでよ?」


「もうそんな歳でもないでしょ。」


「二十五なんて、まだ子どもよ。」


その言葉の奥に、言えない心配が隠れている気がした。


→ 続きは第3話へ

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