第20話「不思議な声音」
エルに背中を押されるバッピ兄弟ことミラノとナポリ。
その二人にエルが尋ねていますね。
「どうしてわたくしが海猫亭に勤めているのが分かったんですか?」
あ、それ私も疑問に思っていました。
まだ噂になる程の期間は経っていませんもの。
「国営ギルドが来たんや。エル・ボガードという人はいつからいつまでこちらに務めてましたか、言うてな」
あぁ、なるほど。
山狗亭がきちんと正直にそれを国営ギルドにお伝えしたから、エルの副ギルマス就任の認可が速やかだったんですね、きっと──
なんて盗み聞きしていましたら、ばぁん、と再び正面入り口が開かれたのは、エルが出て行って一時間ほどした十五時過ぎのことでした。
「エルさんは無事か!」
「お? おかえんなさいギルマス!」
なぜかそのまま掃除をし続けているルイです。
貴女お休みなんだからもう帰りなさいよ。
「エルさんは無事ですかルイ!?」
「分かんねっすけど、無事なんじゃないすかね」
あの感じだったらルイも無事だろうと思うでしょうけど、ロジンにしてみたら気が気じゃないでしょうね。
ルイに聞いても詳細は分からなそうだと考えたらしいロジンは、カウンターやその奥を見遣るも折悪くどなたも手空きじゃない様子。
ならばと二階の自分の部屋へと駆け込みました。
ギルマス執務室に駆け込んだロジンは、扉にきっちり鍵を掛けて何者かを呼ばわりました。
「何があったか詳細に教えてほしい!」
最初っからそうすれば良いんですよ。
彼にそう頼まれた何者かは、不思議な声音で返事します。
──それ、私ですけどね。
『お帰りなさいロジン。思ってたよりも遅かったですね』
「国営ギルドの連中に少し捕まってね。長引いてしまったんだ──そんな事はどうでもいいんだ。キミなら全部見てただろう?」
『もちろんです。ここギルド海猫亭で起こった事で私が知らない事はありませんから』
私の自己紹介なんてロジンにしてもしょうがありませんから、明日以降、副ギルマスになったエルにしましょうね。
『まずは落ち着いて下さい。今も見守っていますがエルに危害が及ぶ事はない様に思いますので』
私のその言葉を聞き、ホッとひと息ついたロジンはソファに腰掛け、まだ荒かった息を整えようと深呼吸を二度三度と繰り返しました。
「キミが言うなら安心だ。けどびっくりしたよ。『ヤマイヌテイ、ライシュウ』なんて地面に書き残して消えるんだから」
『ごめんなさい。何かと起こって慌てるやら面白いやらバタバタしてましたから』
今思えばほとんど笑い話しで済みますけど、最初はどうなる事かと私も気を揉んだものですもの。
「それで何が起こったんだい?」
────────。
「なるほど。そんな事が…………。ところでそのナポリという人は、その……」
『ええ。どうやらエルにホの字な様ですよ。貴方もうかうかしてられませんね』
恋のライバル登場! って感じでもありませんでしたけど、少し焚きつけておくぐらいが丁度いいでしょう、きっと。
「……よし。ちょっと僕行ってくるよ」
『ええ。それが良いと思います。ごめんなさい、国営ギルドから直接行った方が近かったですね』
「構わないさ。じゃ何かあったらまた教えて」
一階へ降りたロジンはダグアを呼び止めて、山狗亭に行ってくると言い置いて出て行きました。
ギルマスの仕事なんて残業でなんとでもなります。
今彼がしなきゃならない事は、エルを迎えに行く事だと思います。
ダグアも私と同じ気持ちな様でウンウン頷いていますね。
さて。
小走りで山狗亭を目指すロジンは別に良いとして、もう山狗亭に着いた頃だろうエルはと言うと……
大歓待を受けていました。
泣いて喜ぶギルド嬢たち、げっそりした表情に見る見る生気を蘇らせるギルド職員たち。
それを見て、慈しむように微笑むナポリと忌々しそうなミラノ。
ははぁ。その辺りにもエルが山狗亭を辞める理由がありそうです。
一介のギルド嬢にギルマス以上の人望があるのも問題ですもんね。
久しぶりの──と言ってもせいぜい十日だか二十日ほどでしょうが──再会を祝う訳でもなく、エルは速やかに山狗亭立て直しへと動き始めました。
「ミラノさま。部外者ですが立ち入っても良いですね?」
この言葉にギルド嬢もギルド職員も肩を落とします。
帰ってきてくれた訳じゃないんだと察したから。
「構わへん。好きにせえ」
ミラノの投げやりな物言いにも、エルはにっこり笑顔で「ありがとうございます!」と返しました。
そしてパンパンパン! と手を叩いて注目を集めます。
「はい皆さま! ご無沙汰しております! 本日はお手伝いに参りましたので、楽しくギルドのお仕事頑張りましょう!」
それに対して「おぃーす!」「はーぃ!」と良い返事。
一気に活力が漲ります。
エルは部外者という事もあり、業務内容に触れる様な事には自分からは手を出さず、依頼書や資料を仕舞うべき棚ですとか、掲示板ですとかの、言ってしまえば雑用の部分を整理し始めました。
案外とこういう部分がとっ散らかってると諸々の流れが悪くなるんですよね。
もちろん業務内容に触れる様な事も元同僚たちに尋ねられれば的確に回答し、頼られれば鑑定業務も手伝っています。
そして何より、海猫亭での彼女がいつだってそうな様に、たとえ窓口業務でなくても、どんな内容の仕事をしていても楽しそうなんですよね。
もちろん彼女の主たる業務がギルド嬢であるという前提のもと、でしょうけど。
ギルドが混み始める夕方に差し掛かった頃、山狗亭に辿り着いたロジンが見たものは、業務に滞りがある様には見えない山狗亭の姿でした。
「お? オタクあれちゃうん。海猫亭の瓶底丸メガネギルマスちゃうん?」
「あ、どうもお世話になってます。海猫亭ギルマスのロジン・バッグと申します」
「儂はここ山狗亭ギルマスのミラノ・バッピ、通称ML・B言いまんねん。よろしゅうしたってや」
意外と滑らかに挨拶を済ませた二人のギルマスは、山狗亭職員たちを引っ張り楽しそうに仕事するエルを見遣ります。
「今日はザマス──ボガード女史に世話んなってしもたわ。すんませんでしたなぁ乗り込んでもて」
「いえいえ。エルさんも楽しそうですし、結果オーライ、という事で」
和やかに会話する二人。業種的にはライバルですが、意外と良い関係を築けそうかも?
「あないな凄腕みすみす逃してもうてたやなんて、大損害やで」
それに対してロジンは何も言わず、瓶底メガネのその下の、口許だけで目いっぱい笑って見せたんです。
「…………けっ! くそ忌々しい!」
ミラノの気持ちも分からなくないですねぇ。
〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜
海猫亭のある街ボルオエスベの地図!
できました!
https://kakuyomu.jp/users/hamahamanji/news/822139841625005166
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